2019の世の中_サムネ

「商品力がイマイチだからインフルエンサーのクチコミで売りたい」is 無理

業界あるある?

「いまウチが力を入れているこの商品、ぶっちゃけ競合と比べてもたいした優位性ないんですよ。しかも価格はウチの方が少し高い。競合と比べてチャネルも弱いですしね。テレビCM打つほどの予算はないから、なんとかクチコミで売りたいんです(クチコミはタダなんですよね?)。インスタグラマーとかYouTuberとかのインフルエンサーに取り上げてもらったら話題になって売れるんですよね?」―――。

こういうことが、毎日どこかで起こっています。昨日も今日も明日も来週も来月も、そしてきっと来年も起こる。

もうそろそろ、この会話やめにしませんか…。

インフルエンサーは魔法使いではない

ソーシャルメディアは魔法の杖ではないし、インフルエンサーは魔法使いではありません。

クチコミ(Word-of-Mouth)やら、CGM(Consumer Generated Media)やら、UGC(User Generated Content)やら、Social Mediaがもたらした変化とは一体なんだったのか。

それは、良いことも悪いこともすべてが丸裸になる、消費者主権時代の幕開けです。

商品丸裸時代なんですから、良いものは良いと評価され(極稀に広がる)、悪いものは悪いと評価される(稀に広がる)。

すべからく良い商品はより売上が上がり、悪い商品はより売上が下がる。どちらでもない普通の商品は情報大爆発時代の中で埋没し、誰にも気づかれず無風地帯で売れない。

そういう時代になったんです。

競合と比べて優位性に劣る商品がクチコミで売れる…わけはないんです。クチコミやソーシャルメディアは事実が共有・増幅する人間装置なんですから。

無いことを有ることにしたり、たいしたものじゃないものをたいしたものにすることはできません。ありのままの姿が浮き彫りになり、【事実】が広く伝わりやすくなったんです。

納得いかない方のために、もう少し丁寧に説明します。

いまも昔も一番信用できる情報=クチコミ

この世で一番最初にできたメディアは、きっとクチコミ(口頭で伝わるクチコミュニケーション)です。

「東に半日歩くときれいな水があるぞ」とか「あっちはオオカミがたくさんいて危ないぞ」とか、生きるために必要な情報が人から人へ伝わる。

現代社会で言えば、「あの商品ね、世間ではXXって言われてるけど、実は…」という友人や知人や同僚やネットのカキコミ。多くの人は、信用しますよね。

なぜクチコミは信用できるのか。

それは、発信者(相手)と受信者(自分)の間に、利害関係がないからです。利害関係がないから信用できる。利害関係がないから信ぴょう性が高いんです。※ここ重要です※

逆に、利害関係の塊とは何か。

広告です。

広告は、企業が、自社の商品やサービスを売り込むために、100%ポジティブメッセージで塗り固めて発信するものです。

長い間、消費者は、その広告に刺激され、ときに扇動され、消費を促されてきました。そして、少なくない数の失敗や後悔を経験・蓄積してきました。

その結果、「もう広告は信用できない」という、疑り深い消費者が増えたわけです。無理もありません。疑り深く、賢い消費者は、いろいろな企業や広告に騙され続けた結果、自己防衛のために進化した結果なんですから。

クチコミサイトの出現

そんなとき、インターネットが出現、普及し始め、1999年~2000年頃、いまでは誰もが知り、日常的に利用しているクチコミサイト @cosme やkakaku.com が誕生します。

その後も、食べログやAmazonレビューなどが普及し、僕たちはいまやユーザーレビューなしに化粧品や家電やお店選びや本の購入ができなくなってしまいました(食べログの3.8問題やAmazonのやらせレビュー問題はあるにせよ)

2019年現在、僕らは多くの買い物でユーザーレビューに「判断を委任(≒依存)」しています。

人は、選択肢が多くなればなるほど、選べなくなる。時間もない。自信もない。だったらみんなが良いと言っているものを買おう。そうすれば、万が一失敗したとしても(自分の判断が間違ったと思わなくて良いので)後悔が少なくて済む。まさにそんな状態なわけです。

かくして、クチコミ(ユーザーレビュー)は消費者の購買意思決定に大きな影響を与えるに至りました。

でもクチコミなんて昔からあったんじゃないの?

あなたは鋭い。

クチコミは人類最古のメディアだったわけですから、大昔からあったはずです。戦後、本格的に現代マーケティングが近代化するもっと前から、クチコミは私たち消費者の購買意思決定に大きな影響を与えてきたと考えたほうが自然。

では、なぜ企業のマーケティング担当者は、2000年代中盤になって、いきなり堰を切ったように「クチコミ!」「クチコミ!」と言い始めたのか(それまではたいして注目してこなかったのか)。

それはクチコミの方程式にヒントがあります。

クチコミの方程式

クチコミの影響力=情報の信頼性✕ネットワーク規模 で示すことができます。掛け算なので、どちらかがゼロなら総和はゼロになるし、どちらかがマイナスなら総和もマイナスになります。

この掛け算を、インターネット前後で比較してみましょう。

クチコミの方程式BeforeAfter

いまも昔もクチコミの信頼性を担保するのは「情報の信ぴょう性」です。でも、その信ぴょう性の高いクチコミは、口頭で行われるため、保存されません(=消滅性)。

1秒後には消滅してしまうから、クチコミはその場にいないと伝わらない。1週間後、3ヶ月後にその商品を買おうかどうか悩んでいる人の元には届かなかった。

もうひとつがネットワーク規模。

ダンバー数(ダンバーすう、英: Dunbar's number)とは、人間が安定的な社会関係を維持できるとされる人数の認知的な上限である。ここでいう関係とは、ある個人が、各人の事を知っていて、さらに、各人がお互いにどのような関係にあるのかをも知っている、というものを指す。 ダンバー数は、1990年代に、イギリスの人類学者であるロビン・ダンバーによって初めて提案された。彼は、霊長類の脳の大きさと平均的な群れの大きさとの間に相関関係を見出した。ダンバーは、平均的な人間の脳の大きさを計算し、霊長類の結果から推定する事によって、人間が円滑に安定して維持できる関係は150人程度であると提案した。(出典:Wikipedia

私たちが日常生活を送る中で交流をしている人間関係の数(ネットワーク規模)は驚くほど小さいことが知られています。仮に大きかったとしても、すべての人にクチコミを伝えるなんてことは、まず起こり得ない。

企業のマーケティング担当者にとって、クチコミが購買意思決定に影響を与えることはとっくにわかっていた。でも、良かろうと、悪かろうと、クチコミは消滅してしまうし、ネットワーク規模も小さいから、ビジネス全体からすればたいした影響はないとされてきたわけです。

それが、インターネットとソーシャルメディアの普及で一変しました。クチコミがカキコミに変わったんです(正確に言えば、クチコミ+カキコミになった)

クチコミがカキコミに変わったことで、高い信ぴょう性はそのままに、その情報は半永久的にネットやクチコミサイト内に残り続け、蓄積されていく。

クチコミは量が増えれば増えるほど信ぴょう性が増す(異常値があっても数に吸収され平均化されていく)ため、時間が経てば経つほど信頼性が増す。その情報はいつでも検索によって探し出すことができ、多くの購入検討者に大きな影響を与える。

さらに、ブログ、Twitter、Facebook、Instagramなどの普及で、ソーシャルグラフ(ソーシャルメディア上の人間関係)や、インタレストグラフ(興味関心でのつながり)が一気に拡大しました。ひとりが持つネットワーク規模は、弱い紐帯を含めると数百から数十万人の規模に至るまでになりました。

これが、2000年代中盤から、企業がこぞってクチコミマーケティングに注目した背景です。

でも、ここではまだクチコミ=体験者のレビューであり、そのクチコミはクチコミサイトを中心とした集中型ネットワークであり、人と人がつながる(中心をもたない)分散型ネットワークではありませんでした。

SNSの出現

クチコミサイトの出現と普及から数年が経った2004年、日本ではmixiが、米国ではFacebookが誕生し、いよいよ人と人がダイレクトにつながる、分散型ネットワークが本格的に普及し始めます。

クチコミは人と人がおしゃべりをする空間で広がります。

つまり、mixiやFacebookなどのSNSの出現によって、商品評価(レビュー)ではない情報や噂がクチコミネットワークで広がる土壌が誕生したわけです。

ブログの出現

UGC整理

次の革命が2005~2006年頃に起きたブログの普及です。

クチコミサイトに投稿される商品レビューもユーザーが生成したUGC(User Generated Content)ですが、その情報は、大量の人通りがあるクチコミサイト内に格納されているから多くの人に閲覧してもらう機会を得ることができます。

しかし、多くの場合、クチコミサイトに投稿している人(ユーザー)に発信力があるわけではありません。ユーザーが生成しているのはコンテンツであり、メディア力(伝達力)はクチコミサイトが持っているからです。※ここ重要です※

それが、ブログの登場によって大きく変わりました。

食べログにレビューを書くだけでなく、個人で「年間200回焼肉屋へ通うIT社長の都内焼肉探訪記」などのブログを書き、固定の読者が付けば、自分自信で5,000人や10,000人の焼肉ファンに情報を届けるメディア力を手にすることができるようになったわけです。

ブログによって、いち消費者がコンテンツかつメディアになった瞬間です。

ブログは書けば書くほどSEOが効いてきますので、毎日コツコツ更新し、「その道の第一人者」として認知されれば、1日あたり5万や10万PVを叩き出す「アルファブロガー」の誕生です。

少し前のアルファツイッタラー(←言葉としては流行らなかった)も、現在のインスタグラマーも、YouTuberも、プラットフォームは違えど、基本的に同じ流れで誕生し、同様の影響力を持つに至っています。

たった20年で情報の流れが大きく変わったのですよ…

19年前の2000年はとっても牧歌的でした。シンプル。

2000の世の中

それが20年でここまで複雑化したわけです。2000年のときのルールのまま、無理やり2019年に対応しようとするから無理が出る。私たちはパラダイムそのものを変えなければならない時期に来ています。

2019の世の中

まとめます

クチコミもCGMもUGCもソーシャルメディアも、すべての源流は「広告は信用できないけど、自分と同じ立場(=消費者側)の利害関係のない(=企業に管理・統制されていない)ピュアなクチコミは信頼できる」というもので、はやりのインフルエンサーマーケティングも、元来、すべてそこに立脚したものでなければなりません。

インフルエンサーは一般人。一般人だから、自分と同じ消費者側の立場。企業は利害関係満載の情報(=広告)を発信するからすべてを信用することはできないけど、インフルエンサーは自分と同じ消費者側の立場だから、利害関係のない、ピュアな情報を発信してくれるはず。だから信用できる。

ユーザー側がそう思っていることを知っているからこそ、企業のマーケターはインフルエンサーを隠れ蓑に、広告メッセージをしゃべらせようとする。

気持ちはわかります。でも、それって正しくない。誠意がない。倫理、道徳、美意識の問題でもあります。

利害関係がないから信用できると思っているインフルエンサーをお金を使って裏で支配し、広告の片棒を担がせる。そのやり方を続けるうちは、お天道様の下を腕を振って歩けないと思うのです。

騙されたくない。

損したくない。

後悔したくない。

だから、本当のことが知りたい。

消費者の想いは、それに尽きます。

あなただって、会社を一歩出たら、同じ想いを持つ、いち消費者であるはずです。

レビューサイトやSNSやブログなどのソーシャルメディアが普及したことによって、消費者は、企業と消費者の間に存在していた情報の非対称性を解消し、消費者主権の世の中を手に入れたはずでした。

良いものは良いと広がり、より一層売れる。

良くないものは良くないと広がり、より一層売れなくなる。

大部分の普通のものは、情報大爆発の中で誰にも気づかれず、ただ単に無風で売れない。

そんなアタリマエのことが、一部の企業のマーケターや広告会社によって妨げられているとしたら、それはとても悲しいことだし、この業界に身を置く人間として是が非でも改善できるよう主体的に動いていきたいと思っています。

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いやね、ここまで書いたことすべてが解消される理想郷をつくることがとてつもなく難しいなんてことは僕だってわかってるんですよ。

でもね、商品は(競合と比べて)たいしてよくない(下手をしたら劣っている)、価格も決して安くない、チャネルも弱い、広告の予算はない、たとえ広告打っても売れない、だからクチコミで売りたい、インフルエンサーに売ってもらいたいって、そりゃアナタ、普通自動車でF1に参戦して優勝したいって言ってるようなものですよ。

どんな最高のドライバーをお金で雇ったって、無理です。

商品やサービスを磨く。徹底的に磨く。そのうえで、しっかり伝える、伝わるようにコミュニケーション戦略を設計する。買ってもらえたら、感謝の念を送り、ひとりでも多くの顧客にファンになってもらう。そしてファンやファンフルエンサーを大切にする。

ぐるぐると何周も回って、いろんなところを巡り巡って、そんな至極真っ当でアタリマエの境地に還って行く気がしてなりません。

※本記事は下記エントリと一緒に読むとより一層理解が深まると思いますぞ

(続き)

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