「明日、晴れたらいい」と思う、と思う。
天気は晴れ。
ちょっと暑すぎるくらいの夏の始まり。
朝7時、ずっと使っている
目覚ましの音に起こされる。
いつもは9時くらいに起きるので、
この時点で2時間も余裕があることになる。
最後の日にいつもより長い一日を
過ごしたいと思うのは、
終わりだけ頑張る僕らしくて、いい。
早起きができたアピールのために、
いくつかのグループラインへ
意味のないスタンプを送信する。
コーヒーをいれる。
味の違いはあんまりわからないけど、
せっかくだから豆から挽く。
思い出の味みたいなのがあれば一番いいけど、
そこまで完成された日じゃなくてもいいから、
何か適当に買っておこう。
運よくめちゃくちゃ美味しいコーヒーになって
自分でいれるとこんなに美味しいんだと
錯覚したまま終わろう。
朝ごはんを友達と食べる約束をして、
友達が来るまでの間、部屋を掃除する。
最後の日だから本当は
掃除する必要もないんだけど、
人からどう見られるかを気にしてきた
僕っぽい行動だなと思う。
友達が訪ねてくる。
手土産に健康食品を持ってくるといい。
「ちゃうねん、僕今日死ぬねん」
をベストな間と声量でいいたい。
外のテラスで朝ごはんを食べながら、
新聞を簡単に目を通す。
斜め前にくらいの場所に座った友達と
お互いが今知ったところの情報を、
さも昔から知っていたかのように
話して笑い合いたい。
今日の星占いの欄や週間天気のところは、
想像しただけで楽しい。
「乙女座1位だって」
「まあ、死ぬねんけどな」とか、
「明日晴れるけど、明後日は雨予報みたい」
「どうせおらんし何降ってきてもいいわ」とか、
どうでもいいやりとりをいっぱいしたい。
その流れで、何が降ってきたら一番困るか
で盛り上がって、
「水とかいやだよね」「それ雨やん」
とかのくだらない会話もしたい。
場所は東京がいいかなと思った。
どこかの自然の中もいいけど、
いつも過ごしていたところの方が
なんだか落ち着く気がする。
いい感じのテラスと屋上があって、
友達もいっぱい呼べそうな一軒家を借りよう。
探せばあると思うし、
それくらいの余裕は持っていたい。
昼ごはんは家族と食べようかな。
実家に帰って、っていうのもいいけれど、
往復の時間がもったいないので、
家族を東京に呼ぼう。
ばあちゃんは長距離移動をきっと嫌がるけど、
そこはなんとかわがままを言うつもり。
仕事は、まあしなくていいか。
でもお世話になった人には
挨拶をしておきたいから、
オフィスにはきっと行く。
一応、デスクも綺麗にしておく。
昼過ぎには、きっと海に行きたくなる。
読みたかった本とスピーカーを持って、
バイクで海に向かう。
一回くらいハーレーに乗ってみたかったから、
大型二輪免許をそれまでにとっておかないと。
本は吉本ばななさんのキッチンにしよう。
音楽は、ハナレグミの家族の風景。
(これはキッチンという単語に引っ張られて
決めただけなのであとできちんと考える)
夜は、友達みんなを呼んで、
いろんなお酒をいっぱい飲みたい。
記憶は無くさないようにしないと。
いろんな友達が集まるのは
想像するだけで楽しいし、
そのみんなが仲良くなってくれたら
めちゃくちゃいい。
理由が理由だからみんな来てくれるかな。
どうなんだろう。
最後の夜だというのに、
結局いつも通りの話しかしなくて、
それにすごく嬉しくなるんだろうな。
これまで何度も話したような話をして、
これまで何度も笑ったように笑いたい。
「えーこの先めっちゃ気になるやん」
って台詞を何回も言うことになると思う。
深夜0時になる30分前。
トイレに行ったタイミングで、天使と出会う。
「天使みたいに綺麗な女性」ではなく、
そのままの意味の天使、
今回僕が死ぬことになって、
担当者として、走馬灯の確認とか、
いろいろな調整をしてくれた天使。
「あれ、まだ時間あるよね」
「あと30分かな」
「書類とかは全部出したけど、他に何かある?」
「ひとつ確認があって、どうする、みんなの記憶」
みたいな会話。
みんなの記憶の中から
なくなるか、なくならないかを選べる、
ということらしい。
忘れられてしまうのもいい気がするけど‥
と、いろいろ迷った末に、
「明日、晴れたら、なくならないようにして」
みたいなオシャレな回答をしよう。
明日の天気は朝の新聞でチェックしたし、
まあ外れたら、そういう運命ってことでいい。
最後の瞬間は一人でいいや。
物語みたいな三日月が出て、星が綺麗で
みんなが飲み続けている、
その家の屋上に一人寝そべって。
僕がこっそりいなくなったことに
気づく友達もいるけど、
そういう友達はきっと
気づいてないふりをしてくれると思う。
カウントダウンは一応10秒前から。
10秒くらいなら泣くのも我慢できる。
10、もっと生きたかったなとは思う。
9、まあでも、今日はなんか良かったな。
8、やり残したことはいっぱいあるけどそれはいいや。
7、間に合わないことも、それを受け入れることにも慣れている。
6、死ぬ覚悟なんてどうせできない。結局できなかった。
5、ずっと、自分が死ねば世界は終わると思っていた。
4 、でも、今は続いてほしいと思っている。
3 、なくなるにはもったいないくらい、いい世界。
2、みんなのこれからも気になる。忘れたくないし忘れられたくない。
1、明日、晴れたらいいな。
0。
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7人で「書く日、書くとき、書く場所で」という共同マガジンをやっています。今回は「理想の最期」を共通テーマに書きました。
読んでいただき、ありがとうございました!