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#2: 時間切迫の心得、20選

公式戦で、こんな経験はありませんか?

  • 勝っているのに、時間切迫でブランダーをして負けてしまう

  • 持ち時間で大幅リードしていたのに逆に焦って負けてしまう

  • お互い時間が少ないとどうしてもパニックして崩れてしまう

どんなに強いプレイヤーでも、持ち時間が減ると手の精度は落ちます。
試合も佳境に入ったこの状態ではどういった戦略が効果的でしょうか?


1. あなたが時間切迫の時に心がけるべき10点

①積極的に指す
うまくいく可能性が低そうでも、なにかしらの狙いを作って相手を悩ませましょう。時間でリードしている相手が盤上でも全く心配する要素がなければ、試合の流れは一方的になります

②諦めない
相手の少ない持ち時間につけ込もうとする余り、ミスをしたり緩手を指してしまうプレイヤーは多いです。時間も少ない中で、盤上でも望みがないと思い込んでいるような状態だと逆転のチャンスがあっても見逃してしまいます

③相手の持ち時間も少なくなったらチャンス
時間がない状態でずっと粘り、とうとう相手も時間切迫となると、心理的にあなたが有利となります。自信を持って指しましょう。早まったペースに相手がうまく順応できず、考えすぎたり崩れてしまったりすることが多いです

④大局観も忘れない
相手番では、相手が指してきそうな手やそれに対するあなたの応手の他にも、大雑把でいいので実戦的な評価も意識しておきましょう。例えば、劣勢・負けてるけど相手を混乱させるチャンスがありそう・優勢だけど1つミスするだけで負けそう、など。おぼろげにでも把握していないと、決断を迫られた時にキャパオーバーになって自滅してしまうことがあります

⑤後悔しない
時間切迫になってしまった事や、さきほど指すべきだった手などについて悩んでいても意味がありません。もう起きてしまった事は変えられないので、特に時間が貴重な状態では目の前のポジション、次の1手に集中しましょう

⑥急がばお手洗い
集中しなければならないのは盤面と時間の2つの要素に留めたいところ。持ち時間が4、5分辺りまで下がってしまう前にトイレを済ませておきましょう

⑦たまには妥協して安全策を
格下相手でも、相手のほうが持ち時間を多く残し、さらに戦況もあなたにとってだいぶ危険という状況も起こります。ドローでしょうがないと妥協する事もたまには必要です。毎回、意地でも勝ちを狙うことに慣れてしまうと、より堅実なオプションも無意識のうちに除外するようになってしまいます

⑧直感に従おう
読み切れなくて決断しにくい筋があったら、勘でいきましょう。他にも、二択でもう片方の選択がずるずる悪い状況が続くものだったら、一か八かの賭けに出ることも試しましょう。あなたの直感の精度や、感覚と現実との誤差を確認するのも長い目で見て有意義なので、リスクを取ることも必要です

⑨通常の精神状態でないと自覚する
時間切迫では変な筋や要素に固執したり、非合理的な考えが脳内で起こりやすくなる事を覚えておきましょう。簡単な見落としがないか、選択肢は1つ以上あるのかなど、いつもは当たり前にできていることも確認しましょう

⑩迷いすぎる前に指してしまう
ほぼ手を決めているなら、指してしまって次以降の手のために時間をセーブすることも大事です。相手も来るであろう手を計算しやすくなり、応手にかける時間もおさえられてしまうので、早めに決断して指してしまいましょう

2. 相手が時間切迫の時に心がけるべき5点

①相手の時間に気を取られすぎないように
それは決断する材料の1つでしかないので、つけ込もうとあなたの考え方、指し手や指すスピードを大幅に変えるのはやり過ぎな事が多いです。

元世界3位のGM Artur Yusupov:「盤上で勝とうとするか、時間で勝とうとするか、一つに絞ろう。両方ともやろうとするとうまくいかない」

②緩急をつける
急がなくてもいい状況なら、盤面を改善しつつ、相手がどう応えるべきか悩むような静かな1手も効きます。相手は強制性が高い筋やタクティカルな筋を重点的に読んでいるので、ポジショナルな選択を与えれば意外とそれでブランダーを誘えたりします。相手の時間が少ない=難しい変化を選ぶアプローチが勝率を一番上げる、という式が毎回成立するわけではありません。様々な選択を迫ると、相手がどこかで間違える可能性を高められます

③じっくりいたぶる
何か来ると分かっているけど、戦況をうまく変えられない。何手後かに迫ってくる危機を考えなければならない状況はミスも出やすくなります。相手の「身の危険メーター」は常にマックスの状態に入っています。1手1手を凌ぐのに必死で、毎手、少しずつ変わる試合の流れを追っている余裕がないため、先の先を読まないといけないカーブボールは効果的です。次の1手を決めてそのつど指すより、複数手の筋を計算するために時間をかけましょう。事前に読んでいる何手かをノータイムで指せれば、指している手の質を下げずに、時間の面でも相手にさらなるプレッシャーを与えられます

④自信ありげに振る舞う
あなたが今指した手をミスだと気付いたり、相手側の何か良い手を見つけても表情や挙動には出さないように気をつけましょう。時間がない状態では、相手が淡々と指しているという現状もじわじわとダメージが蓄積されます。その一方、センサーも鋭敏になっているので、余裕のあるはずのあなたが急に自信を失くしたりする変化に気づくこともあります。ミスを咎められてしまっても、相手も時間切迫で正確に指し続けにくいので、まだまだ戦えます

⑤相手の時間が少ない時こそ油断大敵
お互いのあらゆる可能性、そして相手が何をしたいか、何を避けたいかに注意しましょう。どんなに強い選手でも、時間がない状況で何手も何十手も良い手を指せる確率は限りなく低いです。ミスをする可能性はあなたより高いので、時間の事は考え過ぎず、良い手を指し続けることに集中してプレッシャーをかけましょう。冷静を心がけ、あなたのペースで指し続けましょう

3. お互い時間切迫の時に心がけるべき5点

①「なるようになれ」精神
お互い時間がない状況は、チェスで一番手に汗握る状況です。メンタル面では「絶対勝つ」より、「どうなるか分からないけど、自分の出せるベストは尽くす」という自信を持ちましょう。「どうしても勝ちたい」などと思ってしまうと、思考の客観性が損なわれ、感情任せの決断をしやすくなってしまいます。例えば、その時点では明らかに最善なのにドローの筋を避けたり、相手が良くなる変化があると分かっている手を捨てきれずに指すなどです

②流れに敏感に
例えば格下の相手がミスをするだろうと高を括り、リスクの度合いが高い手を続けて指すのも諸刃の剣です。慢心や驕りが少しでもあると集中していない証拠なので、何か見落としている可能性が高くなります。いかに冷静に、細部及び全体の流れに気を配れているかが勝負を分けることもあります

③相手も人間
いくら自信があるように見えても、相手も時間がない状況で少なからず焦っていて、ミスをしやすい状況にいる事を覚えておきましょう。もちろん、レーティングが上のプレイヤーの方がこういう状況でもうまい事が多いのですが、アンダードッグにとってのチャンスには違いありません

④負けは自分のせい
時間切迫ではどうしてもどこかでブランダーを指してしまいます。試合がどう進むかをうまくコントロールできないような状態にすでに入り込んでいるわけなので、「時間さえあれば勝てた」というのは言い訳でしかありません。お互い同じ条件なので、相手のほうがうまかったと素直に認めましょう

⑤時間切迫になるべくならないようにしよう
時間切迫でミスが多かったり、勝ち試合を台無しにする事が多いと自覚があるなら、まずは時間切迫にならないように時間管理を改善しましょう。「私は時間切迫でもうまい」と思っている人も、その癖のせいで間違いなく損をしています。時には時間切迫に陥ることは避けられませんが、長い目で見れば、時間切迫での手の精度を上げるより、時間切迫に極力陥らないような時間の使い方を習得する方が、チェス全体に良い影響を与えてくれます。
普段からどれくらい考えているかを意識し、例えば1手に20分も使ってしまうことがあると気づけば、5分以内にポジションをなるべく客観視して論理的と思える手を指すなど、対策を練りましょう。試合後はどこで時間を必要以上に使ったのか、使い過ぎてしまった理由も深く掘り下げましょう

我々の最終的な決定というのはすべて、長続きしない心の状態でなされるものなのだ。

マルセル・プルースト、花咲く乙女たちのかげに(『失われた時を求めて』第二篇)

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