「つぶしのきかない仕事」で埋もれる人/「つぶしのきかない仕事」でも稼ぐ人
つぶしがきかない仕事はAIに駆逐される?
今まで専門性が高く、機械に代替されることはないと思われていた業界から、雪崩のようにAIやRPA(ロボティクス・プロセス・オートメーション=ホワイトカラーの単純な間接業務を自動化する技術)による機械化が進んでいるようだ。
2018年6月4日の日本経済新聞によると、アメリカの国際法律事務所では、時間がかかっていた契約書の単純なチェック作業などはAIの活用で減るため仕事内容が大きく変わり、今後は経営者のパートナーとしての事業機会創出などの提案力が求められるようになるとのことだった。
出所:AI時代、人は「提案」集中 米国際法律事務所トップに聞く ポール・ローリンソン氏 カナダ・独に拠点、新事業練る
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO31252300R00C18A6TCJ000/
私が新卒で就職活動をしていた20年ほど前は、弁護士をはじめとする高度な知識や資格を必要とする仕事は花形職業で、絶対安泰だと思う人が大半だった。今このように、かつて希少性があった仕事からどんどん機械化されていく状況には驚きを隠せない。
つぶしが効く専門の知識や資格を得るためにたくさん勉強して暗記して、正確な判断ができるように頑張ってきた人ほど、かえってつぶしが効かなくなっていくという状況のなか、「今後つぶしがきかなくなるのでは」という危機感をもった企業や、つぶしがきかないと思われてしまっている部署の社員のモチベーションを上げたいという企業からの講演、研修の依頼が私のところに増えてきている。
なぜ私に依頼がくるかというと、一般的に「つぶしがきかない」と思われていたようなキャリアを経て独立しているからではないかと推測する。
(私はコンサルティング会社の資料作成専門部署を経て独立した。今でこそ「資料作成力」はビジネス誌の特集になり、重要性が認知されるようになったが、当時はパワーポイントをひたすら作り続ける、表舞台にはでない地味な仕事だと認識されることが多かったように思う)
機械にとって代わられる、は本当か?
「つぶしがきかない」におびえるのは企業の人事担当だけではない。むしろ会社員として働く個人こそ切実かもしれない。
●今の仕事はつぶしがきかないから不安だ
●自分にしかできない仕事をしたい
●会社に依存せず、自分の能力を生かした天職を見つけたい
そう思い、日々自己研鑽を続けている人も多いと思う。
しかし、ここでぜひ考えて欲しいことがある。自分の今の仕事を「つぶしがきかない」という言葉でジャッジして、解決策を外に求めて思考停止してはいないだろうか。
ほんとうに、あなたの仕事は「つぶしがきかない」のだろうか。
私は「つぶしがきかない」という言葉こそが、自分で自分の仕事をつぶしがきかないものにする「呪い」なのではないかと思うのだ。
自分が今、AIにすぐに取って代わられるような単調な事務作業を仕事にしていると思うと腐ってしまうが、機械に代わる仕事/代わらない仕事の目利きは、あなただからできる、と言えないだろうか。
現場の事務工程に精通しているあなただからこそ、
●これは機械にもできるようになる
●これだけは機械にできない
という目利き力、判断力は磨かれる。AIに代替する作業を決めるのは、人なのだから。
今の仕事が「つぶしがきかない」ものだと思うのだったら、逆に「つぶしがきくもの」って何なのか?を考えてみよう。
例えば、「つぶしがきく」と言われる代表が「営業」だが、営業はどうして「つぶしがきく」のか?と深く考える。
そうすると、「コミュニケーション能力」がキモだとわかるだろう。だったら、営業的要素を今の仕事に盛り込むためにはどうしたらいいかを考えれば良いのだ。
自分の仕事を作業ととらえるか、価値ととらえるか
ここで、私の過去の葛藤について少し話したい。
私もかつては自分の仕事を「つぶしがきかない」と思って焦るひとりだった。コンサルティング会社勤務といっても資料作成のサポートスタッフでコンサルタントではなかった。本当は花形のコンサルタントになりたかった。でも能力不足でなれなかった自分にウツウツとしていた。
毎日何百枚もパワーポイントの資料を作っていると、自分が「資料作成マシーン」のように思えてくることもあった。自分の名前で仕事がしたいと思っても、ただの作成部隊の一人だと思われているような気がしていた。(実際はそうでなかったのだが、私の思考フィルターがそうさせていた)
資料作成だけをしている部署なんて、コンサルティング業界以外に無かったため、転職しようにもできないと思っていた。
そんなとき、上司に言われた次の言葉で私の仕事に対する意識が変わった。
「私たちの仕事は、ただのサポートスタッフではなく、会社のクオリティを維持する最後の砦だ」
コンサルティングという仕事は、頭の中が商品だ。形のない商品を、形として見えるものにするのが、私たちの部署だ。だからこそ、細部にこだわった美しい資料、分かりやすい資料を作ることが、この会社のブランドをしょって立つことになるのだ、という意味だ。
意味づけが変わった瞬間、見える世界が変わった。改めて自分の仕事を見てみると、資料作成の部署というのは経営戦略が作られていく課程を生で形として見ることができるすごい場所だとわかった。資料の中身を読み込ことで企業が戦略を立てていくダイナミズムを少しだが伺い知ることができた。資料を読み込むと「こうしたほうが分かりやすい」と思えるようになり、伝えたい表現方法を提案することも、徐々にだができるようになった。
「意味」を見いだすと心構えも変わる。心構えが変わるまでは散々だった社内評価も、徐々に上がっていった。
私は2009年、『「朝4時起き」で、すべてがうまく回りだす!』(マガジンハウス)出版と同時に独立したが、出版の企画が通ったのは、資料作成部署での会社員の時だった。
通っていた出版のためのセミナーで、敏腕編集者の前で企画をプレゼンする機会を得られた。私はそれまで、人前のプレゼンには全く慣れていなかった。PCとにらめっこして資料をひたすら作る、職人のような仕事をしていたものだから、前に出て話す、ということはほとんどしていなかったのだ。
しかし、いざプレゼンをすると、なんとか人前で話せている自分に気がついた。
毎日100枚、通算7万5千枚以上のパワーポイントスライドを作っていた経験は、無駄ではなかったのだ。
資料作成を「作業」ととらえていたら、経験は無駄だったかもしれない。しかし、資料作成の本質は、混沌とした情報を整理してまとめ、分かりやすい形に編集して伝えるという「価値」だった。
作業だけを見ると、つぶしがきかない。しかし、作業の価値を知ると、どこでも通用するということに気づいた瞬間だった。
つぶしがきく人間は「自分商品化」がうまい
自分の作業の価値がどこにあるか、そこに気付くことができるかどうかが、「つぶしがきく」自分になるための鍵だ。
では、どうしたら価値に気付くことができるか。私は「自分商品化」を小さく繰り返し、市場に問うことだと考える。自分商品化とは「自分の価値がここにあるのではないかな?」と仮説を立て、パッケージ化し、値付けして販売しながら試行錯誤を繰り返すことだ。
原価がもともと分かる商品の値付けは比較的簡単だが、自分の価値を値付けするのは難しい。モノの原価はネットですぐに検索できる時代に私たちが求められるのは、自分という商品がいくらで、どんな価値があるかを知る力だ。あてがわれた値段をそのまま受け入れるのではなく、新たな価値を提案し、それに値段を付けることを繰り返す訓練をすることが、今後を生きぬく鍵となる。
「つぶしのきかない仕事だ」と思っていればそれまでだ。今の仕事を「つぶしのきく仕事」にするのはあなたの意識次第だ。
写真は、2011年よりプロデュースしている朝専用手帳『朝活手帳』。飽和状態の手帳市場の中、「ふだん使いの手帳のほかに、もうひとつ持てるサブ手帳」「朝4時〜朝9時までしか書けないプライベート専用手帳」と価値を再定義して販売。9年連続で支持いただける手帳となった。
今年度版は9月21日発売なので、興味があれば書店やLOFT、東急ハンズなどで手にとっていただきたい。今年のリバーシブル帯は人気イラストレーターの松尾たいこさんに描いていただいた。朝陽に向かって右肩上がりにとんでゆくアーリーバード。手に取るだけで未来が明るくなりそうな手帳に仕上がった。
まとめ
●自分の今の仕事を「つぶしがきかない」という言葉でジャッジし、解決策を外に求めて思考停止するとジリ貧になる
●「つぶしがきかない」という言葉こそが、自分で自分の仕事をつぶしがきかないものにする「呪い」だ
●自分の仕事の作業だけを見るな、作業の価値に着目せよ
●自分の仕事の価値に仮説を立て、パッケージ化して値付けする「自分商品化」の訓練をはじめよう