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THANKS DRESS SHOW ~Kazumi & Nobukoペア~ ⑦

こちらの記事のつづきです。

ダンスを通して過去の自分を抱きしめる

KazumiさんとNobukoさんは
母と娘のペアです

娘のKazumiさんのことを
私はサワちゃんと呼んでいるので
ここでは「サワちゃん」と
呼ばせてもらいます

サワちゃんは
幼い頃からずっと
母の愛を感じられず、
感情を押し殺して生きてきました

子どもの頃の写真を見返すと、
笑顔があまりなく
「しんどそうな顔をしている」
とサワちゃんは感じていました

だから、
昔の写真を見るのは
あまり好きではありませんでした

長年、
看護師として働いてきましたが、
体調を崩して
心身が限界を迎えて
2021年の夏に仕事を辞めています

サワちゃんにとって
三度目の強制終了でした

そして、
そこからは家に引きこもって
ひたすら心身を休める日々を送ります

それと同時に、
自分自身とも向き合い始めました

しばらくすると、
「これをやりたい」
という望みが出てきて
外の世界と再びつながり始めます

それがダンスでした

「帰還」というダンス作品では
コンテンポラリーダンスに初めて挑戦

2ヶ月半かけて、
仲間とともに
作品づくりに取り組みました

レッスン初日、
ダンスの振り入れに
必死に食らいつこうとするサワちゃん

それでも振り入れに付いて行けず
心が何度も折れそうになって
途中で動きが止まってしまいます

そんなサワちゃんに対して
「がんばれ!サワちゃーん!」
と声援を送る仲間がいました

「初めて会った自分を
こんなにも温かく
見守ってくれる人がいて
とてもありがたかった」
とサワちゃんは言います

その日から
2ヶ月半経った2月

そこには
本来の自分の力を取り戻して
力強く変容した
サワちゃんの姿がありました

安心安全な場で、
喜怒哀楽などの
様々な感情を出して
体で表現していったサワちゃんは、
過去の感情を
迎えに行く決意をします

歌の歌詞に
「ただ抱きしめてほしかった」
というフレーズがあります

孤独で辛かった頃の自分を
母親に抱きしめてほしかった
と思っていましたが、
本当は自分自身に
抱きしめてほしかったんだ
と気づきます

思い切り自分を抱きしめたとき、
過去の自分が癒されるのを
感じました

こうしてサワちゃんは、
心を通わせられる人や
笑顔になれる場所に出会うことができ、
家族との関係も
少しずつ変化していきました

誕生日の日の決意

月日は流れて
7月3日、誕生日前夜

ダンスのワークショップに参加した後、
友人と食事を楽しんでいたサワちゃんは
トイレにいくため席を立ちました

そのすきに、
友人がサワちゃんに内緒で
誕生日のデザートプレートを注文

お店の人が
HAPPY BIRTHDAYの歌を歌いながら
サワちゃんのもとに
デザートプレートを運ぶと、
周りのお客さんからも
大きな拍手が起こりました

そして、
「サワちゃん!サワちゃん!」
の大コール

サワちゃん史上
最高の時間となりました

7月4日、
誕生日当日

サワちゃんは
ふらっとケーキを買いに行き、
その足で近所のお寿司屋さんに
立ち寄りました

すると、
隣に座っていたご夫妻が
サワちゃんのお誕生日をお祝いし、
お寿司をご馳走してくれました

奥様は、
サワちゃんと同じく元看護師で
とても素敵な方でした

自分が生まれてきたことを
心から祝福できるようになった今、
サワちゃんは
世界から祝福されるようになったのです

一方、私は
自分が主宰する
ドレスイベントの参加者のうち
3組のペアが決まったところで、
ラスト一組のペアを
公で募集するか
個別に知り合いに声をかけるかを
迷っていました

私には
歳を重ねた女性にドレスを着てほしい
という望みがあったので、
残り一組には
「ありがとうを伝えたい
70歳以上の方と一緒に
ドレスを着たい人」
という参加条件がありました

そんなとき、
偶然SNSで
サワちゃんの誕生日の
お祝い動画を見かけて、
私はサワちゃんに
お祝いのメッセージを送りました

そして、ふと
「このドレスの企画、
サワちゃんにいいかもしれない」
と思いつき、
声をかけてみました

「ドレスデザイナーaicoちゃんの
bom bom ドレスにときめいて、
かつ70歳以上の方と一緒に
ドレスを着たい場合は
ぜひイベントに参加してね」

すると、
しばらくしてから
「母と一緒にドレスを着たい」
と返事がありました

そこには、
葛藤しながらも
母を誘う決心をした
サワちゃんの心の内が
正直に綴られていました

サワちゃんの思いと覚悟に
心が震えた私は
文章を読みながら涙しました

身内に対しては
気恥ずかしさや複雑な思いがあり
面と向かって感謝を伝えることは
難しかったりもします

サワちゃんにも
「子どもの頃、
お母さんにがんじがらめにされて
苦しかった」
という複雑な思いがありましたが、
自分自身と向き合うことで
少しずつその思いが変化していました

だからこそサワちゃんは、
残っている生きづらさを
この機会に昇華したいと思いました

温かい人たちが見守る
愛の場所であれば
それができるような気がしたのです

ドレスイベントの話が来たのが
誕生日の日だったことも、
「お母さんとドレスを着よう」
と決める大きな後押しになりました

「感謝を伝えたい人と一緒に
ドレスを着る」
というコンセプトは伏せたまま、
サワちゃんは母Nobukoさんを
ドレスイベントに誘いました

拍子抜けするほど
あっさりと「OK」の返事があり、
さらには
「お父さんも連れて行っていいでしょ?」
との言葉まで出てきて、
父Shinjiさんにも
来てもらえることになりました

父と一緒にバージンロードを歩いて、母の元に行きたい

ペアの事前ヒアリングは
サワちゃんの希望もあって
単独で行ないました

その中で、サワちゃんは
不安な気持ちを吐露

「イベント当日、
母と向き合った時に
自分の中から
何が出てくるか分からない。
ありがとうを
伝えられないかも」

ドレスデザイナーのaicoさんは
言いました

「ドレスを着ている時点で
それだけで可愛いんやから
当日は何をやっても大丈夫。
お母さんと取っ組み合いをしようが
泣き叫ぼうが
ドレスを破ろうが
好きにやっちゃって。
ドレスを着ているサワちゃん自身が
私の作品なんやから」

aicoさんの優しさに温められながら
私も言いました

「無理にありがとうを
伝えようとしなくていいと思う。
そのとき
自分の中から出てきたものが
正解だよね。
何が出てきても大丈夫」

そんな不安がある一方で、
未婚のサワちゃんには
自分のドレス姿を両親に見せてあげたい
という思いもありました

さらに、
ちょうど今年は
ご両親にとって結婚45周年、
「サファイア婚」でした

そんな節目の年に
娘と一緒にドレスを着られるのは、
なんという素敵なめぐり合わせなのだろうと
私は胸がいっぱいになりました

ランウェイを
どのように歩きたいか
サワちゃんに尋ねてみると、
ふと頭に浮かんだ
ビジョンがあると言いました

「せっかく母とドレスを着るから
お父さんと二人で
バージンロードを歩くみたいに
ランウェイを歩いて
母の元に行こうかな。
結婚45周年のお祝いみたいな感じで
母に父を手渡すの」

「サワちゃんがお母さんの元に着いたら
ご両親の好きな
オールディーズの曲を流して
みんなでダンスパーティーもいいね!」

と私たちの想像は膨らみました

この段階で、
私の中では
サワちゃん親子が
4組のペアのトリに決まりました

その後、
私の一人妄想が始まります

「バージンロードを歩くときの曲は
何がいいかな?」

結婚行進曲では
ちょっとありきたり過ぎて
面白くないなと思ったとき、
ある曲が閃きました

以前、
ゴスペルのステージで歌った
『希望の歌 ~交響曲第九番』

試しに曲を流しながら
サワちゃんになり切って
歩いてみると、
自分の内側から
喜びが湧き上がってくるのを
感じました

「目と目が合って 交わすほほ笑み」
の歌詞では
父と娘で目を合わせて
ほほ笑んで、
「手と手をつなぎ 一緒に歩こう」
の歌詞で
サワちゃんを真ん中にして
親子三人で手をつないで
手を高らかに挙げる

妄想がどんどん膨らんで
サワちゃんになった私は
歓喜の中に身を委ねて
音楽を感じながら
自由に舞いました

「三人で手をつないだあとは、
サワちゃんの
コンテンポラリーダンスがいい!」

ダンス作品「帰還」で
一緒に踊ったとき、
感情がほとばしる
サワちゃんのコンテンポラリーダンスに
心を揺さぶられたのを
思い出しました

こうして
ランウェイの曲が決まりました

母Nobukoさんの本音に触れる

難しかったのは、
当日、ナレーターが読み上げる
このペアの紹介文づくり

サワちゃんサイドの話しか
聞けていなかったので、
母親のNobukoさんにも
インタビューした上で
原稿を作成することにしました

娘の友達とはいえ、
Nobukoさんは
どこの誰とも分からない人からの
インタビューのオファーに
警戒をしていたようで
はじめは少し固い感じでしたが、
話し始めたら少しずつ
緊張もほぐれてきた様子でした

Nobukoさんはオシャレ好きで
とても個性的で
不思議な魅力がある女性でした

「服はアートだ」
と思っているNobukoさんは、
娘からのドレスイベントの申し出を
「あら、面白そう」と思い、
すぐに了承しました

Nobukoさんには
母の時代から三世代にわたって
お世話になっていた
美容師さんがいました

その方は
ご主人の仕事の関係で
海外に行く機会も多く、
最先端のヘアスタイルに
触れていました

「髪はキャンバスで、
ヘアスタイルはアート」
とおっしゃる美容師さんに、
当時、あまり周りでは見かけないような
斬新なヘアスタイルに
カットしてもらっていて、
そういう美的センスに
触れてきたNobukoさんは、
インスピレーションで作り出される
aicoさんのドレスにも
興味を持ちました

はじめは
なかなか自分の気持ちを
話さなかったNobukoさんでしたが、
じっくりと話を聴いていくと
娘がお母さんと一緒にドレスを着たい
と誘ってくれたのが
実は嬉しかったようでした

サワちゃんが、
お父さんと
バージンロードを歩くように
ランウェイを歩いて
お母さんの元に行きたいと
言っていることを伝えると、

「想像したら今でも泣きそうだから、
そんなの当日泣いちゃうじゃない」
とNobukoさん

「イベント当日
一番泣いてしまうのは間違いなく私です。
だから、大丈夫です。
一緒に泣きましょう」
と私は伝えました

Nobukoさんと夫のShinjiさんは
中学の同級生でした

二人は
当時流行っていた
英語圏のポップスが好きで、
それがきっかけで
話をするようになったと言います

サワちゃんもインタビューの中で
音楽の思い出を語っていました

「子どもの頃、
忙しかった父が
時々ライブハウスに
連れて行ってくれて。
両親が好きだった
オールディーズのライブで、
父親の足の上に乗せてもらって
一緒にチークダンスをした
思い出がある」

Nobukoさんが好きな
オールディーズの曲は
プラターズの『オンリー・ユー』

『希望の歌』で
バージンロードを歩いた後に
サプライズで『オンリー・ユー』を流して
NobukoさんとShinjiさんに
踊ってもらおうと
私は決めました

あとから
サワちゃんに聞いたところによると、
インタビューの数日前に
母と娘で口論したのがきっかけで
Nobukoさんは
「ドレスイベントには行かない」
と言ってきたそうです

それを敢えて
私には伝えなかった
サワちゃんの心遣いが
とてもありがたかった

たぶん知っていたら
「私が何とかしなくちゃ」
と気負ってしまっていただろうから

自然体でインタビューできたのが
功を奏して
Nobukoさんの本音に
触れることができました

インタビューは
楽しかったのですが、
何をどこまで書くのかという点で
ナレーションの原稿づくりは
苦慮しました

母Nobukoさんを
傷つけたくない気持ちと、
サワちゃんが幼少期から
ずっと抱えてきた辛さを経て
このイベントへの参加を決めたことを
観客の皆さんに伝えたい
という思いの狭間で
言葉を選んでいきました

「バージンロードを歩く」
と決めたサワちゃんでしたが、
あるとき
これは自分自身との結婚式、
「自分婚」だと気づきます

通常は、
パートナーに対して宣誓する
結婚式の誓いの言葉

本来、一番に誓う相手は
実は他の誰でもなく自分自身

「健やかなるときも病めるときも
喜びのときも悲しみのときも
富めるときも貧しいときも
どんなときも私と共にいて
私を愛することを誓います」

サワちゃんが自分婚をすることで
そこに居るみんなが
源(ソース)の意識に
戻るひとときになる

それがサワちゃんの
今回のお役目なんだと
思いました

同じ形の紅白のペアドレス

ドレスデザイナーのaicoさんは
「お父さんと
バージンロードを歩きたい」
というサワちゃんの思いを
聴いたときから
ウェディングドレスにしよう!
と決めていました

最初は
個性的な白いオシャレなドレスを
創っていましたが、
母と娘で全く同じ形にして
色を紅白にするアイデアが
降りてきました

「同じ形のドレスを想像すると
ときめくんやけど、
サワちゃんはイヤかな?」
とaicoさん

私はそれを聞いて
「むしろいい」と思いました

この二人は全く違うようで
やっぱり似ているところがある
と私は感じていました

見た目の造形や
お洒落好きなところ、
とてもパワフルなところ

母とおそろいのドレスを着ることで
サワちゃんが
母と似ている部分を
受け入れることができたらいいなぁ
と思いました

「サワちゃんは花嫁だから
同じ形だけど
ゴージャスにするわ」

aicoさんは
すでに創った
白い個性的なドレスを
あっさりと手放して
再びドレス制作を開始しました

優しく包まれてほしくて、
サワちゃんの色は
真っ白ではなくて
柔らかなアイボリー

Nobukoさんの色は
真っ赤ではなくて
マゼンダピンク

「この二人に囲まれる
お父さんを想像すると萌えるわ」
と嬉しそうなaicoさん

aicoさんと二人で
イベント当日を想像して
心を震わせました

私は、時折送られてくる
ドレスの途中経過の写真を
ワクワクしながら
見守っていましたが、
夜中の2時半頃に力尽きて就寝

朝、起きたら
おめでたい紅白のドレスが
完成していました

ペアドレスの写真を見た途端、
涙が出てきて
「ありがとう」の言葉しか
出てきませんでした

二つのドレスは
まるで生きているようで、
愛のエネルギーを放って
そこに存在していました

aicoさんの愛で創られた
おそろいのドレスに包まれたら、
自分の中の愛を思い出す
素晴らしいひとときになるに違いない
と確信しました

ご縁のある人たちがイベントに集う

Nobuko&Kazumiペアのナレーションを
担当してくれたのは、
朗読劇仲間のみかりん

「このペアは
原稿を読む前から涙が出てきた」
と言いました

自身の幼少期と重なるものがあり、
ご縁を感じたみかりんは
このペアの原稿を担当

少しでも
サワちゃんのことを知りたいと
彼女のSNSの投稿を見たり、
原稿の細かな点について
私に質問したりと
丁寧にナレーションの準備を
してくれていました

イベント直前に
「今の旬な気持ちを
インスタでライブ配信して
瞬間冷凍したい」
と思った私は
サワちゃんとみかりんに
声をかけました

「三人で瞑想してから
ライブ配信を始めたい」
というサワちゃんの提案で
オンラインで瞑想することに

音楽は、
以前にみかりんが描いた
「安寧」というアート作品のために
ピアニストのはるかさんが創った
ピアノの瞑想曲を使用

静寂な間がたくさんある
この瞑想曲は、
無音も音楽であることを
思い出させてくれる
素晴らしい曲でした

無音を三人で味わったところで
みかりんが言いました

「今回の私の
ナレーションのテーマは
“ゆっくり。間を大事にする”
緊張するとどうしても話すのが
早くなってしまいがちだけど、
ゆっくり読むことで
お客さんも一緒に
サワちゃんの物語を
味わってほしいと思っている」

何気なく選んだ瞑想曲と
みかりんの想いがシンクロしていて
明日に向かって
いい流れを感じました

インスタライブは
聴きにきてくださった方々の
応援を感じる
温かなひとときでしたが、

なかでも、
イベントのドレス参加者である
Miyabiさんが
サワちゃんと同じような
厳しい家庭環境の中を
生き抜いてきた
サバイバーだと分かったのは
大きな驚きでした

このタイミングで
Miyabiさんとサワちゃんが出会ったのも
偶然ではないと感じました

イベント当日の見事な連係プレー

イベント当日、
会場に現れたサワちゃんのご両親は
少し緊張した面持ちでした

後から知ったのですが、
その日、母Nobukoさんは
朝からずっと腹痛が続き
イベントに行くのを
ためらうほどだったと言います

しばらくすると、
サワちゃんのご両親が
固い表情で私のもとに
やってきました

「ただ“ドレスを着る”ということしか
娘から聞いてなくて、
これは一体どういう会なんですか?」

不穏な空気が漂いました

何だかよく分からないまま
アウェイな場所に来てしまったご両親

その不安な気持ちを感じた私は
説明不足だったことを
詫びました

そして、
この会の趣旨と
プログラムの流れを
私なりに言葉を尽くして
説明しました

aicoさんに
ヘアメイクをしてもらおうと
スタンバイしていたMiyabiさんは、
ご両親のただならぬ様子を見て
とっさに機転を利かせます

「私のヘアメイクはあとでいいから、
まずはNobukoさんの
ヘアメイクをやってあげて。
メイクをしちゃえば
きっと気分が変わるから」

そして、
MiyabiさんはNobukoさんを
ヘアメイクに誘いました

一方の私は
夫のShinjiさんに椅子を勧めて
しばし会話を楽しみました

見事な連携プレーでした

誰一人欠けても
このイベントは成り立たなかったと
私が心の底から思っているのは、
こういった共同創造のシーンが
あちこちに散りばめられていたから

どのシーンを思い出しても
そこかしこに愛があって
今でも泣けてきます

いよいよリハーサル

Shinjiさんとサワちゃんに
バージンロードを歩きだすタイミングや
ランウェイの流れを説明

音楽に合わせてやってみると、
戸惑いながらも
娘とともに一生懸命に歩く
父の姿がありました

「次は私の指示なしで
やってみましょう」

すると、
自ら娘に腕を差し出して
リードし始めたShinjiさん

その様子を見て
「よし、大丈夫!」
と私は確信しました

『希望の歌』の後は、
サプライズで
ご両親の思い出の曲
『オンリー・ユー』を
ぶっつけ本番で流す予定でしたが、
事前にNobukoさんには
伝えておいた方がいいかも
というサワちゃんの提案で
本番前に話をしました

きれいにヘアメイクをしてもらい、
マゼンダピンクのドレスに
身を包んだNobukoさんは
会場に現れたときとは別人のように
リラックスしていて
終始、柔らかな微笑みを
称えていました

そんなNobukoさんに
サプライズの企画を伝えると、
「えー、あの人、踊るかしら?」
とつぶやきました

「そこをNobukoさんが
ぐいぐいリードするんです。
こんなに美しいドレス姿の
Nobukoさんから
ダンスに誘われたら
Shinjiさんも断れませんから」

私の言葉に
Nobukoさんは
クスリと笑っていました

奇跡の瞬間をみんなで味わう

さあ、
泣いても笑っても
あとは本番だけ

ナレーターチームの
みかちゃんとようちゃんが
フラワーシャワーのための花びらを
観客に配布して準備はOK!

みかりんの
優しく包み込むような声で
二人の物語が紹介されました

「このあとに
ランウェイを歩くサワちゃんを
後押しするような
ナレーションにしたい」
と言ったみかりんの言葉が蘇ります

一人で何度も妄想していた
この親子のバージンロード

フラワーシャワーが降り注ぐ中、
父と娘は一歩ずつ
前に進んでいきます

そんな二人が歩く姿を
前に立つ母Nobukoさんが
慈愛の眼差しで
見守っていました

母のもとにたどり着いたサワちゃんが
父と母の手を取り
三人で高らかに手を挙げると、
大きな祝福の拍手が
沸き上がりました

そこからは
サワちゃんの喜びの舞い

やわらかなアイボリーの
ウェディングドレスに
身を包んだサワちゃんは、
天女のように
美しく輝いていました

そんなサワちゃんのもとに
ブライダルメイドの二人が客席から現れて
花嫁に寄り添うように共に舞い、
光の玉を集めて
天に放ちました

ベートーヴェンの第九のサビが流れて
曲がクライマックスを迎えると、
そこからは一転して
しっとりとした
『オンリー・ユー』が流れます

「Shinjiさん、Nobukoさん、
結婚45周年おめでとうございます!
ぜひお二人でダンスを」

私は二人にダンスを促します

すると、私の心配をよそに
ShinjiさんはNobukoさんと手をつないで
チークダンスを踊り始め、
しまいには
気持ちよさそうに
『オンリー・ユー』を歌い出しました

とても嬉しそうな二人の姿に
会場中が大盛り上がり

そして、
Shinjiさんを見つめる
Nobukoさんの眼差しが
恋する乙女そのもので
何とも言えず可愛らしかった

奇跡の瞬間を皆で味わいました

ランウェイ後のトークショーでは
出演者の皆さんがそれぞれの今の想いを
語ってくれました

最後にaicoさんが
「Nobukoさんとサワちゃんに
ハグしてほしいな」
とリクエスト

私にはなかった発想でした

たとえあったとしても
二人から過去の話を聴いていた私には
言えなかったかもしれません

無理強いすることになる
恐れもあったから

でも、
aicoさんの素直な気持ちを聞いたとき、
親子のハグがあって初めて
今日の物語が完結するような気がしました

Nobukoさんはしばらく
躊躇していたように見えましたが、
「おいで」と言って
娘に向かって両手を広げました

サワちゃんは
生まれて初めての「おいで」に
不器用な母の精一杯の愛情を感じて
母の胸に飛び込みました

赤と白のドレスが一つになって
震えていました

aicoさんのドレスが生んだ
最高のシーンでした

そして、
客席に戻ろうとする
Nobukoさんのことを
今度はMiyabiさんが
ハグをしました

「サワちゃんに愛してるって
言ってあげてね」

母親に対して
複雑な思いを抱えているMiyabiさんが
サワちゃんの母
Nobukoさんに寄り添う姿は
心に響くものがありました

こうして
ショーの幕は閉じました

その日の帰り際に
Miyabiさんが
つぶやくように言いました

「私もお母さんに
ドレスを着せたくなった」

その言葉が
私の胸に温かく広がりました

感情がむき出しになっている自分をさらけ出す

夢のような一日が終わり、
サワちゃんから
思いがけないメッセージが届きました

「aicoちゃんのbom bom ドレスと
ユッコちゃんの愛の磁場は
本当に最幸でした。
私のすべての細胞と
いろんな次元にいるワタシと
ご先祖様たちからも
ありがとうが届けたいそうです。
ゆっくり受け取っていただけると
しあわせです。ありがとう」

私の想像をはるかに超える規模の
「ありがとう」に圧倒されて、
「いやいや、私は
そんなたいそうなことはしてません」
と思わず後ずさりしてしまうような
戸惑いがありましたが、
なぜか鳥肌が立って
涙が出てきました

サワちゃんの
「ゆっくり受け取ってほしい」
という言葉にホッとして、
目に見えない愛のシャワーを
受け取る許可をして
全身に浴び始めたら
涙が止まらなくなりました

そのあと、
たまたま目にした
カメラマン源ちゃんのSNSの投稿

彼が撮った、
Nobukoさんが「おいで」と言って
サワちゃんを抱きしめる写真を見たら
また泣けてきて、
私はNobukoさんに
「大好き」と伝えたくなりました

文章で伝えようと思いましたが、
よくよく考えたら
私は事前インタビューをした関係で
Nobukoさんの電話番号を
知っていました

泣き過ぎていて
ちゃんと話せる自信がなくて、
気持ちが落ち着いてから
電話しようかとも思いました

感情がむき出しになっている自分を
さらけ出すのが恥ずかしい
という気持ちも
あったかもしれません

でも、イベントの中で
自分が言った言葉を
思い出したのです

イベント当日、
「私はずっと娘を愛してました。
この子の勘違いなんです」
と繰り返すNobukoさんに
私は言いました

「ボタンの掛け違いが
起こっていたんだと思います。
たしかにNobukoさんは
愛していたんだと思いますが、
それは言葉で伝えないと
相手はなかなか分からないもの。
家族だと気恥ずかしさもあって
言葉にするのは難しいかもしれないけれど、
『愛している』『大好き』を
ぜひ本人に直接言ってあげてください」

Nobukoさんが娘を愛しているのは
インタビューの中でも
私は感じていました

でも、
本人に言わないから
一番大切な人には
その思いが伝わっていない

私は必死に、
しつこいくらいに何度も
Nobukoさんに言いました

今思うと、
大人気なかったなぁと
苦笑してしまいます

そのシーンを思い出した私は、
今、「大好きって伝えたい」
と思ったんだから、
今、電話しようと思いました

ドキドキしながら
電話をかけると、
Nobukoさんの優しい声が
私の耳に心地よく響きました

私は子どものように
泣きじゃくりながら
「のぶちゃんに大好きって
伝えたくなって電話しました」
と言いました

鉄の堤防がしゃぼん玉に変容する

Nobukoさんは
とても喜んでくれて、
イベント当日から次の日にかけて
自分自身の内面に起こったことを
語ってくれました

イベントの日、
ランウェイのパフォーマンス後に
娘がマイクを持って発した言葉が
Nobukoさんの心に
刃のように突き刺さりました

「ほかの出演者の方の歴史が
自分の幼少期とは真逆で
すごく羨ましいと思いながら
聞いていたので、
本当は嫌だったんです。

両親にこういう笑顔とか
泣き顔を見せるのが。

こんな格好をして
幸せそうにしている姿を
見せるのも嫌だった。

でも、『嫌だ、嫌だ』って言うのは
実はやりたいことだなぁと思って
腹をくくったら、
色んなことが動き始めて。

親は関係なく、
自分の足で立って
自分を愛せば
もっと面白い人生が
これから絶対ある!と思った。

ここから楽しめばいいじゃんって」

Nobukoさんはショックでした

娘の言葉が理解できません

なんでわざわざ
ここでそんなことを言うの?!

こんなに素敵なドレスを着て、
こんなに皆さんに祝福されて
幸せいっぱいのこのタイミングで

「なんで?!」
という言葉が出てきたから、
どちらかというと
怒りに近かったのかもしれません

そのときのことを
Nobukoさんは、
「有明海の鉄の堤防」
という言葉で表現しました

通称、ギロチンと呼ばれている
300枚にもおよぶ鉄の板

「あの瞬間、
私は鉄の板をガシャーンと下ろして
感情を閉じました。
だから、あのときの私は
ものすごい顔をしていたと思う」

帰りの車では、
夫と一言も話すことが
できませんでした

「これから娘と
どうやって対峙していけばいいの?」

その思いでいっぱいでした

Nobukoさんは
重い気持ちを抱えたまま
一人で過ごします

そして、翌日
Nobukoさんの中で
気づきが起きました

「娘には、
あそこであれを言うことが
必要だったんだ。
だから、言えて良かったんだ」

あのときサワちゃんは
愛と感謝の中で
言葉を発していたから、
聞く者の心を打つ
最高のスピーチでした

でも、
もし私が
Nobukoさんの立場だったら…

たとえ自分の子育てに
至らないところがあったとしても、
あの場で娘に
あんなふうに言われたら
母として
きっと悲しかっただろうし、
Nobukoさんと同じように
「言ってほしくなかった」
と思った気がしました

Nobukoさんは
すぐには受け入れられなかった
あのシーンを
黙って一人で抱えました

私は、
その強さに心を打たれました

そして、
言って欲しくなかったという
自分のエゴを超えて、
「言えてよかった」
と言い切るNobukoさんに
娘への深い愛を感じて泣きました

たしかに、
言えたから癒えた

サワちゃんが
本音を言わずに
あの場を穏便に済ませていたら
ここまでの浄化は起こらなかった

Nobukoさんは、
「娘を愛してきたつもりだったけど
今まで自分は
何をやっていたんだろう?」
という思いにもなりました

そして、
「娘が望むように
愛してやればいいんだ」
と気付きました

そうした気づきが起こったとき
Nobukoさんの中の鉄の堤防が
しゃぼん玉に変容しました

一番重いものから
一番軽いものへ

ものすごい体感が
内側で起こったと言います

「そうしたら、
皆さんに感謝の気持ちを
伝えてほしくなって
私から娘にメールしました」

さらに、
Nobukoさんは言いました

「今のこの気持ちで
ステージに立っていたかった」

その気持ちも分かりました

「でも、あのとき鉄の板が
降りてしまったのは
無理もないことだと思います。
もし私が同じ立場でも、
きっとそうだったと思います」

それでもNobukoさんは、
「あのシーンのとき
私はひどい顔をしていたと思う」
と少し気にしているようでした

だから、
私は明るい声で言い切りました

「いいじゃないですか。
人間なんだから、
色々な感情があって当たり前。
それもまたよしです」

「ホントそうね」

Nobukoさんの軽やかな声が
私の耳元でこだましました

Nobukoさんは、
「感謝の気持ちを込めて、
今度は私がサポートをします。
何でもやりますよ」
と申し出てくれました

ああ、
Miyabiちゃんのお母さんが
ドレスを着るときに
隣にNobukoさんがいたら
最高だなと思いました

こうして私は、
自分が主宰したドレスイベントで
思いがけず
17歳年上の“のぶちゃん”という
素敵な友人を得たのでした

おまけのはなし

2022年の5月、
私は家族写真撮影の物語を
SNSに投稿しました

それを読んだサワちゃんは、
「自分の家族との
あまりの違いに大泣きした」
と言いました

でも、彼女は
「私の人生では無理。起こり得ない」
では終わらせなかった

抵抗はあったけれど、
私にも
そんな日が来たらいいなぁ
と望みを放ちました

そのことを事前に聞いていた私は、
父Shinjiさんもドレスイベントに来る
と分かった時点で
「サワちゃんが望んだ家族写真が撮れる」
と嬉しくなりました

そして、イベント当日
サワちゃんファミリーならではの
唯一無二の素敵な写真が撮れました

諦めずに
自分の本音に従って
素直に望ませてあげるって
自分への愛だなぁと感じます

サワちゃん、おめでとう!!



*ご本人たちの承諾を得て書かせていただきました

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