フライミー・トゥー・ザ・ムーン #七夕トワイライト
アパレルでユニクロが世界を席巻したように、文章も軽い方が読まれる気がします。重厚さなんて誰も求めていない。希望の星はどこにあるのでしょうか。Fly me to the moon 「わたしを月につれて行って」とフランク・シナトラが歌った頃、希望はどこにあったのでしょう。
In other words, hold my hand
In other words, darling, kiss me
ほかの言葉でいうと この手を握って
ほかの言葉でいうと ねえ。キスをして(なんて言わせないで)
In other words がスキです。恋には、”違った角度で見ると...”なんて野暮なコトバは似合いません。マーケティングも、プログラム思考もありません。ほかの言葉で言うしかない。そんな気持ちを大事にしたい。
この歌はAKBがボクって男子の主語で歌うように、男性が女性のコトバで歌う曲と言われてきました。時代は変わります。でも”恋”は変わりません。Fly me to the moon ”アポロ11号と人類が月に持ち込んだ最初の曲”を聞きながら、七夕の夜 少しだけお付き合いください。
金曜トワイライト号外 #七夕トワイライト
彼女の横で手をあわせていた。季節外れの紅い花を挿そうとしたけど、お墓の花差しは凍っていました。マイナス7度。ダイヤモンドダストが輝いていました。お線香の煙が映画のスモークのように流れている。空はどこまでも澄んでいました。北の大地ってなんでこんなに大きいんでしょう。ほかの日本とは違う、どこにもない空がありました。僕は何をしているのでしょう。ヒートテックを買っておいてよかった。待ってもらってたタクシーに乗って市内に戻りました。帰り道、僕たちは何も話しませんでした。
リフトを降りてスノーボードの板をはめていた時、転んでぶつかってきたのが彼女でした。何度もあやまる彼女。白い帽子が落ちて長い髪をポニーテールにしているのが見えました。”いやいや。大丈夫ですから”と逃げるように滑りだした。別に悪いことはしてないのに。でもね、ニセコは広くてそんな事はスグに忘れてしまいました。何キロも続く先に、白く輝く平野が見えます。やっと途中で転んで真っ白になってる友人に追いつきました。”仕事のメールが気になって。ろくなもんじゃねぇ。コイツのせいだ”。古い友達は、腕時計を外してポケットに入れると、タバコを吸い出しました。”東京はなかなか逃がしてくれないねぇ”。雪の上にひっくりかえります。僕たちは、夜のススキノで何を食べようかとか、どこのBar行こうかとか、クラブはナイなとかそんなハナシばかりしていた気がします。いいものです。何年経ってもくだらない話しをできると言うものは。
あの頃は、2月になるとタイ北部のチェンライという国境ちかくの町でのオフトレーニング合宿に連れて行ってもらいました。何キロも信号が無い道。タイは真っ平(まったいら)の国です。信号が無ければ休憩はありません。プロ選手たちは毎日200キロ以上走るのです。その話しを聞いて”脱皮するならコレしかねぇな”と思ってお願いしました。朝8時すぎから、夕方の16時すぎまで毎日走る。見た事の無い景色をたくさん見ました。帰りには塩を吹いてジャージはまだら模様に白かった。1か月で3000キロ以上走りました。雨季に入る前の乾季は練習によかった。きつくても幸せでした。走る。ただそれだけですから。
スキー場のカレーってなんで高いのでしょう。高いのに不味い。不味いけどうまい。空いている席を見つけました。生ビールとカレーを持ってテーブルに戻ると、隣は白い帽子の子でした。 ”あ・・・” 中年のオッさん2人と、女子2人。2人は札幌から来ていました。”どこの店が美味しいの”とか、”最近の流行はどこなの”とかたわいのない話だった気がします。2人はネイルのお仕事をしていました。お詫びだということでススキノで再度集合して軽く吞むことになりました。まぁオッさん2人でBarをはしごするよりイイかもしれません。僕たちはまた長いコースをガンガン滑りにいきました。今を生きるのに精いっぱいでした。”なにも期待しない”、”なにも期待されない”。なにもかも失って”空っぽのオッさん”には、現実は遠くて何も感じなかったからかもしれません。すべて白かった。モノクロのように色が無い景色でした。
「ひとりになっちゃった...」
何もかも失うと、青白い光が見えるようになります。福岡から札幌の距離は2000キロくらいでしょうか。タイ合宿で走る距離よりは短いです。それに新千歳に飛ぶ方が羽田より安い。何もない空っぽな人生。色の無い風景。冬は終わりそうですが北の大地の春は来ません。彼女に歩幅をあわせて小さく歩く。そして何度も転びました。でも痛くなかった。家族を失い遠く田舎の親戚とも離れた札幌の生活は、分厚く積もった雪に埋もれたクルマのようでした。実際に彼女の軽自動車は、春まで雪に小さくなって埋もれていました。
ガスヒーターを消す。しんしんと積もる雪。ササラ電車が走る季節。小さなベッドで遭難した登山者みたいに重なり合って寝ました。”朝が来ない夜はない”と言いますが、朝が来ても明るく無かった。ちいさく丸まってる彼女の髪のすき間から見える寝顔が好きでした。起きるといつも抱きついてくるのは”怖い夢”をみたのでしょうか。何も言わなくてもよかった。ただ、それだけでよかったのです。
その年のタイ合宿は4週間の予定でした。その中間の土日はオフ日です。金曜日のトレーニングが終わるとシャワーを浴びて着替えました。日曜日の夜中には戻るからリュックひとつです。コテージのお爺さんがピックアップのトラックで空港まで送ってくれました。陽が暮れていく道は、空港へ繋がっています。マジックアワーの空は綺麗でした。爺さんは下手な英語で難儀でしたが ”Good luck!”だけはわかりました。親指をたてて、深い皺の笑顔で送ってくれたけど、小さなローカル空港は人も少なくて寂しかった。 ひとりの人間が生まれた日は、その日以外にありません。誰がそれを祝うと言うのでしょう。それともこれは、人生のイニシエーション(通過儀礼)なのでしょうか。荷物検査のゲートを超えると、店も閉まっていて出発ロビーはガランとしていました。
「空港にむかえにいくね...」
乗り換えのスワンプナーム国際空港は、深夜なのに人が溢れています。無駄に高くて不味いカオマンガイを食べました。それも我慢が出来ました。時差2時間。今ごろ彼女は寝ているでしょうか。LINEには、まだ深い雪の先に紅い花が映っていました。ラウンジに行くと、空港の滑走路に光るオレンジ色の先に、離陸する飛行機が見えます。ギュイーンとエンジン音は、どこまでも飛んで行けそうな気がしました。明後日の日曜夜には戻ってくる。ほんの”一瞬”だけど”永遠”に感じました。その時を逃したら二度はないような気がしたからです。
搭乗口が閉まり、機内のアナウンスが聞こえています。僕は「目印」を見失わないように、滑走路の番号をじっと見ていました。身体がシートに押しつけられ、地上が遠くなるのがわかる。ぐっと旋回すると、夜景はどんどん離れていきました。やがて朝はやってくる。強く抱きしめようと思いました。目を瞑ると”あの日の紅い花”が涙のように流れていく。高度はどんどん高くなっていった。
これは「とある手紙」。手紙とは、特定の相手に対して情報を伝達するための文書のこと。それ以上でも、それ以下でもありません。誰が誰に出したのでしょうか。あなたのnoteも読みたいです。ハッシュタグは #金曜トワイライト でお待ちしています。
海にいきたい季節がやってきました。あなたはどんな海が好きですか。また金曜日のトワイライトタイムにnoteでお会いしましょう。
あなたの描いた画、撮った写真、”恋” 書きます。DM・メッセージへどうぞ。#金曜トワイライト