マーケターは「日本が世界で最もハイコンテクストな国」であることをもっと知った方が良い
日本には、「お前そこは空気読めよー」という、単一民族ゆえの「言わずとも察しろ」的な風潮というか不文律があります。
いまは変わってきましたが、少し前までは、国民の大半が大晦日にこたつで年越しそばとみかんを食べ、家族総出でNHKの紅白歌合戦(過去の最高視聴率は81.4%!!)を観て、初詣からの初日の出を拝み、正月はおせち料理と雑煮を食べながら凧を上げつつ年賀状読んでお年玉を配り、2/14にはチョコレートを贈って、3/3にはひな祭りをし、3/14には飴ちゃんでお返しをして、4/1には嘘をつきながら桜の木の下で酒を飲み、GWはみんなで帰省し渋滞にはまって疲れ果て、5/5には端午の節句で鯉のぼりを上げながら柏餅を食い、軽く5月病を患った後に5/12には母の日としてカーネーションを贈り、6/16の父の日は多くの人が忘れてスルーし、6月には雨の紫陽花を拝みに鎌倉へ押しかけ、7/7は織姫と彦星の再会を祝して夜空を見上げ、月末には土用の丑の日にかこつけて鰻を食い、8月にはお盆でご先祖様をお迎えしながら婆ちゃん家の縁側でスイカの種飛ばしに興じ、夜は神社の縁日で金魚すくいやったあとに花火して、9月はカラオケでセプテンバーラブを歌いながら十五夜のお月さまを仰ぎ、10月は読書・食欲・スポーツの秋を過ごしながら月末はハロウィンで馬鹿騒ぎし、11月は紅葉の人混みの中で風情を感じ、12月はキリスト不在のサンタパーティーへ突入する――(以下無限ループ)
これらは、私たち日本人からすると普通の年間行事スケジュールですが、1億人もの国民が、これらの行事を「世の中ゴト」「家族ゴト」「自分ゴト」として一糸乱れず履行していく国なんて、この地球上に存在しません。
日本は単一民族・単一言語の国。農業を基盤として発達してきた国ですから(狩猟民族のように)あちこち転々とせず、同じ土地に根を張り、生活の基盤をつくってきました。
農業は助け合い文化で成立する産業でもあるため、同じ村の住人は相互扶助の精神のもと、数世代にわたって同じ地域で生活していきます。その過程で、阿吽の呼吸、ツーカーの仲、以心伝心という ”言語依存度の低いコミュニケーション” が形成されました。
日本は、四方を海で囲まれた地理的特性により、独特な民族的・文化的発展を遂げてきました。農業と(四方を海で囲まれた)漁業の発展と鮮度へのこだわり、四季の存在による「旬」をベースとした食文化、転居の少ない産業構造による地域文化の発展と村八分などに代表される仲間意識の逆機能、農業=地域に根を張る=氏神様&八百万の神信仰、仏教をベースとしながらも西洋や欧米の文化を柔軟に取り入れてきたことによる宗教の多様化と希薄化が、独特な日本という国をつくり出しました。
それが、侘び寂び(わびさび)、風情、風流、趣(おもむき)、佇まい(たたずまい)といった日本人特有の美意識が生まれる一因にもなったと考えられます。
たとえば、このエントリのサムネ画像。
見事に紅葉したもみじの向こうには霧がかった富士山があってほしいし、それはできれば湖の水面(みなも)ごしが良いし、船が一艘浮かんでいると素敵だし、できればその船には人が立っているとベスト――。これは多くの日本人が持つ「風情」そのものです(だからそういう構図の写真になっている)
また、季節は初夏、京都か鎌倉の古民家の縁側で、浴衣を着て、そうめんを食べながら、風鈴の音に耳をすませる――。これも「風情」だし「風流」です。
でも、これを外国人旅行者に説明しようとすると、猛烈に難しい。ローコンテクストなアメリカ人に、風情や風流を説明するのは、簡単ではありません。
などなどの要因によって、日本は世界で最もハイコンテクストな国になりました。
これすごく参考になるから読んでください。
なぜここでコンテクストの話をしているのかというと、これらはマーケティングに大いに関係があるからです。
マーケティングには様々な定義がありますが、「売れる仕組みをつくり、環境変化にフィットさせ続けること」と言えます。
売れる仕組みをつくるためには、日本人特有の文脈を理解する必要があります。そして、外部環境変化にフィットし続けるためには、それらを時代に合わせていかに(戦略的に)ずらしていくかが重要となります。
さらに、最近はもはや「価値は企業がつくるもの。消費者はその価値をお金を支払うことによって購入し、消費する”消費者”である」という時代ではなく、「企業は製品やサービスが持つ文脈的価値を”提案”し、消費者がその文脈的価値を理解し、望み、主体的に参加(共創)することで”文脈的価値”が成立する」時代です。
七里ヶ浜のビルズで朝食(パンケーキ)を食べる行為。
サービスそのものは「パンケーキの製造・販売・カフェ運営」なので、普通に考えればパンケーキを食べるために代金を支払う、ですが、そうじゃないですよね。
ここで表現されていることは、「GW!車で湘南!愛犬!海を眺めながらビルズでパンケーキを食べながら豊かな時間を過ごしている素敵なライフスタイルの私!」という文脈価値が(ビルズとともに)共創されているのです。
この文脈価値の共創が、動的に見える化されるようになりました。その代表格が、Instagramの「#(ハッシュタグ)」です。
ハッシュタグは「タグ」ですから、デジタル一眼であれば、「#カメラ」とか、「#デジカメ」とかになるわけですけど、この「#」とかおもしろいです。
デジタルカメラには、強いメーカー(ブランド)選好があります。
当然、インスタにも「#キャノン党(キヤノン党ではない)」「#ニコン党」があるわけですが、ソニーは「#ソニー党」ではありません。「#ソニー一派」なんです。
デジタル一眼、ミラーレス、コンデジによってマーケットシェアは変わりますが、キヤノンとニコンは二強です。政治で言えば、自民党と野党第一党の立憲民主党。一方のソニーはミラーレスカテゴリーで(キヤノン、オリンパスに続き)3位に食い込むものの”政権”としてはさほど大きくない。
ユーザーもそれをわかっています。わかった上で、ソニーを愛している。「俺たちは、何もわからずキヤノンやニコンを買い、カジュアルに写真ごっこをしているようなそのへんの坊やたちとは違う。わかっている奴だけが選ぶ本物のカメラ。それがソニーだ」という反骨精神が「#ソニー党」ではなく「#ソニー一派」という文脈的トライブを生み出しました。
デジカメやミラーレスが好きな人ならわかる、キャノン党とニコン等とソニー一派の文脈的な違い。とてもハイコンテクストで好きです。
キャンプで大活躍のスキレット(鉄のフライパン)。有名ブランドのLOGOSのスキレットを買うと3,000円~4,000円しますが、ニトリのPBスキレットはなんと462円!#ニトスキを投稿している人は何を伝えたいのでしょう。「ニトリのスキレット激安!お得!」じゃないですよね。「こんなに爆安のニトリのスキレットだけど、俺のキャンプ術にかかればこんなにオシャンティーに!俺すごい!」ということが伝えたいんです(たぶん)。とても文脈的です。
ヤマハ製バイクのプロダクトデザインが美しいことだけが言いたいわけではありません。「こんなにかっこいい愛車(バイク)と、こんな素敵な場所にツーリングに来ている最高の休日」ということが伝えたいんです。
「うまそー!」「いいなー!」「うらやまー!」というコメントが欲しいわけではありません。「うわー!こんな時間にやめてくれー!食いたくなっちゃうだろ!」という悶絶コメントがほしいんです。
「最近流行りのタピオカにハマっているトレンディーな私!」ということが伝えたいんです。
ハイコンテクストすぎて、おじさんにはわかりません…。
…ということみたいです(雑)
#わーーーージャニオタさんと繋がるお時間がまいりましたいっぱい繋がりましょ
「#わーーーー○○○」シリーズ。ほかにもいろいろあります。
モーニンググラムの略。朝活ですな。ヨルグラもあります。
いろいろありますねえ(雑)
ヤバイくらい素敵、すごい、美しいという意味。
とまあ、とにかく半端ない数の――英語圏には無いハイコンテクストな――ハッシュタグが存在します。これはもう立派な文化です。
もりあがるTwitter大喜利しかり、ユネスコの無形文化遺産に登録された「和食」も、出汁(だし)や「うまみ」も、日本人の繊細さが生み出したすばらしい資産であり、だからこそマーケティングもハイコンテクストな消費者やユーザーを前提とした繊細できめ細かなコンテクストプランニングが求められると思うのです。
最後に蛇足。
ローコンテクストな英語圏にも、少しハイコンテクストなハッシュタグがあるようです。
#hotdudesreading (本を読むホットな男たち)
#bookfacefriday (金曜日に本の表紙に合わせてピッタリの写真を撮る)
#○○challenge
若干ハイコンテクスト気味なものでも、「フェチ」「やってみた」「うまいね!」「チャレンジ」と、日本に比べるとやっぱり直接的(ローコンテクスト)です。
ということで、マーケターは「日本が世界で最もハイコンテクストな国」であることをもっと知った方がプランニングに活かせるよ、そのセンスを学ぶならインスタのハッシュタグ研究が最適だよ!というお話でした。
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