40歳からの大乱闘スマッシュブラザーズ⑦
オンラインでひたすら負け続けた俺はここに来て気付いた事がある。相手の攻撃を防ぐテクニック、ガードを一切していない事だ。相手の攻撃に反応ができるできないじゃない。ガードをしない事が男らしくてかっこいいと思っている節があるのだ俺というボロボロの学ラン学帽に下駄を身に纏い葉っぱを咥えたバンカラ中年ボーイは。
でもガードの練習をやらねば勝てない事もわかってきた(ここで葉っぱをゴミ箱に捨てて学帽と学ランと下駄をそっと脱いで正座して畳んでパジャマに着替える)。俺はもう可愛いピカチュウがブン殴られるのを見ていられないのだ…
しかしオフラインでコンピュータ相手に修行するより人間相手の呼吸の読み合いこそが肝要と思った俺はまたも地獄オンラインへそろりそろりと足を踏み入れたのであった。
対戦相手として出てきたのはピーチ姫だった。俺は思った。困ったな…女は殴らない主義なんだが…と。そして願わくば帰ってほしいので覇王色の覇気で威嚇したよね。オイそこのピンク女ァ…ここは女の来る場所じゃねえゾ…?と。だがピーチはよほど悲壮な覚悟があるのか俺の覇気にも気圧されず帰らなかった。大した女だ…まあ10000000発くらっても死なないのでガードの練習相手としては丁度良いか…と思い戦闘を開始した。
試合は始まり俺は早速ガードボタンを押しっぱなしにして攻撃に耐えようとした。しかしどうだろう、みるみる内にガードは小さくなっていく。これは仕様なのかピカチュウの特性なのかなんなのかわからんが(仕様でした)エッ?と戸惑っているうちになんかどういう物理のアレかわからんが姫さんが傘を普通にさしたままプカプカ浮かんでこっちに向かって来て「ちょっと待ってください姫、ちょっとガード張り直しますんで」とテレビの前で覇王色の涙声を出す俺操るピカチュウにズガガガ!ズガガガ!とストンピングを浴びせて来たのである。
こりゃたまらんとバックステップで距離を取った俺にこのゲームの特徴でもあるのかさっきまで無だった地面から何故か馬鹿デカいカブか桜島大根を引き抜いてガードしている鼠のところに来たので、え…?くれるの…?ありがとう…と思いガードを解いたら顔面に思っクソ投げ付けて来やがったので「姫、おてんばが過ぎますぞ!」とガードの事を完全に忘れて攻撃に徹するバーサークモードに入った俺のピカチュウは誰にも止められる筈もなくストックを3つ残したピーチ姫にボコボコにされた。完敗だ。
おかしくないか?そのパワーがあって何故毎度毎度クッパみたいな愚鈍亀に誘拐されるか?と痛烈に覇王色の異議を申し立ててみたり、淫売…などと独りごちてみたり、キャラクター選択画面でピーチ姫とクッパJr.を交互に見て「まあ似てなくも…ないか」などと覇王色の下衆の勘繰りをしたりしてなんとか溜飲を下げた。
かくして今日もガードは一つも上手にならなかった。しかし得た物はある。ガードをすべき時にしなくては勝てないという事だ。俺はオフラインのトレーニングモードみたいなヤツを探す事に決めたのだ。進化するモンスター、格闘サイボーグ、俺だ。頑張ってやっていこう。そろそろ妻が腹を空かしてオギャオギャとグズりだす頃なので飯を作らなきゃ。今日は鮭とほうれん草でなんかしよ。覇王色の飯だ。