終わる日記(2024/12/10)
2024/12/10
ジェットストリームの新しいインクが出たが、前と比べて違うのは滑らかさになっていて、滑らかさが増しているらしく、そんなニュースが出ていたかもしれない、という同期の話だった。0.5ならあるがと言った。0.7はもっているがと言った。0.7はドイツ的だと言った。0.38は日本的。どこかで買ってきて、すぐにもどってくる。試してもらいたい、電極よりもジェットストリームだと言う。電極よりもジェットストリームを選ぶ人であるのは疑いようのないことだと言った。ゴミ箱のキムワイプを広げて、本来の目的外の用途であることを言われないように、せめて言われても軽症で済むようにと、協議の結果、折り目をつけて半分に切り裂くことにした。それにもかかわらず折り目とはてんで外れたところから避けていった。切れ込みは歪な図法で描かれた奇妙な世界地図のようで、それは派手な破れ方に見えたが、面積的にはちょうど半分といっていいくらいだった。それを見て、ほっと安堵する。店頭の試し書きにありがちな8の字を連ねて書くと穴があいていった。ペン先がつっかかっている。キムワイプだからかと言った。キムワイプではわからないだろうと笑った。増しているのは滑らかさだったかと言っていたかと言った。そういう話だったと思うがと返した。マイルドライナーみたいな、ぼやっとした色合いのボディはいわれるようなアースカラーだろうか? しかしマイルドライナーならまだしも、ジェットストリームに求めるられるものではないと思った。それを言った。快速列車みたいだと言って、快速列車の名前がいくつか挙げられた。技巧的でなくなってしまったと思った。ウケるのかと言った。それならこちらのリフィルをそちらのボディに入れればいいと言った。グリップの観点からいえばむしろ書きにくくなったと言った。両手に一本ずつジェットストリームを握りしめていた。
居室に帰って、やはりそれを拝借した。ゲームに熱中している同期の隣から、ちょっと失礼、と少しのあいだだけ拝借することを明示的にするつもりで言った。実際、筆箱から拝借することは驚くほど造作もなかった。こころなしかフッと鼻を鳴らしたように見えた。謎解きの紙には書くべきではないとたしなめられているところを見ると、逆さから眺めるか、あるいは透かして見ることのいずれかが、少なくとも謎を解くための鍵であるのだろうと察しがついた。そのことについて考えているとわかったのか透かして見ることだと同期が言った。引っかかり、あるいは滑らかさは確かめようがなかった。左利きのせいもあった。筆ペンや万年筆はとうぜんそうで、だからこそ早いうちに矯正されるが、ボールペンもボールの引っかかりが違っていることは知られていない。右利きは滑らかに引き伸ばすが左利きは押し込むからボールがより引っかかるのだ。縦線は同じだとしても、そもそもの文字が左から右に横棒を伸ばすからだ。選挙の時、ユポ紙の書き味のよかったことをよく覚えている。どこの馬の骨ともわからない鉛筆でもそうだったと言った。ペグシルだってさえ、と言った。それなら政党名を略称ではなく正式名で書きたくなると言った。国民審査で全員に丸をつけると言った。キムワイプのころからそうだったが、ボディが刷新されていることが明らかな致命的な問題だった。滑らかさはすぐにそれとわかるものだと言っていたと言った。中身のリフィルを2本とも取り出して、反対にして、そっくりそのまま元にもどしておいた。それはささやかないたずら心からだった。書いたら引っかかりで反対だとわかったとあとになって言った。取り出した中身を隣り合わせに並べて見せて、黄色いほうが新しいほうで黄色くないほうが古いほうで、解体すれば明らかなことだがその前に書き味から明らかだったと言った。今、それを見せている。反対に入っていたと言った。両手に一本ずつ握りしめていた。違和感があったと言った。誰かが反対に入れたからだと言った。それはささやかないたずら心からだと言った。