別れ

このプロジェクトが始まった時から現場で一緒に働いていたTomが今朝Ebeyeを離れた。メインコンとサブコンの関係で組織図的には彼は僕の下にいたのだが、海外プロジェクトをいくつもこなしてきた彼からは学ぶことが多かった。現場では毎日予想もつかないことが起こるが、それぞれの問題に対しての対処の仕方などマニュアル化できない事、管理者の心得は彼から学んだ。

最初の数ヶ月はコロナで止まっていたプロジェクトの再開準備を二人で行い、何とか再開させた。この時は契約していたローカルの会社がコロナ期間中に別のプロジェクトが決まりワーカーを派遣してもらえなくなり、新たな会社を探すところから始まった。なんとかワーカーの確保ができたが、その後も問題は次から次にやってきた。その度に頭を捻り、課題をクリアしていった。中でも時間がかかったのは工事に使うコンクリートの強度を出すための試験練りだ。日本では生コン業者に強度を量を伝えれば運んでもらえるが、この島には生コン業社がないので現場でねらなければならない。コンクリートは基準強度が決まっていて、毎回テストピースを作り決められた期間養生し強度を測定するが、なかなか思う様な強度を安定して出すことができなかった。コンクリートはセメント・水・砂・砂利・混和剤を混ぜて作るが、砂と砂利は海底から取れるものしかない。サンゴが固まってできた砂と砂利は比重が軽く強度が出にくい。その分コンクリートの量を増やさなければならないが、それぞれどれくらいの割合で入れるのが適正なのか実際に練って見なければわからなかった。試験の回数は100回を超えた。初めて規定強度に達した時はTomと一緒に喜んでガッチリ握手した。

そんな彼は今回長年勤めた会社を退職すると言う。元々シンガポールにいたが、コロナを起にパートナーが住むオーストラリアに移住していた。その間に結婚もして新たな生活をスタートさせていたので、会社を辞めるタイミングを探っていたらしい。人それぞれその人の人生があり、その選択は尊重すべきなので彼の選択に対して応援してあげたいと心から思う。今朝フェリー乗り場に見送りに行った時、途中でプロジェクトを離れてしまって申し訳ないと言っていたが、そんなことは気にしなくていいよと返した。人生は一度きりなのだから、自分が生きたい様に生きるのがその人にとって一番大切なことだ。そんな深めの話ができる相手だった。

元々シンガポール大学を卒業している秀才だからこれからも別の仕事で活躍するだろう。この厳しい環境の中、共に苦労した仲間との別れは寂しいが、またどこかで会えたらいいねと言って別れた。

彼の今後の活躍を祈りながら今日も工事現場で働くのである。


出発前日の夜、アパートのオーナーがDinnerを振る舞ってくれた


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