終わる日記(2024/10/12)
2024/10/12
朝起きて、母の朝食を食べる。バゲットにレタスとハムとクリームチーズがサンドされたものとセロリのコンソメスープ、サンつがるを1/4玉。さんぴん茶とともに。
境港へ行く。目的地は水産物直売センターという市場で、昔は足繁く通っていたところだ。兄が魚を捌くのが好きで(おそらく兄は、小学校の低学年のころから捌きはじめていたと思う)、よく週末に家族でドライブがてら新鮮な魚を調達しにいった。兄は帰るなりそれを捌いてみんなに振る舞った。あるときはアオリイカを買って兄がイカソーメンにして振る舞った。またあるときはアカミズを買って兄が刺身と鍋にして振る舞った。
今日は晴天。青い秋の空をとんびが悠々自適に飛び回っている。今夜、我が家は稀代の珍客を迎えることになっている。そして僕らは今、彼ら彼女らを饗すための食材調達に来ている。山陰にわざわざ来てもらったからには、ぜひとも山陰の海の幸を味わっていただきたいと思って。僕らは彼ら彼女らに会えることを心待ちにしていたし、彼ら彼女らもまた僕らに会えることを心待ちにしていた。と思う。そして僕は、そのためにこそ、大阪から松江に帰ってきた。
まずはカニ。紅ズワイ。カニの甲羅部分のミソを除いた(この時期のカニはそもそもミソが入っていないらしい)6肩分のシリーズがあって(かに半杯(ミソを除いた)で1肩なので6肩だと3杯分になる)、サイズと身の入りように応じて、3千、4千、6千円の3通りがずらりと八百屋にしてある。6千円にはいちおうミソも添えてあるらしい。豹柄でこそないが大阪っぽいおばちゃんが、お兄ちゃんもう食べたと言うのでまだ食べてないですと言った。関西弁でこそないがまくしたてるようにしゃべる。おいしい剥き方を教えてくださいと言うと、3千円の中から見たところいちばんさえないひと肩を選びとって、根元をまず切り落としてから関節の下に印をつけるようにちょこんと切り込みを入れる。それから細くなった先のほうを切り、ところてん式に身を押し出してそれを手渡して、このくらい自分でやりなさい、みたいなことを言った。4千円のやつを3千円に負けてくれないかとなるべく冗談だと伝わるように冗談めかして言うと、それなら他に行ってくれと言うのでそうですよねと言った。しかし本当なのだろうか。今はいちばんいい時間帯で、観光客もわんさかいるから殿様商売をしているらしかった。
刺身もほしい。今日、兄は珍客とともに夕方に家に帰ってくることになっていて、悲しいかな今回は兄が捌くことはできない。だから今日は、その場で捌いてもらって、サクのところまでぜんぶやってもらおうということになっている。市場の中をぐるっと一周してすべての店を見て、結果、最初に見ていたところに戻ってくる。石鯛をくださいと言った。サイズの異なるものが2尾があって、その差は千円だが大きさ的にはかなり違うので、大きいほうにしてくださいと言う。もうひとつをどうしようかと悩んであれこれ見て、馬頭鯛と鮃の二択まで絞り込む。バトウは山陰っぽいからいいけど石鯛と系統が被るし鮃のほうが立派やけん鮃かねと母が言った。刺身になりますかと言うとなると言うので、じゃあそれをくださいと言った。捌いてもらってもいいですかと言うといいよと言って、よく見とってねと腕をまくった。紅ズワイと石鯛と鮃を買ったと兄にLINEで報告すると、だいぶ買いましたね、すみませんと返ってくる。
プロの仕事というのは恐ろしいもので、すさまじい速さでびゅんびゅん捌いていく。すぐに作業をすましてしまって、サクとアラにわけてますんでと手渡した。ちゃんと見とったかねと言うので、はい次からはもう自分でできますと言った。
海岸通りを冗長的に走らせる。大型の漁船がボラードで繋留されていて、その上をとんびが気が触れたみたいに飛び回っている。エサに群がっているんだろうか。対岸には港町が広がっていて後ろには緑の森がそびえている。ここは鳥取の境港で、すぐ対岸に見えるのは島根の松江。研究室の最初の懇親会で出身は島根の松江だと言ったとき、じゃあお土産はカニだなとボスが言っていた。江島大橋を登って県境をまたいで島根に入ると、下りに差し掛かったところで中海が一面に広がってくる。パノラマ・ビューだなと父が言った。あのおばちゃん、びた一文も負けてくれんかったねと母が言った。ありがとうございます、皆の思い出になるでしょう、とLINEから兄が言った。
ちょっと中海が見たいと言うと父が車を停めてちょっと中海を見る。ごろごろした岩場を母が軽快に飛び移っていく。飛び石の母。フナムシがいる。すばしっこく走っている。おるおるちっちゃい魚がと母が言う。けんた食堂やってと母が言うのでけんたのポーズをやってぜひやってみてねと言った。振り返ると父が車の前に仁王立ちしている。ボベもついとるよ、と母。ボベさあ、誰も取らんけん、あるよボベ。ハゼはどうなん? ハゼ釣りはおらんかね? ボベいっぱいあるんよ。
フナムシは岩陰へと逃げていった。ボベがあるんよ、ボベ食べる? ボベごはん。たかゆきさんね、ボベごはんはサザエごはんよりうまいって。で、それすみちゃんに言ったら普通にサザエのほうがおいしいでしょ、なんなんボベってって言っとって、と母。
家に帰って、珍客を迎える準備をする。父母は、ここ2週間くらいはこれの準備にかかりっきりになっていたみたいだ。我が家は、今、我が家史上最も美しい状態にある。玄関を入るとユーカリの葉っぱが一輪挿しで生けてあって、まずそれがいい。珍客用に用意したという短剣模様の座布団も感じがいいし、どの部屋も掃除が行き届いていてほこりひとつない。
というと、ちょっと言い過ぎ感がある。とはいえかつてなく掃除が行き届いているのはそうだし、家具は小綺麗に整えられているし観葉植物もいいアクセントになっている。布団はしまむらで買ったやつで、西川のやつじゃなくてよかったんかと父が言った。カニの剥き方講座、みたいな動画をYouTubeでみつけて僕も勉強する。ズワイガニ用と書いてあってそれっぽい。シャツはクロコダイルのやつで、ラコステじゃなくてよかったんかと父が言った。
カニのしご。直前のYouTubeの通りにやるがダメで、結局はおばちゃんのやり方がいちばんいいということに気づく。根元をまず切り落としてから関節の下に印をつけるようにちょこんと切り込みを入れ、細くなった先のほうを切ってところてん式に身を押し出したらオッケー。今、ダイソーですと兄からのLINE。父が応援に駆けつけて、ふたりがかりでペースを早めていく。足はシステマチックにたんたんとところてん式に押し出して、爪はきれいに慎重にカットしてぱかっと開く。甲羅の部分は縦に真っ二つに。1杯分(つまり2肩分)でちょうど皿1枚。爪の元は盛らなくていいのかと父が言うのでまあいいでしょうと言ってラッキーとふたりで食べた。ビールがいると父が言った。ざっくりやって、残ったところは我々がほじくって食べればよろしい。大名おろしみたいなものだ。
そろそろ着くはずなのになかなか着かない。まだかなと言う。なにをしているんだろう。車の音がしたと父が言うので外に出るがどこにも見当たらず、あれ、おらんやんと母が言った。なんでおとうさんウソばっか言うの、と母が言う。しばらく待ってもやっぱり来ないので不安になってもう一度外に出ることにする。外はもう真っ暗になっていてあたりは静まり返っている。きのうはあした、まっくらクライクライ、と『まっくら森の歌』が流れている。光がさしてきて見ると田舎の軽トラだった。しゅーんと音がしてきて見ると向こう三軒両隣のボックスカーだった。ジョン・ディクスン・カー。ちかくてとおい、まっくらクライクライ。
通りまででて待っていると大きめの車がやって来るので今度こそと思って手を振った。よかったねと母が言った。駐車場にバックで停めるのに苦戦して30回くらい停めなおす。扉を開けると運転していたのは兄で、蛙化しちゃったと言うとごめんと言った。稀代の珍客が車からぞろぞろと出てきて、おじゃましますと言った。久しぶりやねと手を振りながら僕に言うので、こちらこそと言った。
父はみんなが集まるまで我慢していたらしく、体をくねくねさせて落ち着かない様子だった。これなんて読むんと兄の揮毫した毛筆を見た珍客が言うので、これ結局ようわからんけど、ようはこの世にあるすべてのものを天がおおい、地がのせているということだと兄が言った。
ようこそと父の音頭で乾杯した。みんなでプレミアムモルツ。母が珍客をひとりひとり指しながら名前を言い当てていくと全問正解して、さすが予習に抜かりがないですねと珍客のひとりが言った。
自己紹介。まずは兄から。名前は〇〇、学籍番号は△△で、出身高校は□□です。好きな学術領域は免疫学です。趣味はシルクロード展に行ったことで、よく魚を捌きます。好きな魚は石鯛と鮃ですと言った。
順番は学籍番号でいきましょうとなり、次の番になった珍客がなになにを言えばいいんだっけと兄に言う。名前と学籍番号と出身高校と、あとは高尚な趣味、それからおべんちゃらポイントですと兄が言った。
珍客のひとりは、高尚な趣味は小説を書くことだと言い、ラノベは高尚ではないと兄が言った。珍客のひとりはみんなを巻き込む力だと言って、それこそ今日のこれも僕が言い出したことなんですと言った。珍客のひとりは珍妙な高尚な趣味を持っていて、持っている小銭を会計の機械にぜんぶ入れたときにお釣りが何枚出てくるかを瞬時に言い当てることができると言った。今日はみんなで宍道湖沿いでランニングをしてきたらしく、彼は琵琶湖にルーツをもつのにもかかわらず、琵琶湖より宍道湖のほうがよかったと言った(おべんちゃらポイント)。珍客のひとりは、高尚な趣味は旅行だと言った。少し前に隠岐島を訪れたらしく、隠岐の景色のよさは、これまで行ったなかでもトップ5には入ると言った(おべんちゃらポイント)。そのトップ5はとんとんで横ならびだと言うと、ならトップ3でええやんと別の珍客が言った。
珍客の自己紹介が終わると、次は僕の番だと言われ、何も考えていなかったのでけんた食堂をやった。ほんとにそんな感じだと珍客が言った。それに続いて兄もけんた食堂をやった。兄のけんた食堂は陰キャのけんた食堂で、乾きすぎていると珍客が言った。
母の手料理は大御馳走。まずは石鯛と鮃の刺身。市場でもらったサクを、母が刺身に切って盛り合わせにしている。つまには、しそ、大根、きゅうりに加えてサニーレタス。大根は桂剥きにしてスーパーのみたいにしゃっしゃやるやつと違って手間がかかるからあまりなくて、つまのボリュームがなくなったからふんわりさせるためにサニーレタスにしたという。これはばあがやるやつなんよと母が言った。もうちょっと高さだして綺麗にしたかったけどと母が言うと、素晴らしいですと兄が言った。
カネモリの木桶魂でいただく。杉の木桶の中で熟成したもろみを使用した再仕込み醤油で、それにカメヤのおろし本わさびを添える。めちゃうまいと珍客が言った。石鯛なんて食べたことなかったですと別の珍客が言った。鮃はクドアが怖いって昨今叫ばれてるけど、ちゃんと刺身用で売ってくれてたんだと兄が言った。
裏月山、田酒、豊の秋、多賀治。
生ハムサラダ。生ハムの中に、しそときゅうりと貝割れと小ねぎとマヨネーズがくるんである。普通、生ハムサラダといったら洋風だが、イタリアンな感じにはしないで和風に仕上げているところがいいらしい。母いわく、そこが栗原はるみ的だという。唐揚げ。塩と生姜の味付け。コウケンテツのレシピだという。祖父にもらったすだちが添えられている。いかのナウ炒め。オリーブオイルとニンニクと唐辛子をちょっととシソ。シソが入るのがポイントで、これもやはり栗原はるみ的だという。たしかに爽やかさが加わっている。母はイカの下ごしらえを昨日済ませていた。ハイカラ炒めと言ってもいいと言うと、変な言葉使わんでと母が言う。ようはペペロンチーノの味だ。
画像記憶について。あれ広めたの実は僕なんですと珍客が言うので、小さい頃からたしかにそうだったと思うと僕が言った。小学校時代の西暦をひとつ言ったら、その日の給食の献立を言うことができるのだと言った。201×年○月△日と言うと、デザートに焼きプリンタルトが付いとったねと兄が言う。ちょっと贅沢な日やったんやと珍客。あとはソフト麺ミートソースだったよねと言うと、違う、湯葉のすまし汁だったと兄が言った。湯葉のすまし汁なんか給食ででんやろと珍客が言うので、山陰の給食をなめたらあかんと言った。給食センターか学校内に給食が入っているのだとクオリティに雲泥の差があるとその珍客が言うので、どっちが泥なのかと訊くと、そんなもん給食センターが泥よと言う。給食トークに花が咲く。
見たら眼鏡の横でパシャって撮って記憶してるもんなと珍客が言うと、それ眼鏡やんと兄が言った。ほんと尾ひれついて、背鰭までついて胸びれまでついていってと言った。
えのきを豚肉で巻いてからお酒で蒸して、聖護院かぶらのもみじおろしぽん酢をかけたもの。母いわく、これは無名のYouTuberのレシピ。かぼちゃサラダは私風で、レーズンと玉ねぎときゅうりと魚肉ソーセージが練り込んである。炊き込みご飯は舞茸と椎茸としめじとにんじんと油揚げとごぼうと鶏と枝豆が詰まっている。母によると、こんにゃくを入れることもあるが今回はやらなかったという。舞茸がおいしいですと珍客のひとりが言った。秋を感じますと別の珍客がつづく。
舞茸が入るとおいしくなる、と珍客が来る前に母が言っていた。北海道産の枝豆で、これ入れたら色合いが綺麗になってね、炊飯器の釜の中で――5.5合炊きなんよ――混ぜたからぎゅうぎゅうで混ざらんかったんよ。これは申し訳ない。具が偏ってて下のほうにはあんま具が入ってなかったんよ。寿司桶ひろげてやれば下のほうもよく混ざったろうに。ほんとはね、ナスとピーマンの揚げ浸しもやりたかった。でもできることとできんことのなかで取捨選択したんよ。とにかく人数が多いから、食べた人と食べんかった人がでてくると思ったけど、蒸し豚とかでもよかったんだけど。あたしゃもいろいろ考えたんよ。あたしゃ、レパートリーは無限だから、と母。
大学の友人は以降も付き合いが続くと父が言った。いいのかと珍客が僕に裏月山をお酌すると、気をつけてよ前科持ちなんやからと母が機先を制する。この前、17回吐いたんだと言うとおもしろいと珍客が言った。なにがおもしろいって、17回ぶんちゃんと数えたことだと言った。それこそこの前にも大学時代の友だちと広島で会って、会った瞬間、当時の感覚にワッと戻ったという話を父がした。急に人生の先輩やんと兄が言った。
おでん。おでんうれしいと珍客が言う。大根、たまご、半平、がんもどき、こんにゃく、糸こんにゃく、ちくわ、ごぼう天、牛すじ天ぷら、練り物はセットでいろいろと。牛すじ、餅巾着。からしはあんま食べんけん賞味期限切らしとって納豆のやつしかないわ、あ、柚子胡椒ならあるけどと母が言った。もへじの柚子胡椒がなくて兄が作ったものがあるという。アゲハ蝶のフンの香り。柚子胡椒作るってなんなん? けんた食堂やん、ゴーグルした? と珍客が訊くと、いや眼鏡かけてるからと兄が言う。けんた食堂の作り方まんまってわけじゃないけど、いちおうは動画見たよ。ほんとなんでもできるなと珍客が言った。
兄はほんとうになんでも作る。たけのこも皮付きから茹でるし、柚子胡椒もふき味噌も栗ご飯も手作りしていた。餅巾着は餅を半分だけ使ったという。おなかいっぱいになるけんね、かんぴょうでしばったらかわいかったけど、爪楊枝だけん注意してね、いい大人だけんねと母が言った。おでん専用の鍋があるなんてすごいですねと珍客が言った。ロールキャベツおいしいですと言うとウィンナー白菜だよと言った。うでんおいしいですと言うとおどんだよと言った。
鮃の薄造りと石鯛のあら汁が追加でやってくる。兄が台所に立って、さっき作っていた。薄造りにかぶらポン酢を掛けてすだちを搾って小ネギの小口切りを散らす。サイコーやーと珍客が言った。
過去の話になる。屈辱的な辱めを受けて、でも自分がなんも悪いことしてないのになんで自分がやめんといけんのとか言って、逃げ出したら負け犬みたいになると思ったんか、頑なにやめんって言って。兄はいつもそうだった。悔しかったって泣きながら言って、俺がどんだけ嫌な思いをしているのか、俺の前で…と家に帰ってから僕が言ったと母が言った(俺は僕になった)。兄は小さい頃からあれがほしいこれがほしいとかまったくなくて、むしろもったいないから買わないでほしいと言う性格で、祖母から靴でも買ってとお祝いに五千円をもらったときも、自分には安価な靴を買って、わしにはもういいからと言って(小学生時代の兄の一人称はわしであった)僕のサッカーのスパイクを買うのにあててほしいとその残高を僕に譲った(僕はそのお金でイグニタスを買った)。幼稚園の遠足のときもそうだった。遠足だからいつもの横かけの園バッグではなくリュックサックを用意してくださいと言われて、だけど買い物行くよって言っても行かないって言って、物欲もこだわりもなくて家で折り紙とか好きなことしたかったんじゃない、で、結局買い物行ったけどいらないって言って、園バッグでいいんだと頑なに譲らなかった。園バッグにもお弁当入るんだとか言って、さすがにリュックを用意しろって言われてたからベージュの無印良品の無地のリュックを買ってね、あまりにも殺風景だからミッキーのアップリケをつけたんだけどと母が言った。
デザート。牛乳寒天とぶどう。シャインマスカットと甲斐路で珍客からのおもたせですが。ぶどうは頂点の皮を口で剥がしながら食べていって、あるていど剥き出しになったところで玉ごと食べる。牛乳寒天を取り分けていると最後に皿がなくなって、入れ物がないと言うと両手で受けてねと母が言った。
鳩時計がパッポーとあったかく鳴く。赤い屋根の家から顔を出した鳩が時刻の数だけ鳴くことになっている。もう11時。そろそろ寝ようと言った。明日の朝マズメに間に合わないと言った。鳩はお利口で、明るいときには鳴くが、暗いとき、みなが寝静まった夜中は鳴かないことになっている。でも一瞬だけ顔を出して鳴きかけて、ああ夜かと気づいてひっこむのがかわいいんだと母が言った。12時になったらそれを見ようと珍客が言った。この鳩時計は兄が誕生日にほしいと言って買ったもので、独り暮らしをするタイミングでさすがにいいと言ってここに置いていったんだと言った。上に布団敷いてあるからいつでもどうぞと母が言った。
僕の部屋には虎がいる。山月記に出てくるみたいなリアルな虎だけど大丈夫かと母が言うと、ぜんぜん大丈夫ですよと珍客が言った。