選択的夫婦別姓について、わたしへのよくある質問
わたしは選択的夫婦別姓の導入を支持しています。
この話題を出すたびにいろいろな疑問・質問が大量に飛んできて、何度も同じ質問に答えるのも大変なので、よくある質問をまとめたFAQを用意しました。
あくまで私見なので、他の選択的夫婦別姓賛成派の方の意見を代弁するものではありません。
よくある質問は、適宜追加する可能性があります。
(2024.09.14 更新)
選択的夫婦別姓にまつわる基礎知識と私見
まず、法務省の選択的夫婦別姓についてのページを読みましょう。
そもそも選択的夫婦別姓制度とはなにか、どういう検討がなされてきたか、よくある質問等がまとめられています。
そのなかでもよく投げかけられる質問を抜粋・引用して、適宜わたしの見解を添えます。
Q. 選択的夫婦別姓とはなんですか?
Q. 別氏夫婦を認めたときの子どもの氏は、どうなるのですか?
「結婚の際にあらかじめ話し合っておく」のがわたしも良いかと思います。産前後にあまり揉めたくないですからね。
子供が全員が同じ氏を名乗るかどうかについては、個人的にはカップルで話し合えば良いのではないかと思いますが、令和4年度の法務省の調査によると、世論的には「きょうだいの名字は同じにするべきである」が多数であるようなので、ひとまず国民感情に沿ってもよいのではないかと思います。
Q. 別氏夫婦の戸籍は、どうなるのですか?
平成8年の答申では、別氏夫婦の戸籍の記載例が示されました。妻の姓が別姓であるだけの非常に軽微な変更であることが分かります。
しかし、どうやら保守層のなかには「同一戸籍には同じ姓の人間のみにするべき」という考え方もあるようです。わたしは戸籍にこだわりがないのであまり理解できませんが、それならば、外国人との結婚のように別戸籍でも良いのではないですか。
選択的夫婦別姓を望む人間のほとんどは、職業生活や日常生活を送るうえで旧姓使用があまりに不便で困っている人がほとんどなので、戸籍への記載の仕方にこだわりはないと思います。
選択的夫婦別姓制度についての私見
Q. あなたは選択的夫婦別姓が認められないことで、具体的に何に困っていますか?
こちらの記事に詳しく記載しました。ご参照ください。
Q. 選択的夫婦別姓制度は、子どもの姓でもめませんか?
カップルによっては、現行制度上の法律婚でも「どちらが改姓するか」で揉めます。これは結婚前に「カップルの姓」と「子供の姓」どちらの姓を採用するかセットで揉めてる状態です。
選択的夫婦別姓制度上では、「カップルの姓」で揉めないぶん、「子どもの姓」だけ話し合えばよいので、「カップルの姓」と「子供の姓」の双方で揉める制度よりは、むしろ深刻さの軽減になってます。
Q. 親と子どもの氏が違うのは子どもが可哀想です。
夫婦同姓が強制となっているのは日本だけです。両親が別姓の外国人カップルの子どもたちは可哀想でしょうか?
「日本は諸外国と文化が違う」という意見もありますが、日本の現状制度下でも、外国人と日本人カップルの子どもや、事実婚カップルの子ども、離婚して親権だけ持っている親の子など、親と姓が違う子どももいます。その人達は可哀想ですか?
Q. 最高裁で夫婦同氏制度は合憲という判決が出ました。現状で問題がないのではないですか?
法務省の見解を引用します。
合憲判決はなされたものの、司法が「現状維持で問題がない」と判断したわけではなく、本件は婚姻制度や家族の在り方と関係する重要な問題なので、国会で話し合われるべきと述べています。
また、合憲であるか、違憲であるかは、最高裁の裁判官のなかでも意見が割れています。
特に、2021年の判決では15人中唯一の女性裁判官は違憲との見解、2015年の判決では15人中3人の女性裁判官は全員違憲との見解をしめしていたことには注目するべきではないでしょうか。
日本弁護士連合会の声明においても、夫婦同姓制度は婚姻の自由の制限であり、法の下の平等に反すると指摘されています。国連女性差別撤廃委員会からも是正勧告が出されています。
Q. 選択的夫婦別姓制度以外の方法で解決できませんか?
確かに、別姓が認められないために発生するわたしの困りごとを解決するには、別の方法でも実現可能です。例えば、事実婚を法律婚と同等に権利拡大する、パートナーシップ制度に法的拘束力をもたせる、旧姓に法的拘束力を持たせる維新案などが考えられます。(現在の旧姓使用は大して使えないので個人的には論外です。)
しかし、選択的夫婦別姓制度が最も簡単でコストのかからない軽微な改修であり(「Q. 選択的夫婦別姓制度を導入するのは大変じゃないですか?」を参照)、日本では法的拘束力をもつと言われた書類が実際に海外でも使えるかを心配する必要もなく、いざ導入が決まってしまえばすぐ自分の不都合が解決できそうという理由で、選択的夫婦別姓制度を推しています。
Q. 選択的夫婦別姓制度を導入するのは大変じゃないですか?
民法と戸籍法を改正すればよいだけです。法務省によると、平成22年に準備された改正法案は、現行法案と改正法案がセットになって掲載された状態でPDFにしておよそ4枚分しかありません。
事実婚についての私見
Q. 事実婚で別姓婚を実現できませんか?
事実婚をすれば確かに別姓婚は実現できます。しかし、事実婚と法律婚にはさまざまな違いがあります。詳しくは、内閣府男女共同参画局総務課調査室のまとめた「いわゆる事実婚に関する制度や運用等における取扱い」をご参照ください。
法律婚に比べ、事実婚で発生しうるデメリットは、遺言をつくる、公正証書を巻く等で解決できそうなものもありますが、どうしても避けられそうにないデメリットもあります。所得税の配偶者控除が受けられない点、相続税の配偶者の税額軽減が受けられない点、配偶者ビザを取得できない点です。
所得税の配偶者控除は、納税者の所得が1000万以下かつ配偶者の所得が133万以下の場合のみですが、該当者にとっては大きな税制優遇です。
相続税の配偶者の税額軽減は、法的な配偶者の場合、相続財産が1億6,000万円までなら無税になると定められています。事実婚の場合は、そういった制度はありません。
配偶者ビザについては、事実婚でも発行可能な国(オーストラリア、カナダ、英国など)と発行可能でない国(アメリカ、中国、タイなど)があります。
事実婚と法律婚は似て非なるものです。わたしは別姓婚だけが目的の消極的事実婚選択のため、こうした不都合がない別姓での法律婚を望んでいます。
Q. なぜあなたは事実婚をしているのですか?
こちらの記事に詳しく記載しました。ご参照ください。
Q. 選択的夫婦別姓制度ではなく、事実婚の権利拡大でも良いのではないですか?
「事実婚を法律婚と同等にすればよいのではないか?」と聞かれます。同性婚もついでに事実婚で解決すればいいんじゃないのと。
確かにそれでもいいかもしれませんが、事実婚は性質上、事実婚を証明する公的書類がありません。慣習的に住民票に「妻(未届)」「夫(未届)」と記載して、それで証明することが多いですが、公式書類ではないです。また、一番別姓婚を求めているであろう長期海外駐在に行っているカップルなどは住民票がないため、住民票では証明できません。
事実婚の権利拡大をしようと思ったら、事実婚を証明できる公的書類をつくるところから考えなくてはいけないのかもしれません。
また、事実婚は、法律婚に伴う責任を負いたくなくて、あえて選択しているカップルもいます。そうした方々にどう対処するのかという問題もあります。
旧姓使用拡大についての私見
Q. 旧姓使用拡大ではダメですか?
現状の旧姓使用は、まったく使い物にならないというのが正直な感想です。
身分証明書に旧姓も括弧書きで表記できるので、旧姓での身分証明に使うことができ、銀行によっては旧姓でアカウントを開くことができるようになっています。
しかし、証券口座では旧姓は使えないため、それに紐づく銀行口座もクレジットカードも同じ名前である必要があるため、新姓に変える必要があります。旧姓で使えるかどうかについてよくある質問ページに掲載している企業も少なく、片っ端から問い合わせをしていく必要がありますが、どこかひとつでもダメだったら結局新姓の銀行口座を作る必要があります。
また、旧姓に法的拘束力がないため、不動産登記など法的な書類で旧姓を使用する場合には、法的拘束力がある戸籍名と併記する必要があります。あくまで併記なので、戸籍名が変わったら変更届けを提出する必要があります。
そのため、旧姓使用は手間の軽減にはなっておらず、むしろ旧姓使用をすることで問い合わせの手間や断られたときの心理的コストが増えているというのが現状です。
また、旧姓使用という制度のない海外では、旧姓使用についての理解がありません。自分で説明する義務が発生します。断られたら諦めなければなりません。
その割に、選択的夫婦別姓制度に比べても、システム改修に莫大な税金がかかります(「Q. 選択的夫婦別姓に無駄な税金をかけるな。旧姓使用拡大でいいでしょう。」参照)。
旧姓使用は誰のためのなんの制度なのでしょうか?
Q. 選択的夫婦別姓に無駄な税金をかけるな。旧姓使用拡大でいいでしょう。
選択的夫婦別姓制度は、民法と戸籍法を改正すればよいだけで、現行法案と改正法案がセットになって掲載された状態でPDFにしておよそ4枚分の変更です(平成22年に準備された改正法案 参照)。既存の戸籍のまま対応できます。
しかし、旧姓使用拡大するためには、細々した法律改正に加え、旧姓併記に対応するようシステム改修が必要です。総務省の平成31年度行政事業レビューシートによれば、旧姓併記にかけられた税金が最低でも194億円であるそうです。(詳しくは『194億円を投じた「旧姓併記」の限界と選択的夫婦別姓』参照)2024年現在に至るまで累計するともっとかかっているでしょう。
しかし、そんなにコストをかけたのにもかかわらず、旧姓併記では当事者の不満を十分に解消しきれていません。どちらがコスパがいいかは言うまでもないでしょう。
Q. 高市早苗さんが議員立法している「婚姻前の氏の通称使用に関する法律案」についてどう考えていますか?
「婚姻前の氏の通称使用に関する法律案」について、ご本人による詳しい説明と概要はこちらです。
彼女の案が実現されれば、国・地方公共団体・事業者・その他公私の団体に対して、戸籍名だけでなく婚姻前の氏の併記が義務化されるようです。
しかし、あくまで「併記」を義務付けるものです。多くの人の改姓のお困りごと「とにかく変更がめんどくさい」というものですが、これは解決しないです。あくまで併記なので、戸籍名が変わったら変更届けを提出する必要があるためです。
その他の批判については、「Q. 旧姓使用拡大ではダメですか?」「Q. 選択的夫婦別姓に無駄な税金をかけるな。旧姓使用拡大でいいでしょう。」で述べています。
Q. 高市早苗さんが「旧姓使用拡大でだいたいの不都合は解決できる」って言ってましたけど?
高市さんは山本さんと一度結婚されて改姓をして、離婚を経て、再び山本さんと再婚したときには山本さんに高市姓を名乗ってもらってます。
旧姓使用拡大は高市さんの肝いりの政策ですし、「旧姓使用拡大でだいたいの不都合は解決できる」なら、ご自身も旧姓使用を貫き通したほうが説得力があったんじゃないですかね。
その他
Q. 姓が違うと家族の一体感が損なわれませんか?
そう思うご家庭があれば、同姓を選択したらよろしい。
Q. 別姓の人はお墓はどうするの?
別姓の人とは同じお墓に入れないという法律も文化もありません。
明治時代の画家である横山大観のお墓は、横山大観の「大観」はペンネームだし、別姓で記載されている妻とともに谷中墓地で眠っています。お墓こそ自由度が高いので心配する必要ありません。
Q. なぜマジョリティは全く困っていない、あなたのニッチな要求に答えなくてはいけないのですか?
まず、ニッチな要求ではありません。タメニー株式会社による20代~30代独身男女へのアンケート調査では、別姓希望者は2割(20%)だったようです。
すくなくとも、わたし個人の話ではなく、経団連、日弁連が声明をだすレベルの話です。
日本経済団体連合会の声明「選択肢のある社会の実現を目指して」
日本弁護士連合会の声明「誰もが改姓するかどうかを自ら決定して婚姻できるよう、選択的夫婦別姓制度の導入を求める決議」
Q. 姓を変えるのがいやなら結婚するな。
日本国憲法で規定された基本的人権の中に、婚姻の自由が含まれています。(憲法13、14、24が根拠とされる)
Q. 戸籍が破壊されます。
まず、戸籍の何が破壊されるのか定義する必要がありますが、法務省の見解からも、選択的夫婦別姓制度が導入されたところで、戸籍の制度が運用できなくなるということはありません。(「Q. 別氏夫婦の戸籍は、どうなるのですか」「Q. 選択的夫婦別姓制度を導入するのは大変じゃないですか?」参照)
Q. 選択的夫婦別姓制度が導入されると、日本の伝統であるイエが崩壊します。
これは、何をイエの崩壊とするかの定義によります。
明治憲法の民法で定められた家制度をさすのであれば、1947年に既に廃止されています。もともと暫定的な制度規定とされ、 続いたのは48年間です。
また、家制度の元となったとされる、武士のイエ制度をさすのであれば、イエ制度は「家産・家名・家業を直系的に継承する家族・擬似家族システム」とされているので、明治時代以降に、単一相続ではなく分割相続が基本となり、配偶者にも財産相続がされ、職業選択の自由が導入された時点ですでに崩壊しています。
姓(≒家名)においても、現行制度下で、外国人との結婚では別姓婚できるので、日本においてはすでに、家に所属する人がすべてが同姓ではありません。
「せめて戸籍の中だけでも、代々同姓の人間しか記載しない形で理想のイエを守っていきたい」という話であれば、外国人との結婚での表記のように、同一戸籍ではなく別戸籍で別姓を実現しても良いのではないですか?選択的夫婦別姓制度を根本から否定する必要はありません。
なにはともあれ、すでに家制度も廃止され、イエも崩壊していますが、戸籍の記述が少し変わったくらいでは、あなたの心のなかで大切にされてるイエは崩壊しないと思います。
Q. 現在の日本の慣習的には、妻が改姓するのが当たり前です。別姓という選択肢が増えることで、妻が「別姓がいい」と言い出したら、私は私の姓で同姓にしたいのにどうしてくれるんですか。
確かにそういう方々にとっては、選択的夫婦別姓制度は負担をかけてしまうことになります。
専業主婦が当たり前で女性の社会進出が進む前までは、あまり改姓に伴う負担もなかったのかもしれませんが、時代は変わりました。
専業主婦が当たり前だった時代は、戦後から平成初期くらいまででしょうか。男性であれば改姓しなくてよかった時代こそ特殊だったのです。
妻が改姓するのが当たり前ではなくなると、現行制度上、どちらが改姓するかはジャンケンでもして決める必要がありますが、「どちらも変えない」という夫婦別姓の選択肢もあったほうが良いと思いませんか。
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