安西先生 【第九話】
メッセンジャーでやりとりをしていた。力強いその文は、気持ちの折れそうな私を踏みとどまらせてくれた。やりとりを続けていたら、急にある漫画の名言が浮かんできた。私は思い立ち、その場面の画像を探し、送信した。
その数日後、YouTubeのおすすめに出てきたアニメ版のスラムダンク。昔一度漫画を通読したくらいで、内容をそこまで覚えていない。
プライムビデオで全話配信中だ。まあ観てみるか、で気付けばもう第98話。私が目を止めたのは、主人公の高校のバスケットボール部顧問を務める安西先生。作中、彼のセリフの大概を占めるのは、
“ホーッホッホッ”
入院中に胴上げをされて発する言葉は、
“ホーッホッホッ”
この白髪仏は私に大きなヒントをくれた。安西先生は肯定も否定もしない。返す言葉に感じる温かみ。不適に笑みを浮かべ、うまいこと言ってその気にさせる。
とにかく“待ち”の姿勢なのである。とにかく待つ。普段は言葉を発さない。笑ってるだけ。だからいざという時の一言の重みがある。
さて、何度か申し上げた通り、現在は火星逆行中である。こちらの動画を観ていただきたい。2018年W杯も、現在同様火星逆行中であった。2018年は6月27日から8月27日の間で発生し、試合は7月2日のことである。
相手はベルギー。日本代表はそのことを知る由もなく、ポンポンと2点をとる。しかしその後3点を取られて逆転負けを喫した。
何故負けたのか。師は“火星逆行中はこちらから仕掛けてはいけない”と説く。何故なら火星は攻撃の象徴である。その星が逆行している時に、こちらから攻撃してしまうと“カウンター”を食らってしまうのだ。
2022年の火星逆行は10月30日から2023年1月13日まで続く。カタールW杯は2022年11月20日から12月18日。つまり火星逆行期間にすっぽりと収まる。
11月17日に行われた、W杯本番前最後の対外試合であるカナダ戦。日本は前半に1点先制したあと、前半と後半ロスタイムに1点ずつ入れて負けた。ベルギー戦同様、後半ロスタイムに失点。これが火星逆行の威力なのか。さてカタールW杯の初戦は11月23日の強豪ドイツ戦。どう戦う?
反撃のタイミング、つまりカウンターのタイミングを伺うのである。ボクシングなら相手に打たせておきながらその隙をみて一発をお見舞いしてやる、スコアで勝敗が決まるスポーツなら先に相手に点を与えてしまおう。ということだ。
ここで安西先生の姿勢をみてみよう。
常に待ちの姿勢。戦局がどうであれ、待って、待って、待った先の大事な場面で声ををかける。“君たちも強いチームですよ•••!!”、“あきらめたらそこで試合終了だよ”。その一言で形勢をひっくりかえす。安西先生の基本姿勢は、火星逆行時に用いると更に威力を増すのだ。
実家における私のポジションは、“いつも一言多い”。余計な一言で場を乱し続けてきた。後出しジャンケンではなく先出しじゃんけん。先制攻撃で負け続けてきたのだ。これは私の被害妄想か。
自分から仕掛けたら、失敗する。仕掛けるならば、相手が仕掛けた後。それが火星逆行中の基本戦略である。
安西先生に少し似た、その白髪のおじさん。
彼は“オリジナル・チキン”レシピを伝授して、売れたチキン一羽につき5セントを得るというフランチャイズビジネスを始めた。
62歳のことだった。
もちろん、時間は有限である。大切にしないと。