先の見えない不妊治療、その記録
1年ほど、体外受精での不妊治療に取り組んでいました。
「不妊治療はつらい」とよく言われますが、不妊治療と一口に言っても、タイミング法や人工授精、体外受精など、さまざまな手法があります。不妊に至る原因も、男性起因・女性起因・原因不明とさまざまで、不妊治療を数ヶ月で卒業できる方もいれば、5年かけても難しい方もいらっしゃいます。
あくまでわたしのケースはたくさんある不妊治療のひとつのケースにすぎませんが、体験記をまとめておこうと思います。
将来漠然と子供がほしいと思っている方や、不妊治療に進もうか悩まれている方など、少しでも誰かのお役に立てれば嬉しいです。
妊娠できるタイムリミットが近いことを知る
不妊の原因はひとそれぞれです。女性起因、男性起因どちらもありえます。検査を通じて原因が特定できることもあれば、不妊治療に進まないと原因がわからなかったり、原因不明の不妊もあります。
わたしが不妊治療に進むきっかけとなったのは、AMHという値が年齢にしては極端に低かったからです。
AMHは「抗ミュラー管ホルモン」と呼ばれる、卵巣内の発育過程の卵胞から分泌されるホルモンで、「今どれくらい卵子が残っているか」を判断する指標となります。人は生まれたときから、卵子の元である卵母細胞の総数が決まっており、年齢を重ねるとともに、その総数が月々減っていきます。
AMHが低いからといって必ずしも妊娠しにくいわけではありませんが、自分が妊娠できるタイムリミットが思っていたよりも近いことがわかります。
「子供が欲しいなら、すぐに妊活をはじめてください」
わたしはAMHの検査をしたあと、産婦人科の先生からそう言われました。
わたしのAMH値は0.3でした。当時、私は31歳になったばかり。30歳なら平均は4くらいで、0.3は46歳以上の方と同じくらいの数値なのだそうです。
このころ、すでに結婚はしていましたが、なかなか妊活には踏み出せずにいました。
まだまだ仕事もがんばりたいし、プライベートにも徐々にお金をかけれるようになってきて、すごく楽しい時期だったからです。
ちなみに、わたしは妊活を意識してAMHを測ったのではなく、友人から産婦人科で無料で行われていたAMH値を測るイベントに誘われて、何気なく検査を受けました。そのため、晴天の霹靂で突然タイムリミットが突きつけられたような心地がしました。
「本当に今子どもがほしいのか」
まだ正直ピンときていなかったものの、将来本当に子どもが欲しくなったときには後悔したくない。
こうして、わたしは妊活に突入することになりました。
わたしがおこなった不妊治療とその結果
AMHの計測をしたときに、産婦人科の先生からいろいろなアドバイスを受けました。
「一般的に絶対に子供が2人欲しい場合、27歳から妊活をしたら達成率90%と言われています。」
「特にあなたの場合は、AMH値が低く、30代後半ごろの早期閉経リスクがあるので、なるべく早めに不妊治療にステップアップしてください。」
妊娠って思ったよりシビアなのね。世の中の子どもたちはみんな、奇跡の巡り合わせで生まれてきているのか。
タイムリミットもあるので、不妊治療クリニックに通う決断は早めに下しました。
不妊治療クリニックで行われている不妊治療には大きく分けて、「タイミング法」「人工授精」「体外受精」と3つのステップがあると言われています。
わたしの場合は通院と同時に3番目のステップである「体外受精」からスタートすることにしました。
ステップを飛ばした理由としては、お世話になったクリニックが「不妊治療は時間との闘い」という考えだったこと、私はAMH値が低く妊活できるタイムリミットが近かったこと、私のケースでは人工授精は効果が薄いだろうと判断されたことです。
体外受精は、女性の身体から卵子を採卵し、取り出した卵子を精子と受精させて数日間培養、その受精卵を子宮に戻します。
体外受精の方法にもいろいろありますが、わたしは以下のような流れで進めました。
まず、採卵の10日ほど前から毎日薬や注射でホルモンを補い、通常は卵子が1個しかとれないところを、複数の卵子が採取できる状態にします。その卵子を受精・胚盤胞まで培養し、凍結します。その凍結した胚盤胞を溶かし、子宮に移植します。
30歳だと、1回の採卵で10個ほどとれ、そのうち1/3くらいが胚盤胞となり凍結できることが多いそうなのですが、AMHが低いとそもそも採卵できても1〜3個なのだそう。採卵数が少ないので、胚盤胞の凍結まで進めるのは0個の可能性もあります。不妊治療においてもAMHの低さによる弊害があるとは……。
わたしは1回目の採卵では、採卵前の毎日の服薬も注射も頑張ったのに、採取日にすでに排卵してしまっており採卵数ゼロ。
2回目の採卵では3つ卵子がとれ、2個受精まで進み、1個胚盤胞まで成長し凍結できました。
そして、その1個しかない受精卵を子宮に戻したところ、着床してくれました。
杉山産婦人科のWebサイトによると、31歳〜33歳の着床確率は約45%〜55%(うち流産率は15%)。半分ほどの確率でまた採卵からやりなおしだったのかと思うと、なかなか肝が冷えました。
不妊治療とメンタル
不妊治療は、メンタルに悪影響を及ぼしやすいとよく言います。
うまくいかず長期化しやすいこと。
先が見えないこと。
夫婦2人のことなのに女性がメインで通院し、治療する必要があること。
急な受診が必要になることが多く、スケジュールが立てにくいこと。
人によっては、ホルモンバランスの変化で体調に影響が出てくること。
メンタルを健全に保ち、サステナブルに通院するためには、「どう治療の負担を下げるか」も非常に重要になってきます。病院選びをする際には、治療成績が大事なので重視しがちですが、個人的には通いやすさも重要だと感じました。
生理がはじまったら、2〜3日以内にクリニックに足を運び、採卵に向けた準備をはじめます。そこから1週間に2〜3回の通院が必要です。かなり頻繁に通うので、家や職場から近ければ近いほど、通院の負荷はかなり低く抑えられます。
わたしの場合は家から徒歩10分くらいのところに病院があったため、かなり救われていました。
また、1回の通院につき2〜3時間、病院がオープンしている時間帯に足を運ぶ必要があります。職場でのフレックスタイム制が認められていない場合は、通院のために急な有給を使う機会が増えざるをえません。
こうした事情から、不妊治療のために仕事を辞めざるをえない人もいます。
しかしよく探してみると、実は終業後の時間帯も開けている病院も、数は少ないですが存在します。
病院選びの際には、ぜひ自分のワークスタイルも考慮に入れてください。
それでもメンタルは折れる
体外受精には時間もお金もかかります。
わたしの場合は、8月に採卵をして、そのうちいくつかの卵子が受精培養ガチャをくぐりぬけて凍結でき、10月に移植。1個しか凍結できていなかったので、もし移植で失敗したらまたゼロ(採卵)からやり直しという状況でした。
次の採卵〜移植がうまくいく保証もありません。
わたしは幸運にも1個しか凍結できていなかった卵子の移植が成功してくれたのですが、もし失敗していたら。「あの時の努力とお金はなんだったのか」と感じていただろうと思います。
それでもいつか結果につながると信じて、淡々と通い続けるしかないわけですが……。
不妊治療とお金
不妊治療が保険適用になったり、自治体から助成金がでるようになったり、不妊治療をする人にとって良いニュースが続いています。
わたしも「これでかなり金銭負担が軽減されるのでは?」と思っていました。実際に負担が軽減しているのも事実ですが、総計いくらかかったのか。
499,171円。約50万ほどでした。わたしは採卵2回、移植1回のチャレンジで、助成金を差し引いてこの金額でした。
実は、保険適用は不妊治療の標準治療とされるもののみだったり、助成金は助成金ごとに使えるフェーズに指定があったり、転院をしたりすると、その分の助成が難しかったりします。
わたしの通っていたクリニックでは、意外と自費診療も多くて、自己負担分が高くて驚きました。これはクリニックの方針によるのかもしれません。
(うちはもっとかからなかったよという方がいらっしゃれば是非教えてほしいです)
なんだかんだ高いので、治療中はメンタルによくないかなと思い、あえて金額は意識しないようにしていました。
ちなみに、不妊治療代は医療費控除もされるようなので、不妊治療をした方は確定申告することをおすすめします。
まとめ
40代で出産する方も増えてきているとニュースで見聞きしていたので、まさか自分が30代で不妊に悩まされるとは思っていませんでした。
20代のころにAMHを測っていれば。
妊娠したくてもできない人が意外に多いことを知っていれば。
もうすこし20代のころからリテラシーを高めていけたらよかったなと今実感しています。
また、わたしの場合は、はじめにかかった産婦人科のお医者さんに「すぐにステップアップしてください」と言われたのがすごく良かったです。
おかげさまで、躊躇なくステップアップできました。この一言がなかったら、ずっと不妊治療クリニックにかかれていなかったかもしれません。
AMHが低くなくても、加齢とともに妊娠しにくくなる傾向にあります。
不妊治療は時間との闘いなので、今悩んでいる方はぜひ一度クリニックに足を運んでみてください。