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zenpaku
くじら塚
「あれ、くじらじゃない?」海岸で弟が言った。そんな訳ないと、ぼくはあしらった。「でも動いてるよ。」たしかに動いていた。あれは、本当にくじらだったのだろうか。
今から150年前、この海岸にくじらがうち上がったことがあった。記録によるとくじらは約5トンもあった。朝から解体作業をして、正午過ぎまでかかったらしい。冷凍設備や輸送機関がなかったため、地域の人で食べたのだった。食べきれない分は、町に持ち込んで売り、若干のお金ができたそうだ。
村人たちが相談した結果、くじらは天からの授かりものであり、お金は世の中の為に使おうという話になった。そして、村の将来を担っていく子どもたちが何より大事だという結論になったらしい。今でいう奨学金として使ったようだった。
ぼくが暮らした町は、人の想いとくじらのおかげでできていたのだった。そのくじらの記念碑は、今でも、町で一番見晴らしがいい場所に建っている。