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妻恋③

いつもよりも、ぐったりしているめぐみ。精魂果てたような姿だ。私も、あまりにも射精の快感が強すぎて、荒い息遣いのままめぐみを見つめている。
「ごめんなさい……変な事言っちゃった」
 めぐみは、罪悪感にまみれたような顔だ。そんなに気持ち良かったの? と聞くと、
「……うん。ダメって思うほど感じちゃった……ごめんなさい」
 めぐみは、モジモジと恥ずかしそうに謝る。めぐみは、完全に達也くんに心奪われてしまっているみたいだ。自分で招いた事なのに、今さら後悔してしまう。どうしてめぐみを止めなかったのか、けしかけるような事をしてしまったのか……考えてもわからない。ただ、めぐみが悲しそうにしているのが耐えられなかっただけだと思う。


 本当に、達也くんと結ばれたいのかと聞くと、
「そ、それは……」
 と、言いかけて口ごもる彼女。もう、答えを聞いたようなものだ。本気で結ばれたいと思っているのは間違いなさそうだ。また、デートするつもりでしょ? と聞くと、
「……もう、約束しちゃった。来週の日曜日、遊園地行く。サーキットのあるところ。プロのレース見たいんだって」
 と、申し訳なさそうに答える彼女。もう、恋人同士みたいになっている。でも、それも私が招いた事だ。めぐみの恋を応援すると言ってしまった私に、文句を言う権利もないと思う。そういう事になるかもしれない? と聞くと、
「そんな事ないと思う……達也くん真面目だし……結婚してるって知ってるから。でも、そうなったら良いなって思ってる」
 と、不思議な表情で答える彼女。期待と不安、罪悪感が入り混じっているようだ。でも、私がそうなるとイイねというと、一瞬驚いた後、とても良い笑顔をした。
「うん。本当にありがとう。俊くん、愛してる。本当に大好きだよ」
 めぐみは、揺れる想いを抱きながら、私にキスをしてくれた。どうなるのだろう? 不安で仕方ない。それでも私は、夢中で彼女を抱きしめた。

 週末のデートの事を話して以来、めぐみは不安そうな顔をしなくなった。いつも以上にご機嫌で、楽しそうに過ごしている。楽しそうな彼女を見ていると、こっちまで幸せな気持ちになるが、楽しそうにしている理由が達也くんとのデートのせいだと思うと、複雑な気持ちにもなる。
 自分の妻の心の中に、他の男がいる……許されない事のはずだ。でも、私はそれを受け入れているし、応援すらしている。そして、デート自体は週末だが、めぐみは今日もパートで拓也くんと一緒だった。
「うん。送ってもらったよ。バイクって、気持ちいいね。私も、免許取ってみようかな? どう思う?」
 どちらかというとインドア派のめぐみが、キャラクターには合わない事を言い始めた。危ないんじゃないの? と言うと、
「うん。でも、本当に気持ちいいんだよ。風になるみたいな感じ? 上手く言えないけど、ビューってなるの」
 相変わらず擬音が多いが、その言動が本当に可愛らしいと思う。
「俊くんも取ったら? 一緒にツーリングとかしてみたい」
 めぐみは、本当に無邪気な顔で言う。達也くんと行くんじゃないの? と聞くと、
「そ、そうだね。でも、俊くんとも行きたいな。絶対、楽しいよ」
 めぐみは、熱心に言ってくれる。めぐみの私に対する愛情は、疑いようがないと思っている。達也くんへの気持ちが強くなっても、私への気持ちが弱くなるという感じはない。むしろ、前よりも強くなったと感じるほどだ。

 正直、バイクに乗る事に興味はない。でも、めぐみにそこまで言われると悪い気はしない。じゃあ、一緒に教習所に行こうかと提案すると、
「うん! 楽しみだね!」
 と、心の底から嬉しそうに笑った。めぐみの動きは早く、次の日には入校案内と申込書を持ってきた。河川敷の所にある教習所で、家から歩いて行ける距離だ。めぐみのやる気が強すぎて驚かされる。達也くんの影響だと思うと、複雑な気持ちはある。でも、私と一緒に免許を取りたいと言ってくれる事に、ホッとする気持ちもある。

 そして、入校した。二人だと結構な金額になった。でも、普通免許は持っているので、そこまで高額ではない。しかも、めぐみが調べてバイク屋さんでバイクを買う段取りまでしたので、免許取得費用の補助まで付くそうだ。
 バイクは、125ccのマニュアルミッションの、ネオクラシックタイプとか言われるバイクだ。てっきり、達也くんの影響でフルカウルの速そうなバイクになると思ったが、意外にのんびり走るタイプのバイクになった。
 最初は一台で、慣れてきたらもう一台買ってツーリングに行こうという話になっている。驚くくらいに展開が早い。でも、生き生きしているめぐみを見ていると、やっぱり幸せな気持ちになる。

 日曜日の達也くんとのデートを前に、土曜日に早くも教習一日目になった。久しぶりに学校に行くので緊張してしまう。考えてみれば、社会人になるとなかなか人に教わる事もないし、集団で活動する事もない。緊張するが、楽しみな気持ちも湧いてきた。
 でも、めぐみはかなりガチガチだ。
「大丈夫かな? バイク、起こせるかな?」
 どちらかというと運動も苦手で、筋力もない彼女なので、不安で仕方ないようだ。そんなに心配しなくても大丈夫だよと伝えると、
「うん。何かあったら助けてね」
 と、頼ってきてくれる。やっぱり、男としては頼られると嬉しい。そして、教習が始まった。最初は引き起こしだ。でも、バンパーガードが付いている車両なので、完全に横倒しにはならない。引き起こしは凄く簡単だった。
 めぐみも、最初こそ手間取っていたが、意外にあっさりと引き起こせた。嬉しそうな顔をする彼女。やっとリラックスできたみたいだ。

 色々説明があり、さっそく乗る事になった。クラッチ操作がちょっと難しかったが、動き出すと意外に簡単だ。そして、すぐに楽しいと思えた。アクセルをひねると、加速する……その感覚が、モビルスーツを操縦しているような感覚だ。自分の力が拡大したような不思議な感覚に、つい顔がほころぶ。
 めぐみの方を見ると、やっぱり楽しそうだ。意外に手間取る事もなく乗れていて、センスがあるのかな? と思ってしまった。

「ビューンってなるでしょ!? 楽しいでしょ!?」
 めぐみは教習が終わるとハイテンションで話しかけてきた。教習前の不安な顔がウソのように、楽しそうで嬉しそうだ。私は、素直に楽しいと伝えた。
「良かった。無理に誘っちゃったかなって心配だったから……。早くツーリング行けるようになると良いね!」
 めぐみは、本当に良い笑顔で言ってくれる。でも、きっと達也くんとのツーリングも楽しみにしているんだろうなと感じてしまった……。
 そして、夕食を食べて帰宅した。めぐみは、食事の間もずっと楽しそうに話してきた。自分でバイクを運転した事が本当に楽しかったみたいだ。ただ、私は明日の事が気になっていた。明日は、めぐみは一日デートだ。達也くんと遊園地に行く。想像するだけで、ヤキモキしてしまう。それなのに、めぐみを止めないのは我ながらおかしいと思う。

 明日は、バイクで行くのかと聞いた。
「え? う、うん。そうだよ。電車で行くつもりだったけど、私が教習所に通うって話したら、勉強のためにもバイクで行こうって。運転の仕方、見せてくれるって」
 めぐみは、突然達也くんの話を始めた私に、戸惑いの顔を見せる。明らかに動揺している。早く彼とツーリングに行きたいんじゃないのかと聞くと、
「うん。楽しみだよ。凄く楽しみ……」
 と、少し言いづらそうだ。でも、明らかに楽しみにしているのが伝わってくるような表情もしている。達也くんは、めぐみの事をどう思っているの? と聞いた。めぐみの気持ちは何度も聞かされているが、相手はどう思っているのだろう? 気になってしまう。
「好きだって言ってくれてるよ。俊くんがいなかったら、恋人になりたいって言ってくれてる」
 めぐみは、素直に話し始めた。隠そうとか、そんな気持ちはないみたいだ。人妻と知りながら、デートをする……キスはすでにしているし、最後まで行くのは時間の問題だと思う。彼は、リスクを感じていないのだろうか? それこそ、慰謝料などの請求をされる事もあるはずだ。

 めぐみはどうなの? と聞くと、
「私も、恋人同士になりたいって思ってる。俊くんが背中押してくれたから、そうなるつもり。ゴメンね、ありがとう」
 と、感情を込めて言う彼女。もう、あまり葛藤もないみたいだ。今さらながら、やってしまったなと思う。後悔の気持ちが膨らむ。でも、めぐみの喜ぶ顔が見たいという気持ちは大きい。それに、寝取られ性癖なんかではないと思うが、興奮する気持ちも否定できない。
 すると、めぐみも質問してきた。
「俊くん、もしかして興奮してるの? なんか、凄くなってるよ」
 私の股間を見て、そんなことを言っている。慌てて隠したが、確かに勃起している。達也くんの話をし始めて、自分でも驚くくらいに勃起しっぱなしだ。素直に興奮する事を伝えると、
「この前も、すごかったもんね。その……達也くんだと思ってしてって言ったとき……。私も興奮しちゃったけど、俊君もすごかったよね? どうして?」
 と、あの時のセックスの事まで言い始めた。確かに、あの時は以上に興奮した。驚くほど大量に射精もした。自分でも、よくわからないと答えた。実際、本当によくわからない。寝取られ性癖なんてないと思っているので、興奮した意味がわからない。
 めぐみが達也くんとセックスするなんて、イヤに決まっている。出来れば、止めたいと思っている。それなのに、想像すると興奮してしまう……。

「やっぱり、寝取られ性癖なのかな? そう言うのが好きな人もいるんだよね?」
 そんな風に聞かれて、慌てて否定した。
「違うんだ……もしそうなら、ちょうど良いのになって思った。俊くんも喜ぶし、私も嬉しいし……」
 そんなことを言う彼女。私は、ゴメンねと謝った。寝取られ性癖じゃなくてゴメンというのもおかしな話だと思うが、上手い言葉が浮かんでこなかった。そして、帰宅して風呂に入り、就寝時間になった。でも、寝ようと思っても勃起が収まらない。明日のことを想像すればするほど、いきり立ってしまう。

「フフ、大っきくなってるよ。もしかして、明日の事想像してる? 私が、達也くんとそういうことしちゃうの、想像してる?」

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池保 優
ふ~ん、むっつりなんだ!