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【発見◇池上】古墳の上に住んでいた人気作家

 池上のお山の南の端に、二重に堀を回らした紀州徳川家初代藩主の娘芳心院の墓があり万両塚と呼ばれています。この辺りは弥生時代には大集落があり、堤方権現台古墳と名付けられた笹で覆われた丸い古墳が復元されています。発掘された住居跡脇のトレンチの壁面に、地層レプリカで歴史の重層が描かれていて、昭和時代には古墳の上に民家が載っています。何とこの家には『天国でいちばん近い島』でデビューした人気作家森村桂さん(1940-2004)が、1970年から5年間ほど母上の歌人森村朝香さんと住んでいました。著書『ダンナさまヒマラヤへ行く』には初めてこの地を訪れた日の驚きが書かれています。

 「羽田に近いの」 私は、仰天していった。羽田なんて、とんでもない遠いところだと思っていたのだ。しかし、驚くのは早かった。車は第二京浜を走り、やっと池上の方に曲り、そして、池上本門寺のわきのきり通しの自動車道を上がり、うす暗い中にそびえる大きな朱塗りの本堂のわきを通り、なんとも厳かにも趣きのある五重の塔のわきを走る。「まるで奈良かなんかに来たみたいね」 (中略) 私は、思わず、窓にぴったり額を当て、外を見ながら、そして、叫んだ。「待ってよ、ジロちゃん、お墓じゃないの」「そうなんだよ。お墓なんだよ。俺、いわなかったか。お寺だって」「お墓だわ。お母さん、お墓よ。家なんて、一軒もない」「それがあるんだよ。このお墓のはずれが、その家なんだ」「ええ!」 つきあたりは崖になっていた。下には夜の街の灯が煌々と輝いていて美しい。

 転出後、空き家となっていた住まいは2009年に取り壊され、その跡に堤方権現台古墳が復元(1/4に縮小)されました。取り壊しの管理を任された隣接の永寿院のご住職が、森村桂さんに関わる資料を大切に保管しておられます。当時の写真や自筆原稿に加え、親しかった3人の画家が描いた仕事場の壁画など貴重な資料があります。

堤方権現台古墳
森村桂さん(asahi comより 転載不可)
デビュー作品「天国にいちばん近い島」
膨大な著書の一部(永寿院保存資料)
手書き原稿(永寿院保存資料)