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分解を通じて未来が見える「分解のススメ」のススメ

ものを分解すると今まで知らなかった「世界」が見える。わたしがそんなワクワクする世界の扉に手を掛けたのは、大学生の頃でした。

大学の電子工作の授業の成果物で、「100回振ったら止まる目覚まし時計を作ろう」と計画していましたが、振る動作をどういう方法で検知すればいいのか分かりませんでした。授業にアシスタントで入っていた先輩へ相談したところ、「万歩計を分解して、そのパーツを使えば良いんじゃないか」というアドバイスをもらい、初めて既製品の分解にチャレンジすることになりました。

万歩計を分解すると、歩数をはかる振り子のようなものが入っていて、実際に振ってみると「カチカチ」と音がなって、「カチカチ」となった分だけ歩数が測定されます。

この時、仕組みに感心するとともに、万歩計は使ったことはあったはずなのに、仕組みを全く知らなかった自分に気づきました。機能の恩恵だけ受けて、仕組みの部分は自分の中でブラックボックス化してしまっていたのです。この改めて、ものの仕組みを知る面白さに気づきました。

分解って、面白い。

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コントローラーを分解して…

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パックマン専用コントローラーにしてみたり。
これも分解するからこその面白さ。

時は流れて昨年より、分解に特化した「分解のススメ」というオンラインイベントが不定期開催されています。回路設計エンジニア、研究者、DJ、プロダクトデザイナーといったさまざまな立場の方が、さまざまな角度から分解の面白さを語るという、分解ファン垂涎もののイベントです。

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インターネット上にアーカイブも公開されていますが、このイベントがディープで魅力的すぎるので、今回は、そんなニッチすぎるイベントを主催する高須正和さんにインタビューをしてみました。

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高須正和さん

ものを作って分解することでしか見えない世界がある

池澤: このイベントはどういうきっかけで誕生したものなのでしょうか?

高須: 一番大きいきっかけは、2018年に出版された『ハードウェアハッカー』の翻訳をしたことです。この本は「ものを分解する行為を通じて、どこまで世の中が見えるのか」について、真正面から向き合った本です。

分解することで、他のやり方だとそこまでたどり着けない、世の中の仕組みまで見えてくる。世の中の見方を変える良い本だったと思っています。

池澤: 『ハードウェアハッカー』はわたしも読みました。この本はパラパラめくってみるとハードウェア開発や改造の本に見えるのですが、中国で面白い製品が次々と生み出される理由は何か、これからイノベーターになるためにはどうしたらいいのかなど、大局的な視点も描かれていて面白かったです。リアリティあふれるハードウェアの製造現場の泥臭い話を深堀りしていくことで、経済やイノベーションなど視座が高い話が見えてくるという。

高須: この本のイントロに「僕は抽象的な(書かれないと存在しない)ことにはいつもあまり興味がなく、ハードウェアに興味がある。(中略)僕は子供の頃からいつも、ブロックを積み上げたり叩いたりするようなフィジカルなことで物事を理解してきた。」と著者のバニー・ファンの言葉があって、これはものすごくいい言葉だなと思っています。

「分解のススメ」で登壇いただいている世界一の分解分析者、テカナリエの清水洋治さんのプレゼンテーションなんかが象徴的ですが、「フィジカルなことで物事を理解する」ことで、中国の製造業やイノベーションは何か、他の誰も見えなかったものが見えているんですよね。

分かりやすく言葉にできる知識の価値より、手を動かして得られる非言語の知識の価値のほうがずっと高い。実際、分かりやすく言葉にできる知識は、ググるとすぐに答えが出てくる。

こうした言語化できない価値は、ものを作るか分解するかじゃないとたどり着けないんですよ。そうした分解の面白さにフォーカスしたイベントが「分解のススメ」です。

池澤: 実際、テカナリエの清水洋治さんのプレゼンテーションのなかで、家電の基板に乗っている半導体チップの中身まで見ると、その会社の技術レベルが分かったり、さまざまな製品に採用されているチップがどこの国で作られているかを追っていくと、なぜ日本メーカーが勢いがないのかが分かったりと、思った以上に奥深い世界が広がっていることを学びました。

わたしの知っている分解の面白さは「ものの仕組みが知れて楽しい」というところで止まってしまっていたので、分解をすることで、ここまで世の中が見えるというのは、とても驚きでした。

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半導体チップの中身
(写真:『ハードウェアハッカー』 Bunnie Huang CC-BY 4.0)

分解は設計者との対話

池澤: 高須さんは分解の魅力ってどんなところだと思いますか。

高須: 設計者との対話ですよね。

ジョブズのインタビュー100回読んでもアップルの物作りなんて全く近付けない。近づくためには自分でアップル製品みたいなものを作るか、アップル製品を分解するかの2択です。

ジョブズやジョナサン・アイブ自身でさえ言語化できないノウハウが iPhone には詰まっているし、彼ら自身も iPhone に詰まっているノウハウをすべて知っているわけではない。

プロダクトになると、ひとりが最初から最後に作ったわけじゃなくて、いろんな人の言語化できないノウハウがたくさん積み重なって成立しているわけです。

なので、そうした非言語の知識を得るためには、ものを作ったり分解したりしなくてはいけないんですよね。

池澤: わたしがソフトウェアエンジニアとしてプログラムを書くときも、実際にプログラムを書く時間より、他の人が書いたコードを読んだり、設計を考えたりする時間のほうが長いです。それに近そう。

分解を通じて未来を見る

池澤: 記憶に残っているプレゼンってありますか?

高須: 全部ですね。100円均一の商品を分解しまくる話も、音を出すガジェットを改造して音の変化を楽しむサーキットベンディングの話も、プロダクトデザイナーが分解を楽しむ話も、例を挙げるとキリがないですが、全部面白かったです。

その中で特に言及するなら、個人的には、マイコンチップの分解の話は格別に面白いです。

2011年に「ソフトウェアが世界を飲み込んでいる」とマーク・アンドリーセンが言ったように、ソフトウェアは、銀行業務や名簿管理、駅の改札、デリバリーの配達員、いろんな人達の仕事を飲み込んでいます。そしてこれは現在進行で続いています。

この一番の原動力になっているのはムーアの法則です。なので、産業を考えるときにムーアの法則について考えることはとても大事だと思っています。

最近だと、アップルはもちろん、テスラみたいなメーカーも自前でマイコンチップを作るようになりました。メーカーもここから最適化しないと良いものは作れないということに気づいてきたんですよね。

でも、こういう変化は、マイコンチップを分解して詳しく解析をしている、金沢大学の秋田純一教授やテカナリエの清水さんは、もっと前から気づいているはずです。彼らは分解を通じて、3年先の話ではなく、はるか未来の産業まで見通しているんです。

秋田先生の『揚げて炙ってわかるコンピューターのしくみ』は名著です

分解で知った謎のメーカーを訪問してみる

高須: あと、個人的に思い入れ深いのは、thousanDIY さんの100円ショップのガジェットを分解してみる企画です。

池澤: 100均はすごいですよね。私もはじめて分解した製品は100均の万歩計でした。高い製品に比べて分解するのも簡単だし、分解用に複数個買っておけるし、分解を通じて、値段を抑える工夫や手を抜いちゃった箇所が分かって学びがあるんですよね。

高須: thousanDIY さんの発見のひとつに、Bluetooth を搭載しているどの製品を分解しても「JieLi」というあまり聞かない半導体メーカーのBluetoothチップが出てくるというものがあります。

このメーカーは ZhuHai JieLi Technologyという会社で、「日本じゃなかなか知られていないけど、実はすごい会社なんじゃないか」という話をthousanDIY さんから聞いて、中国に住んでいる僕が実際に行ってみたわけです。

すると、会社には400人もいて、全員がチップ設計者というすごい技術を持った会社でした。Bluetooth チップの設計の受託に特化しているようです。

池澤: thousanDIY さんが分解で知ったことを、高須さんが実際に現地に赴いて確かめに行くっていうのがすごいですね。分解ひとつで、そこまで掘り下げられるのか、奥が深すぎる。

高須: そうやって走って現地に行くまでが「分解のススメ」コミュニティなのかもしれないです。更に言うと、その会社と一緒に仕事をするところまでなのかもしれない。そしてその縁から、また新しい製品が作られていく……ところくらいまで見据えて日々活動しています。

■ 「分解のススメ」アーカイブ

過去の「分解のススメ」のアーカイブ映像はこちらから。

■ 関連ニュース

本記事は、日経MJでの連載『デジもじゃ通信』と連動した記事になります。

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池澤 あやか
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