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企業オウンドメディアは新しい社会価値をつくるだろうか

KIRIN、SHARP、カルビー、freee、LION、ポプラ社、森ビルのオウンドメディア担当者が集まって共創ラボ(β)が始まりました。

KIRINの平山さんとは、noteやWaseisalonがきっかけで知り合い、5年前には福岡でサイボウズ式編集部・藤村編集長との新刊記念対談イベントでも登壇して頂きご一緒しました。そんなご縁もあり、今回の取り組みには強い関心を持って注目していました。

私的には、昨年8月にメ~テレのメモ少年こと篠田プロデューサーの対談インタビュー婦人公論.jpをきっかけに、兵庫県知事戦で影響力の王様の交代劇があったので、コンテンツビジネスの大転換期をテーマに、ニッチでディープな記事を7本ほど書きました。

ですので、オウンドメディアがどのような新しい価値を生み出すのか?2025〜2026年にどう進化するのか?興味深かったので、この際、希望と期待から生じた熱い想いを書き残しておこうと思います。熱量高めの約5,000字。ご興味がある方はどうぞお付き合いください。

池松潤/Jun Ikematsu
コミュニケーションデザイン/事業計画/エクイティストーリー/エンタープライズ営業コンテンツ/マーケティング/コンテンツなど。スタートアップCEOの壁打ち相手。慶応義塾大学卒/博報堂を経てスタートアップの若手と世代間常識を埋める現役58歳。ときどき婦人公論.jpにコラムなど。 ⇒ https://lit.link/junikematsu



1:企業のオウンドメディア史を振り返る

オウンドメディアには、自社の価値の源泉をステークホルダーが再認識できる効能があります。しかしその先への飛躍は容易ではありません。なぜなら「いい事をやってるね」と認識はされるものの、ステークホルダーに対して「再認識された価値」の数値化が難しかったからです。この「再認識された価値」を「社会的な価値創造」に如何につなげていくか?という課題—これが次なる進化のカギとなるのではないでしょうか?

ここで大きな課題となるのは、経営者による「情報の戦略的価値」の本質的理解です。ここが一番難しい。社内で「いい事をやってるね」と認識はされても、それが財務諸表に反映することは難しく「企業の暗黙知」になってしまうからです。

良いコンテンツこそ、市場経済に影響を及ぼす情報です。資本主義のアップデートにオウンドメディアが貢献できることはまだあるはずです。その視点でこのnoteを書いてます。

オウンドメディア担当者から変革を起こすと同時に、経営者の意思決定に影響を及ぼす。この二つの歯車が噛み合って、企業オウンドメディアの未来が開けていくのではないでしょうか。そのことについてお話ししたいと思います。


2:経営者とオウンドメディア担当者の間にある「時間」の溝

経営者と担当者の間には、「時間」という見えない溝が存在します。経営はスピードを求めるあまり「短期」時間軸にシフトしがちですが、バブル崩壊やリーマンショックを経て、「長期的思考」の重要性が再認識されているのは言うまでもありません。

日立のオウンドメディアで、楠木建氏が展開する「仕事の時間軸」シリーズを読んでもらうとそのことがよくわかります。

この時間軸の共通認識が、経営者の「トップダウンの意思決定」と担当者の「ボトムアップの努力」をつなぐ共通言語となりうるのではないでしょうか。

もし経営の「時間軸」をめぐる共通認識を「経営者・経営陣」と「オウンドメディア責任者・担当者」が持つことが出来れば、「ボトムアップの努力」と「トップダウンの意思決定」をつなぐ共通言語になるはずです。いや私がそう思っているだけで、もう既に取り組み済みかもしれません。

何が言いたいか。それは企業の中とは「江戸城の中」のようなもので、固有のお作法があり一筋縄ではいかないということです。一番難しいのは社内の上層部との信頼関係。そこには運やタイミングも必要だからです。

私ごときが論ずるのは生意気ですが、KIRINの平山さんの努力や実績は、ここに集約されるのではないかと思います。オウンドメディアは平山さんや多くのご担当者の方々が切り拓いた大地であり、最もリスペクトする点です。だからこのnoteを書いてます。


3:変わりゆく「時間」の価値

いきなり時間軸のハナシを書いたので、経営者の視点で背景をご説明したいと思います。

元ゴールドマン・サックスで現在はみずほ証券で政策保有株の解消をする新部署を立ち上げた清水大吾さんの著書『資本主義の中心で、資本主義を変える』について楠木建さんが論じている記事をお話したいと思います。

【記事・抜粋】

この本で僕が感心したのは、時間軸の取り方についての議論です。清水さんは、ビジネスの時間軸は、「今」と「経営者にとっての固有の時間」の2つしかないと言っています。前者の時間軸では、必ず手段が目的化する。経営者とは、今ではない固有の時間軸を決められる人なのです。生き残りと言いながら存続を目的としている経営者がいますが、これなどは手段の目的化です。自分の事業に固有の時間軸を持っていないと、本来の経営の原理原則からどんどん逸脱していきます。

ゴールドマン・サックスの問題も結局は時間軸にあると考えられます。今より大きな仕事を作らないとクビになってしまうという、Up or Out(成長か退場か)という考え方。期間10年の金融商品を組成して販売する場合、10年分の収益を前倒しで計上する。これをUpfrontと言います。Upfront化したあとは収益が発生しないのでもう興味がなくなってしまう。Upfront化したあとのメンテナンスに時間を使う人は評価されません。だからゴールドマン・サックスの人々は次から次に商品を売って、ほったらかしにする。まさに今という時間軸が作り出す問題です。

このような時間軸の歪みは、オウンドメディアにも影響を及ぼすことは、すでにKIRINの平山さんの著書でも書かれています。

短期的な視聴数やエンゲージメントを追い求めるあまり、企業のもつ本質的な価値や長期的な関係構築が見失われてしまうからです。目先の数字を追って消えていった企業オウンドメディアから失敗を学ぶことができます。その点はすでに書かれているので、まだ読まれてない方にはオススメしたい一冊です。私は事あるごとに再読してます。


ちなみに元ゴールドマン・サックス・清水大吾さんとは著書『資本主義の中心で、資本主義を変える』だけでなく、実際にお会いしてお話しました。本に関してはこちらをご参考ください。



4:「記憶に残る」を測る ―オウンドメディアの長期時間軸の評価指標は可能か?

オウンドメディアの「情報の価値」をどう評価するか。これは多くの企業が直面してきた課題でしょう。従来の評価指標は、短期的な数値に頼らざるを得ませんでした。どの情報が何に好影響を与えたか?トラッキングすることは不可能だったからです。

例えば・・・
・視聴回数:100万回
・いいね数:5千
・コメント数:100

しかしこれらの数値・指標は一時的な「注目」は測れても、真の「影響力」やユーザーの「記憶」の深さは測れません。市場経済の評価は株価でしか測れない。時価総額がすべて。そんな馬鹿なハナシはありません。なぜなら企業は株価のためだけに日々汗をかいているわけではないからです。株主資本・至上主義の奴隷ではありません。

そこでオウンドメディアには、以下のような「新しい価値指標」の確立が求められているように思います。

①:ユーザーの行動変容をモニタリングする

単なる「読んだ」「いいねした」を超えて、実際の行動変化を測ることです。例えば、記事やコンテンツがきっかけとなって、30%のユーザーが実際にイベント会場に足を運び、その体験をSNSでシェアしてもらい、購買をして推奨に貢献した。といった具体的な行動の変化を追跡(モニタリング)する。これは情報が人々の「記憶」となり行動を動機づけた証となります。AIも出てきたのでモニタリング(トラッキングではない)をすることは以前より実現性が高くなりました。

②:(広い意味の)コミュニティ形成

同じ価値観を持つユーザーが、オンラインの枠を超えて、各地で自発的にファン・コミュニティを形成し、定期的な活動を展開するようになる。これは情報が「共有された記憶」となり、人々をつなぐ基盤となったことを示しています。

③:経済効果

コンテンツがきっかけとなって生まれた「関連サービス(商品)」が、たとえば10万サブスク会員になるほどのヒット商品に成長した。など。これは「情報が新しい経済価値を生み出す触媒」となったことを示しています。

④:派生効果

たとえばコンテンツから派生して、ユーザーが「独自の解釈」や「活用方法」を見出し、1,000以上の派生商品(サービス)がネット販売され、累計売上が数億円を突破するといった現象が起きた。これは情報がユーザーの創造性を刺激し、共創的な新しい価値を生み出す土壌となったことを示しています。

つまり、これらは「人的資本経営」のように、企業の財務諸表には表れないオウンドメディアの「非財務価値」を可視化することを意味しています。

経営者が「市場経済」(投資家)に対して理解しやすい「オウンドメディア観」を数字で提示することで、より本質的な価値創造への理解が深まり、さらなる進化への原動力となるのではないでしょうか。

オウンドメディアのコンテンツが如何に「記憶に残る」かを、どう測るか?(時間軸の問題)を「市場経済」にも伝わるようにコンテンツの幅を広げていく。この状況を経営者と共有すれば、それは単なるオウンドメディアの問題ではなく、市場経済と向き合い「経営にも繋がる」オウンドメディアであることが理解されるのではないでしょうか。(言うのは簡単ですが行うのは難しです)

つまり「市場経済」(株主・資本家)をオウンドメディア運営の視点に加えて、具体的な見える化・指標を構築することで、新しい地平線が見えてくると思うのです。これは薄っぺらい「IR活動」とは違います。資本主義のアップデートに企業オウンドメディアがどのような貢献をするか?という視点で書いてます。


5:2025〜2026年の企業オウンドメディア

既存メディアの影響力が低下して経営が難しくなっていく。この流れは止まることはないでしょう。新聞は2037年には消滅すると言われる時代に、テレビ局の経営もまた転換期を迎えています。このような状況で、情報の信頼性や、本質的な企業価値を伝えるために「企業オウンドメディア」への期待と責任は高まっていると考えます。

①:クロス・インダストリーの知識共有と集積
異なる業種間での知見共有と集積により、新たな価値創造を行う

②:「注目の経済」から「記憶の経済」へ
「可処分時間の争奪戦」から「記憶の争奪戦」へシフトする

③:財務諸表に載らない「評価軸(指標)」をつくる。
次のステップとして、経営価値の可視化が、オウンドメディアに求められていることなのではないでしょうか。


【具体的なイメージ例】


<従来の指標>
・視聴回数:100万回
・いいね数:5千
・コメント数:100



<新しい指数による新しい経済価値の見える化>イメージ例
・ユーザー(読者)の行動変容:
30%が実際にイベント会場で参加してくれて、その様子をSNSシェア
・コミュニティ形成:
同じ価値観のユーザーが各地でファン・コミュニティを定期開催されるようになった
・経済効果:
関連したサービスが10万会員のヒット商品に
・派生効果:
2,000以上のアレンジした派生商品がネット販売で累計売上●●億円を突破した。

「共感指数」や「記憶指数」の開発

このような「共感指数」や「記憶指数」と言える指標を、企業オウンドメディア担当者がチカラを合わせて開発することは、社会へ果たす役割なのではないでしょうか。これは中小企業にはできないし、スタートアップにもできない役割です。

おわりに

企業オウンドメディアは、速報性や第三者性を重視する既存メディアとは異なる「独自の社会的価値」を持っています。企業オウンドメディアは「広報活動」の枠を超えて、「社会の知的資産の形成」に寄与できるという点があるのです。単なる情報発信ではなく、社会全体の知的基盤を豊かにすることができます。

これは一見、壮大なビジョンに聞こえるかもしれませんが、決してそのようなことはありません。なぜなら、インターネットが誕生した1994年頃を振り返ると、なぜ企業がホームページを作ったのか。その当時を思い出すからです。それは以下の理由に集約されます。

(既存メディアに理不尽に情報を操作されない)「顧客やステークホルダーとコミュニケーションできる回路」を作りたい。

これが、オウンドメディアの発祥以前の方々の想いだったのではないでしょうか。もう皆様引退されましたが、KIRINの真野さん、資生堂の岩城さん、花王の石井さん、ホンダの渡辺さん、ネット黎明期に広告主協会・Web広告研究会を立ち上げられた方々の想いを思い出します。

いろいろ生意気に書きましたが、企業オウンドメディア担当者の皆様のご活躍に、期待と応援をしています。

ではまた



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Jun Ikematsu / 池松潤
チップありがとうございます! よい日をお過ごしください。