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スタートアップ界隈でよく使われる「モメンタム」をひも解いてみた

※最下部に、10/28(月)追記しました。

「モメンタムを生み出すカルチャーがすごい!」とか「スタートアップにはモメンタムが大事」って、スタートアップ界隈でよく聞きませんか?最初は正直、「モメンタム大事っすよね〜」って言われて「そうですねぇ...(薄っぺらいハナシだな)」って思ってました。なぜなら「空気の醸成」の一部って思っていたので。

でも実際にCEOの壁打ち相手をしていて、チームが20人、30人と大きくなっていくと、このモメンタムって本当に大事だなって痛感するようになりました。

今日は、意外とググってもSNS利用の主観的な体験談が多かったので、「モメンタムってどうすればいいいのか?」をもう少し「生のモメンタム論」で私なりにまとめてみようと思いました。まぁ「それは違うよ!」って意見も当然あると思いますので、これは体験談・エピソード集だと思って読んでもらえれば幸いです。約5,000字。興味がある方はどうぞお付き合いください。

池松潤/Jun Ikematsu
スタートアップCEOの壁打ち相手。コミュニケーションデザイン/事業計画/エクイティストーリー/エンタープライズ営業コンテンツ/マーケティング/コンテンツなど。慶応義塾大学卒/大手広告代理店を経てスタートアップの若手と世代間常識を埋める現役58歳。ときどき婦人公論.jpにコラムなど。 ⇒ https://lit.link/junikematsu



1:そもそも「モメンタム」ってなに?

株の世界で使われる「勢い」や「方向性」って意味なんですが、スタートアップ界隈の文脈だと、もっとリアルな現象です。

例えば:
1:先週まで沈黙がちだったSlackで、今週は企画アイデアが出てくる
2:採用面接で「御社のプロダクトが友人が絶賛してて」と言われる
3:大手企業との商談で「今度説明会お願いできます?」って逆オファーが来る

つまり、数字には表れにくいけど、明らかに「いい流れ」が生まれている状態のことです。

たとえばですが、新機能のローンチが続けざまに失敗して、チーム全体が重たい空気に包まれてた時期があって。でも小さな改善を毎週積み重ねていったら気づいた頃には「なんかいけそう!」っていう空気に変わってた。こんな感じです。


2:サム・アルトマンが火付け役

「モメンタム」が業界用語として定着したきっかけ、OpneAIのCEOであるサム・アルトマンがYコンビネーターの講演でスタンフォード大学で話してからでしょう。

「モメンタムがあれば、大体の問題は潜り抜けられる」
「モメンタムはエネルギー源であり、その欠如は非常に疲弊させる」


この「エネルギー源」って「熱量・熱源」って言ったほうがわかりやすい感じです。あるスタートアップで、こんなことがありました。プロダクトのリリースが3ヶ月連続で遅れて顧客の評判もチームの雰囲気が明らかにダウン。このままじゃマズいと思って「n週次で必ず改善リリースする」というルールを作ったんです。たとえ小さな改善でも大事。最初は正直いって内心では「これ効果でるかぁ?」って思ってました。でも意外と効いてチームの会話が増えて、カスタマーサポートからの評判も良くなって、投資家との月次MTGも「おっ結構動いてるじゃん」って雰囲気に変わっていきました。

最初の一歩は小さいこと。「SNSを上手に使う」って事として捉えがちだけど「空気の醸成」として捉えると「モメンタム」って分かりやすいと思います。


3:今日からできる?モメンタムの作り方

基本的には、SNSアカウントがあれば始められます。でも注意点が3つ。
まず、発信の仕方です。

1:プロフィールにはちゃんと顔写真(あなたは誰?)と肩書(立場)を
2:最低、隔日でアップデート
3:RTやFWなどには可能な限り反応
※自分の言葉の発信は大変だけどRTやFWはポチッとできる
(これ、意外と経営者が「面倒くさい」とサボりがち。経営者がやってないと社員はついてこない典型例だと思います)

次に、発信の中身
1:自分たちの小さな成功体験
(誰にでも手が届く成功)
2:チームメンバーの頑張り
(ホメ文化)
3:お客様からの声
(数字だけじゃなくてストーリーを伝える)

そして一番大事なのが、SNSの「空気を読む」こと
1:自慢話オンリーはNG
(あなたの日記を読みたいわけではない)
2:困ってることを正直に
正直レビューが20万登録を超えているのがわかる)
3:業界(界隈)の流れを意識する
(これができないと逆にアンチモメンタムになる)


4:モメンタムの波を感じるとき

たとえば、新卒採用の面接で「毎週のnoteを楽しみに読んでます」と言われたのが嬉しかった。そのあたりがキッカケで▼

1:朝会で新人が「こういうの試してみたいです」って積極的に発言
2:営業チームが「最近商談が進みやすい」と実感を話す
3:エンジニアが自主的に技術ブログを書き始めた
4:退職した元メンバーが「また一緒に働きたい」と連絡をくれた

実際には、「外から見えるモメンタム」より、中側の空気感の方が実感値が高い気がします。


5:モメンタムが途切れたとき

まぁ何度も経験してますけど、特に忘れられないのがあるスタートアップがシリーズAの資金調達に失敗した直後の事です。朝のzoomミーティングで「...」の嵐。意思決定は妙に慎重になって前に進まない。エースメンバーが退職を匂わせ始めるなど。

そんなとき、何が効いたか?

小さなことです。あることに即対応してお客様から「ありがとう!」って言われた話を全体に共有しました。それから新規商談が1件決まったら、すぐチームに報告する。とにかく「小さな前進」を可視化する。褒めの可視化です。成功体験が小さいから、それを育んでいく。コレが一番大事な感じがします。でもすべてがそんな状態になるわけではありません。上手く行かない場合は確かにあります。

この辺の正確な言語化は難しいのですが…
トップとトップの周辺が、明るく元気に(カッコ悪いと思われがちな)「粘り」や「しつこさ」を行動として表すことが大事だと思います。この「きっかけ」を掴む感覚は、「あるとき自転車に乗れた」とか「逆上がりができるようになった」感覚に近いです。

6:「モメンタム」のメリット/デメリット

【メリット】モメンタムがあるといいこと

◆チームの動き
・自発的な改善提案が増える
・意思決定が早くなる
・社内の情報共有が活発に
◆外との関係
・採用面接での承諾率のアップ
・記者さんの反応が良くなる
・営業トークの枕言葉や前提情報が不要に
(先方が興味を持ってくれているから「知っている」状態から入れる)

【デメリット】モメンタムに落とし穴もあります

・「実は、やばい案件」が見えづらくなる
・「この勢いなら大丈夫でしょ」と油断が生まれがち
・クリティカルな指摘を軽く見てしまう
・数字より雰囲気を重視しがちな空気が生まれる



7:継続のコツ(ここでみんなコケる)

当たり前に思いがちだけど「4つの仕組み」が重要だと思って作りました。

  1. 情報共有を習慣に
    ・毎週月曜の朝会での共有は大事
    ・プロダクト/営業/採用、全部オープンに
    (「いやー、それは機密情報なので...」は禁止)

  2. 即レス文化(Slackの👍️マークも含)
    ・「検討します」という言葉は禁止
    ・現場判断の範囲を明確に (例:X万円以下の経費は即OK)

  3. 成果の見える化
    ・KPIボードを誰でも更新できる
    ・朝会での3分間褒めスピーチ (自分が見つけた「いいこと」の褒め)

  4. 外部への発信を(定常的に)前向きにするヒトを採用する
    ・週n回のルールを暗黙知に
    ・お客様の声の即共有 (Slackに専用チャンネル)


8:モメンタムの限界も知っておこう

こんな失敗もしました。プロダクトのちょっとした機能がSNSで話題になったので「これはくる!」とテンション上がったんですが、実際は単なる一過性の盛り上がりした。大事なのは「層の深さと広がり」というか「自分の周りだけで流行ってる状態」を認識することです。

SNSのアルゴリズムに踊らされていると勘違いしガチですが「ソレって誰が知ってるの?」ってことです。たとえば、テレビの視聴率20%って凄いですよね。でも、YouTube動画の1000万再生と比べると、実は層が薄かったりします。モメンタムも同じです。「どの層で」「どれくらいの広がり」があるのか、冷静に見極めが大事です。


例えば、上記の「D(業界外の人)」と「E(無関係者や圏外)」の間には、情報が広がる壁があって、この壁を超えて「ビジネスマンなら知っていて当たり前」とされる一般常識に昇華させるためには、単なる「イシュー提起」から「話題の喚起」へと手法をクロスオーバー・シフトさせることが必要です。

◆「ティッシュ配り」してみる
たとえば、ターゲットがビジネスマンだとして、ビジネスマンが多い駅で「チラシ入りのティッシュ配り」をしてみましょう。自社プロダクトの知ってもらえてる度合いが体感でわかります(笑)



9:SNSで変わった景色を理解する
(ココが意外と大事)

最近、こんな会話が印象的でした。
若手:「いや、これX(旧 twitter)で盛り上がってますよ!」
自分:「へー、どれどれ」
若手:「あ、TikTokの方でした」

フォロワー数や世代によって全然見てる景色が違いますし、アルゴリズムが違いますから注意して見なければいけません。ちなみに体験的な確信でいえば「Facebookだけなヒト」が一番ダメです。なぜならプラットフォームを変えて使うのが一番めんどくさいからです。

◆「ネイティブ3段階」でその度合がわかります

1:SNSネイティブ:
ツールは使えるけど、コミュニティの機微が分からない
2:ソーシャルネイティブ:
SNS空間の空気を読んで、関係性を作れる
3:AIネイティブ:
ChatGPTとか各種生成AIを使って新しい表現を生みだせる

「1」から「3」の差は、想像以上に大きいです。これは年齢に関係なくて、これからもこの格差はドンドン広がっていく感じがします。


10:モメンタムと「空気」の不思議な関係

モメンタムと「(日本人の好む)空気」の関係性ですが、これは「会議室」でよく感じます。つまり「組織内部」に起こりがちな特性があります。

1;「いけそう!」という空気が一瞬で伝播する
2:でも「(がしかし)無理では...」って一言で消える

不思議なもので、この空気の特性として
1:会議室では即効で広がる
2:古くて大きな組織だと数日かかる
3:業界全体なら数週間〜数ヶ月かかってた。いまでは数日。

逆に消えるのはいつも一瞬です。特に「それダメ筋だろ」とか「それって悪筋だろ」ってときほど言語化するヒトは少なくて「逃げ」に入るからです。これには大事な示唆があって、結局「中身」がないと、どんなモメンタムも長続きしないってことではないでしょうか。ホンモノを皆んなが求めている証拠だと思います。


11:これからのモメンタム

個人的な予測:
・モメンタム重視は、一周回って落ち着く
・毎日SNS更新とか「正直しんどい派」が多い
・チームの精神的な疲弊リスクがアップ
・「地に足ついた成長」を見直す流れへ

新しい動き:
・生成AIによる発信そのもののサジェスト機能の発達
・生成AIのコミュニティのアシスト的なサポート
・生成AIでデータドリブンなモメンタム分析


12:広報活動でモメンタムを活かす

新機能のプレスリリースなど、社内外での活用事例や反響を丁寧にまとめてメディアの方との共有に効果があります。

1:ストーリーの組み立て
 ・プロダクトの進化を時系列で
 ・ユーザー活用事例の具体化
 ・業界課題との接点を意識
2:タイミングの見極め
 ・トレンドとの関連性
 ・自社の成長フェーズ
 ・市場の成熟度
3:継続的な情報提供
 ・リリース後のアップデート
 ・活用事例の定期的な共有
 ・業界動向との接点

◆このような取り組みを続けた結果
・「その取り組みは参考になります」
・「最近の展開に注目しています」
といった反応をいただけるようになりました

13:スタートアップ経営者の方に大事なこと

「Hard Things」は必ず来ます。でもモメンタムがあれば、チームは粘り強く乗り越えられる。スケールしない作業も、モメンタムがあれば意外とみんな文句言わずにやってくれることも(笑)

モメンタムは「自分勝手な希望を語る」ことではありません。 KPIはちゃんと見る。でも目標へ達成の過程でモメンタムは大きな味方になってくれるという事だと思います。

「中身のないモメンタムなんて、ただの風船」
 ▲
 意外とこのパターンが多い感じがします



まとめ:経験から得たこと

1:モメンタムは作れる
2;SNSを複数使いこなすのは最強のツール
3:でも使い方を間違えると逆効果
4:中身が伴わないと「空っぽ感」が凄い
5:小さな成功を積み上げる
6:チームの実感が大事
7:一度失っても取り戻せる
8:小さな一歩から。その経験が財産に

結局のところ、「本物の成長」と「チームの士気」のバランス。 これを意識することで、モメンタムは必ず味方になってくれるはず。皆さんの「モメンタム」づくりを応援します。

「生のモメンタム論」でした。「それは違うよ!」って意見も当然あると思います。なのでこれは体験談・エピソード集だと思って読んでもらえれば幸いです。

ではまたnoteでお会いしましょう


※10/28(月)追記:「SNSでつくるモメンタムの具体的な方法」

「SNSでどうモメンタムつくるのか?」について個別のメッセージが来たので【日本のスタートアップ界隈でハナシに出る「SNSでつくるモメンタム」をひも解く】についてnoteを書きます。次回をお楽しみに。

書きました!▼


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Jun Ikematsu / 池松潤
チップありがとうございます! よい日をお過ごしください。