恋はお洒落じゃないし愛でもないし消えて雫になった #金曜トワイライト
恋は燃えるから消えるのでしょうか。それとも燃えるような恋でもないから、いつまでも消えないのでしょうか。
「恋は単純」だし 「恋は複雑」だから書くのでしょうか。でも恋はいつの時代もなくならないから、書くべき文章なのかもしれません。だって「オトナは恋かシゴトでしか変わらない」と思うから。
平日と休日の境い目から愛をこめて。
#金曜トワイライト
TBS系ドラマ 日曜劇場『新参者』主題歌として書き下ろされました。書き下ろすにあたって東野圭吾の原作を読んだ山下達郎氏は日本橋・人形町界隈を散策しドラマの世界観を感じ取って楽曲を書き上げます。後に「狭い路地を舞台にした若い人たちの恋心を、私の世代から見つめると、そこには数十年前の私がいる。長い年月や年齢の壁を軽々と越える、同じ街を生きる者の変わらぬ息づかい。それを歌にしたかった」と書かれてました。最後の金曜トワイライトにあうと思うので、よかったらご一緒にどうぞ。
目黒109スタジオで編集がやっと終わって、明日までにやらなきゃならない伝票とか雑事でオフィスに戻ってきました。
明朝のプレゼンまでの修正を1人でやっている。ずいぶん前に時計の針はテッペンを超えていた。彼女は隣のチームでした。
今ならパワーポイントで作り直せば終わる。あの頃は、パネルに配布資料まで及ぶ「急な修正」は若手の仕事でした。
『誰かに振ればよかったのに』
『もう。。みんな帰っちゃってね。最悪だよ』
彼女はスプレー糊でパネルに貼りこんでいました。ほっそりした横顔は青白かった。
『それヤバいから。あっちでやれよー』
『ごめん。でもヤバいの。もう間に合わないかもしれない』
仕方がないので手伝うことにしました。コレが初めてではなかったからです。あの頃の若手に選択肢はなかったから。困った時はお互いさまっていうのもあったかもしれません。
『マジ助かったわー。ごめんね』
『まぁ。現場同志って事で。今度なんか奢るってことで』
コピーや貼りこみを手伝って、時計を見ると5時でした。彼女は結いてた髪をほどくと、ポツリといったのです。
『クソだよね、、、』
それがクソなクライアントなのか、上司なのか、自分へのメッセージなのかは分りません。たぶん全部だったんだと思うのです。
『こんど奢るわ。じゃあね』
『おう。ゼってーに、勝ってこいよ』
家帰って着替えてそのまま直行するって言い残して走っていきました。僕は出先表を代わりに書きました。自分は「半休」と書いて時計を見るとそろそろ始発が動き出す時間でした。
警備室の横から外に出ます。ビルのすき間を見上げるとカラスが横切っていった。風は吹いてません。息は白かった。
僕らは何かに追い立てられて走っていました。クソが理想と現実の狭間に流れるものだとしたら、クソにまみれて働いていたのでしょう。愛すべきクソ野郎とでも言いましょうか。
・・・・・
昔を美化するほど老いぼれてはいません。だけどあの頃は今よりはマシだったと思うのです。ドラマ・半沢直樹のように隠蔽も、倍返しも無かった。いや。知らないだけで沢山あったのかもしれないけど。ただし時代に『隙間』や『穏やかさ』の残滓が残っていたと思うのです。
惚れている。とかそんなんじゃ無かった。行きずりとも違う。もっと大事な「何か」を感じて生きてたのです。あの日までは。
・・・・・
出先から帰社せずに、言われてた待ち合わせの店に行きました。居酒屋の二階の端っこで彼女は不貞腐れて日本酒を飲んでいます。僕をみつけると片手でごめんと挨拶をしているのが見えました。目が少し腫れて赤かった。
『何でココがあの日のお返しなんだよ。別にいいけど。。。』
『プレゼン負けた。ごめん。。。』
何も言いませんでした。悔しくて泣いてるのでも無いし、酔うほど弱くないのはわかってますから。
茹で過ぎな柔らかい枝豆を摘んで、しばらく日本酒のおかわりを繰り返しました。彼女は煙草を出すとなんやらバックの中をガザガサと探しています。だけど結局ライターは出てこなかった。
『負け犬の人生ってこんな感じなのかな。。。』
『人生の迷子だから仕方ないでしょ。それ。吸うのやめたんじゃ無いの?』
僕たちは焼肉屋へハシゴしてニンニク臭くなったあたりから、おかしな雰囲気になっていました。BARで飲みなおそうと、自販機で水を買って振り返ったときに抱きついてきたのです。僕たちは倒れそうだけど、こぼれ落ちていく内臓を必死でとりつくう様に支え合っていました。
『やんないよ。。オレ』
『バーカ』
唇を重ねると、白い粉が舞い降りてくる。斜めになった頬は冷たい。頬を重ねると雪は溶けていきました。溶けるほど熱くもないのに。
・・・・・
テレビ画面にはタバコのCMが流れていました。けだるさだけが漂っていた。おたがいに「10時半出社で」と電話をかけると、無言の時間が流れました。
「ほかの人としてほしくないな。。。べつに付き合ってとか言わないから」
「べつにって。。会社は仕事しに行く場所だし、付き合うために行く場所じゃないし。。。」
あれから、彼女の友達と付き合う事になって、二度と夜を一緒に過ごすこともなくなりました。会社のビッフェで、何かの打ち上げの時に言われただけです。彼女の眼は赤くうるんでました。
「ばかやろう。。」
かなりキツめのビンタでした。彼女はエレベーターに消えてしまった。僕は往復ビンタじゃなかったんだなと思いました。それが最後でした。
・・・・・
時間は容赦なくもの凄い勢いで流れていきます。冬が春になって、夏になるころ、彼女は「できちゃった婚」で知らない街に行ってしまいました。会社を辞めたらしいと聞いたのはその事を聞いてからでした。
僕は相変わらず編集が終わると夜中にオフィスに戻ってくる。だけどプレゼン作業をしている彼女はいないし、何かと戦っているやつも居ません。ただ白々しい時間が流れているだけです。
警備室の横から外に出ると、カラスがゴミを漁っていました。風は吹いてなくて生温かった。駅に向かって歩くと、ビルのすき間から朝陽が射し込んできました。
「ばかやろう。。」
空を見上げて声にしてみると返事が聞こえた気がしたけど、ビルも空もいつものままでした。
僕は何かを捨てたのだろうか。それとも捨てられなかったのだろうか。それも考える意味もないのだけど。
僕は駅の改札をこえると一気に階段を駆け上がった。ホームに出ると電車は行ったあとでした。残されたのは僕なのでしょうか。それともあの日の彼女だったのでしょうか。
ホームの椅子に座って目を瞑ると、彼女が「ばかやろう」という唇のうごきがまぶたに流れる。やがて涙が「雫」になるのがわかりました。僕は何も変わらない。あの日のままだった。
7月からはじめた金曜トワイライトも合計で13本になりました。これで一旦、ひと区切りにしたいと思います。読んで頂いた方には感謝しかありません。応援や、シェアなど、本当にありがとうございました。
金曜日の朝イチ90分勝負で書くのは、苦しく辛いのですが刺激的でした。校正したり修正の時間が無いので、それぞれの作品は「生んだ子供」なのに放任主義のようで心が痛む時があります。だからと言って校正をやるのも、ちょっと違うかな。と感じています。
そこでちょっと考えました。「ここは企画の出番だな」と。というわけで、新しい「一発もの企画」をやりたいと思います。詳しくは後日noteにしっかり書きますが、みなさんに「金曜トワイライトをリライトしてもらう」っていう企画です。
#リライト金曜トワイライト
なんとも言い難い。厚かましさにもほどがありますね。ちょっとだけ書くと、色んなnoteをレーダーチャート診断で1万本ほど読ませて頂いて気が付いたのは「他人の書いたのはよ~く見える」ってことです。(レーダーチャート診断の追伸はまだ続いてます。お待たせしています)だから生んだ子供を一緒に育てるような気分で手伝ってもらえると嬉しいです。(なんか言ってて変な感じがするけど)
ゆるくやるので、賞金・賞品とかありませんが、僕がいいなぁと思った作品には何かお礼したいと思ってます。どうすればいいのかまだわからんけど。あ。池松noteでご紹介しようとかはやります。まぁその辺もアドバイスもらえたら嬉しいです。
週末恋愛小説・金曜トワイライト13作品のうち、(前半NO1~NO6)の6作品のなかから、ひとつ選んで頂いて、リライトしてあなたの金曜トワイライトを書いてください。作品は下記に貼っておきます。※前半戦が楽しかったら、後半戦やろうと思います
あなたの「今回のリライトのポイント」や、「どんな所にフォーカスしてリライトしたのか」などを本編の下記に「追記」として書いてください。あと忘れずに「どの金曜トワイライトをリライトしたか」noteに貼ってくださいね。
日程スケジュール:リライトUP・スタート日は10月2日金曜日夕方ころ~(終わりは決めてません)
※「リライト金曜トワイライト」(企画背景や想いを書いたnote)は来週な書こうかなと思っています。