建物の断熱性能
冬に暖房のために使うエネルギー量は相当なものだが、年々厳しくなる夏の暑さに伴って、夏季中の冷房に使用するエネルギーもますます増えている。建築部門のエネルギー消費量を減らすためには、断熱性能を高めるとともに、ソーラーパネルの設置などによって、外からのエネルギー供給が不要となるゼロエネルギーハウスやゼロエネルギービル化を推進することが不可欠である。また、冷暖房は人々の命と健康に直結するもので、省エネのために我慢するようなことは決してあってはならない。ヨーロッパ諸国では、一定以上の室温に保たれた部屋で暮らせることは、基本的な人権であるという意識があるらしい。例えばドイツでは、賃貸法(Mietrecht)という法律によって、賃貸物件に人を住まわせる場合に、維持しなければならない室温範囲というものが、居間、台所、寝室、バストイレに、18℃から24℃の間のそれぞれ異なる温度範囲が細かく決められているという( https://chikalab.net/articles/475 )。日本では、ヒートショックによって年間1万7000人が死亡しているという統計もあり(2011年の1年間の推計。独立行政法人東京都健康長寿医療センターの調査)、日本の寒い家は確実に日本人の健康をむしばんでいる。
建物の断熱性能をあらわすパラメーターに、UA値(ゆーえーち)というものがあり、広く使われている。日本語では外皮平均熱貫流率と言うが、なぜUAなのかは調べておきたい。
UAの単位は[W/m2 K]であり、室内と外気の温度差1℃あたりに、単位面積あたりに熱の流入・流出が何ワットかを表している。値が小さいほど断熱性能としては高い。日本では、気候条件に応じて8つの区分わけがされており、それぞれUA値の基準値がさだめられている。ちなみに区分8は沖縄だが、そこには基準は設定されていない。
https://www.isover.co.jp/region-by-climate
https://www.sou-sei.com/blog/heat20%E3%81%A8%E3%81%AF/
これまでの省エネ基準に関する法律の変遷については、こちらの記事https://dannetsuzai.jp/column/84/ に詳しく書いてある。
https://www.zoukaichiku.com/shoenekijun
これらは基準とはいえ、法的に適合義務があったのは、300㎡以上の非住宅建築物のみであり、普通の一般住宅に対しては、説明義務にとどまっていた。それでは省エネがすすまないだろうということで、2022年6月に国会で法案が可決され、改正建築物省エネ法が成立した。そこでH28年省エネ基準とほぼ同等の、断熱性能等級4が定められ、
地域区分 1 2 3 4 5 6 7 8
等級4(UA値) 0.46 0.46 0.56 0.56 0.75 0.87 0.87 -
すべての新築の建物に対して、この断熱基準に適合することが2025年度から義務付けられることとなった。
さて、これらの値は諸外国と比べてどうなのか。
この図を見ると、2025年から義務付けられる等級4の基準で、最も厳しい北海道の値(0.46)であっても、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、スウェーデン、いずれの国の基準よりも緩い基準であり、これで国民の健康を守れるのかははなはだ不安である。
https://www.sou-sei.com/blog/heat20%E3%81%A8%E3%81%AF/
https://www.zoukaichiku.com/shoenekijun の記事によると、2030年までに適合義務基準として断熱等級5(ZEH基準)が求められるようになるだろうとしている。また、断熱等級6(HEAT20 G2)、断熱等級7(HEAT20 G3)が基準として新設されることになった。等級6で、ようやく諸外国と肩を並べるところになるが、その法的適合義務化は2030年より早く来ることはなさそうである。自らの健康を守り、ゼロエネルギーハウスの実現を加速するには、住宅や建物建設の発注者側が、施工業者に対して等級6や7の性能を積極的に求めていくことが必要だと思われる。