茅ヶ崎、アゲイン
前日の冷たい雨が嘘のように気持ちのよい秋晴れの空が広がった。
汗ばむほどの温かい日差しに、羽織っていたジージャンを思わず脱いだ。
私は駅前のレンタサイクルに寄り、はじめましてのみちこさんと自転車でカフェに向かった。
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ある日、みちこさんのインスタの投稿が目に止まった。
「旅立つ方を看ていると
色んなことを教えてくれる。
そして、
その時が近づくと、
静かな空気が流れる。
静=生
最期まで生きるをみせる
そこに寄り添う看護師って
本当に尊いって思う」
小川糸さんの「ライオンのおやつ」の世界と重なった。
主人公である末期癌の30代女性が、余生を瀬戸内海の島にあるホスピスで過ごすと決めて、そこで出会った人たちと心通わせながら穏やかな死を迎える、静かであたたかいストーリーだ。
身近な家族を亡くす経験がない私は、死に向かっていく方との関わりや看取りについて、現場にいるみちこさんの話を伺いたいと思った。
DMすると、みちこさんは病棟勤務ではなく、訪問看護をされていた。
まさに私が知りたかったテーマ。
自分の直感にブラボー!
みちこさんが海の近くに住んでいると知り、海のそばの静かな場所でインタビューしたいと伝えた。
すると、「駅前にレンタサイクルがあるから、サイクリングしながらカフェに向かいましょう」というワクワクするような提案があった。
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平坦な道が続く茅ヶ崎はサイクリングにはもってこいの土地だ。
海が近いせいか、のんびりとした穏やかな空気が漂っている。
自転車でゆったりと走っていると、お洒落な店や建物が目に止まる。地元の人たちに愛されている空間があちこちにあるのを感じる。
私たちはランチでお腹と心を満たしたあと、海沿いの道をサイクリングしながらみちこさんのお目当てのサザンビーチ北原珈琲に向かった。
ここは、みちこさんの大学生の息子さんが見つけた海が見えるカフェ。
息子さんが、先月、オーナーのかなえさんにインタビューしたのだという。
宇宙の法則を使って、絶景が広がる場所に居心地のよいカフェをオープンさせたかなえさん。イベントやワークショップも開催している。
そして、訪問看護の仕事を通して利用者とその家族と心通わせ、最期のときまでいい時間を過ごせるように寄り添うみちこさん。
みちこさんは、ちょうど次のステージに進もうとしていた。
また、転機の人に出逢えた。
ここから、どんな展開を迎え、どんなストーリーが紡がれていくのか。静かなワクワクが私を満たす。
かなえさんの作ったこの場所で、いつかみちこさんが何かをするような気がした。ここで何かが生まれる予感がした。
インタビューが終わりお店を出ると、綺麗な月が海にぽっかりと浮かんでいた。
実は、茅ヶ崎は忘れられない思い出の土地。
子どもの頃、
いとこたちと泳いだ海やプール、
砂のついた手足をジャブジャブ洗った井戸のポンプ、
汗をかきながら頬張ったカルピス氷、
沿道で旗を振って応援した箱根駅伝、
冬の夜の寒さを和らげてくれた湯たんぽ、
風邪をひいたときの卵酒、
庭で興じたバトミントンや鬼ごっこ、
柱に付けた身長の記録、
梁にぶら下がって競った耐久レース
幸せな記憶が蘇る。
その思い出の土地が、再び私を呼び寄せて新たなご縁を繋いでくれた。
茅ヶ崎、ありがとう。
また、よろしくね。