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毛糸も元気もないけれど
毛糸を買いに出掛けたかったけれど、体調が優れず、家から出られない日がありました。
そういう日もあるとさっさと割り切って休めばいいのに、その日はどうにも調子が悪くて…。
「買い物くらい、元気な人なら簡単に行けるのに」
「どうしてみんなが普通にできることができないんだろう」
などと負の思考のループから抜け出せなくなり、寝てやり過ごそうとしても、眠りにつくことさえできませんでした。
心と体を暗い気持ちに支配されてしまい、悔しいやら惨めやらで、情けないのですが、泣いてしまいました。
暗い部屋で毛布にくるまって、しくしく泣いていたら、同居している猫が近寄ってきて、ただ見つめてきました。
慰めるように身体をすり寄せてくるわけでもなく、何をするでもなく、20センチメートルくらい距離のあるところから、座ったまま、こちらをじーっと眺めてきました。
心配している様子もなく、
「無様に泣いてやがるな、こいつ」
とでも言いたげな仏頂面をしていました。
普段はとてもやんちゃで、遊んでと催促してニャーニャー泣いてきたり、いたずらのつもりか不意にタックルしてきたりする猫の仏頂面。
ぶすっとしたその顔を見ていたら、なんだか笑えてきて。
しんどさもいつの間にかどこかへ行ってしまいました。
思い返してみると、彼がうちにやって来たときも、私は泣いていました。
母の友人の家で必死に鳴いていた彼は、ノミだらけの弱った小さな体で、うちに来ました。
猫好きの母は、すぐ彼を動物病院に連れていき、甲斐甲斐しく世話をしました。
言葉にはしなかったけれど、拾った瞬間に、母はうちで飼うことを決めていたようでした。
私は猫を飼うことを否定的に考えていました。
当時、今より体調が悪く、寝ている時間が多かったので、猫の世話をできる気がしなかったのです。
猫を飼うことが決まった日、体調の悪さと猫を飼うことへの不安感で、寝込んでしまいました。
自分のあまりのふがいなさに、布団の中で無様に泣きながら…。
そんなとき、彼は布団に近寄ってきて、私をじーっと見つめてきました。
毛布の上に乗るでもなく、布団の中に入ってくるでもなく、布団の横に居座りました。
撫でてほしいのかと思って、右手を差し出すと、ガブッと噛まれてしまいました。
弱った身体を労わるでもなく、遠慮無く噛んだ姿を見て、この猫は私に面倒を見てもらう気がないのだと察しました。
彼の飼い主は母で、私はただの同居人ということにして、たまにでもお世話の手伝いができれば御の字だと思うことにしました。
拾われてから、日に日に元気になる姿や物怖じせずに家の中を遊び回る姿を見て、何度元気をもらったことか。
撫でるとゴロゴロと鳴いて、撫ですぎると容赦なく噛んでくる彼がとても愛おしくて、
「この子に会うために、自分は生まれてきたのかもしれない」
なんてことを本気で考えることもあります(飼うことを反対してたくせに…)。
猫のぬくもりが近くにあることで、こんなに救われる日がくるなんて、想像もしていませんでした。
買いたかった毛糸は手元にないし、出掛ける元気もないけれど、身体を休める家があって、近くには猫のぬくもりもある。
これからも泣いてしまう日が来るかもしれないけれど、きっと彼の仏頂面を思い出して笑うと思います。
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