「復興が遅い」「いつまで瓦礫の山なんだ」
そのようなコメントにはもうお腹いっぱいすぎて、現地の事情をまとめました。
言い訳したり時間がかかることを肯定したいんじゃない。
時間がかかっていることの背景を知ってもらって、まだまだ長期戦を強いられる能登のことを応援して欲しい。奥能登の能登町出身者がそんな思いでまとめました。
最終更新:2024.8.3
①所有権
まず以て所有権問題。解説不要。
②住人不在による同意取得の難しさ
自宅が倒壊した人にとっては、一時帰省する際の宿泊場所や仮設住宅へいかに早く入れるかが課題。宿泊・居住場所が無ければ、倒壊家屋に係る諸手続きが遅くなってしまう。
③相続登記
公費解体における問題点。空き家問題も同時発生。
なお、輪島市等では相続人全員の同意無しに申請できる緩和措置を実施。他の市町については後のトラブルを懸念し慎重姿勢。
→北國新聞(2024/4/5)
5月下旬になって環境省と法務省による初めての通知が発表。対応としてはかなり異例のもの。また、同記事には後述する業者の宿泊施設問題等の他の要因についても言及されている。
上記を受け輪島朝市通り周辺の建物264棟について一斉に滅失登記が行われ、6月5日より公費解体が始まった。
北國新聞(2024.6.5)
④倒壊家屋に対する人々の思い
アルバム、家族からのプレゼント、子供の制作品、仏壇、趣味の品々…どうしても手元に戻したい、そんな思いに応える活動も。倒壊、はい撤去…とはいかないもの。品々を取り出せたとしても保管する場所やサービスが無くて頭を悩ませている、という話も数多く耳にする。
また、何度も新聞記事に「心の整理がつかず、申請も何もまだできずにいる」という被災者の声も何度も掲載されている。
一方、公費解体に待ったがかかるケースもある。
倒壊したビルの所有者は公費解体を申請しているが、当該ビルの倒壊に巻き込まれ家族を亡くした居酒屋の店主は、倒壊した要因の調査が終わるまで解体に取り掛からないよう、輪島市に申請している。
⑤瓦礫より現地で生きる方の支援を
本記事編集している当時の日付は2024/4/29。
この時点での珠洲市の通水状況は上記の通り。
また、通水したと言っても敷地内の水道管破裂による断水、という状況も少なくないのが現状。更に下水はまた別問題。
参考:令和6年能登半島地震における被害と対応について(国土交通省)
⑥安否不明者の捜索
安否不明者の捜索地域については当然ながら捜索を見守ることしかできない。3月4日まで捜索が続けられていたということは、何も進めることができなかった地域が存在していたということ。あまり知られていないが、実は輪島朝市通りも長らく安否不明者の捜索が行われていた場所の一つ。
また、行方不明者の捜索については6月に再開されている。
NHK(2024/6/24)
⑦公費解体の手順
公費解体と一口に言うのは簡単だが、実際の手順は上記の通り。現地調査や解体費用の算出を行うことも必要であり、そのための専門的なコンサル人員も要する(次に後述)。実行に至るまでの過程が非常に多いため、公費解体が「申請される」ことと、実際に「解体される」ことは全く別物であることが分かる。
以下、マニュアル記載の注意点等抜粋。
・石綿の飛散防止に関する配慮
・土地の境界を示す「境界標」の確認・配慮
・解体における隣地使用に際する通知等…マニュアルは全64枚にのぼる
なお、石川県のHPにはこれらが詳細に記載されている。
⑧行政負担・専門知識性
現地調査や解体費用の算出を行う職員も増員予定とのこと(4/25時点91人▶︎5月末159人予定)。ボトルネックがどこにあるのか、常に意識する必要がある。
類似記事:日経新聞(2024.4.25)
追記:コンサル人員は6月末に300名へ増員予定
また、事務を担う応援職員も依然不足している。既に業務に影響が出ている自治体も出ているとのことで、中長期的な支援が必要。
⑨災害ごみ・処理方法
なお、地理的条件が全く異なる熊本地震においてでさえ公費解体に苦戦を強いられていた上、公費解体完了まで2年弱はかかっている(別途後述)。
→日経新聞(2016.6.15)
→産経新聞(2017.10.14)
▼災害廃棄物処理について、他自治体の協力も進む。
太平洋セメント(新潟)、能登半島地震の災害廃棄物受け入れ:日経新聞(2024/7/31)
東京都、能登半島地震の災害廃棄物受け入れへ:日経新聞(2024/7/31)
補足:解体工事と水の関係
解体工事にも水が必要であり、更にその水が流れる水路も必要。側溝・排水溝が棄損している住宅においてはこういった観点からの問題も内包している。
⑩地理・道路状況
過去の震災における被災地では多方面からの支援を受けることができたが、今回は半島という地理的制約が支援活動に影響を与えている。特に被害の大きい奥能登4市町へ続く大動脈であるのと里山海道において、依然全面復旧(対面通行可能な状態)には至っていない。
※7/17ほぼ全面通行可へ(下記参照)
「応急」工事が終了したのが4月になってから。
本格的な「復旧」工事が進むのは本当にこれから。
⑪業者の宿泊施設問題
水が出なければ作業員も長期間滞在できない。
発災直後は工事現場に入る方は数日間の車中泊を余儀なくされ、ボランティアの方も金沢往復6~8時間かけ、活動時間は数時間という日が続いていた。
現在では宿泊施設状況も改善されてきつつはあるものの、依然課題が残る。
上記「見込み」が発表されたのは4月下旬。能登はその面積の多くが山であり、平地が少ないため仮設住宅含め用地の確保が非常に難航していた。
朝日新聞デジタルの記事には、奥能登の宿泊施設が整備されるに従い、七尾市和倉温泉における宿泊施設稼働率の低下も併せて指摘されている。
⑫熊本地震では解体完了までに2年以上
多方面から支援を受けられる立地の熊本県でさえ上記の状況。半島という地理的不利の状況ではより時間がかかってしまう。
補足:予算等
地域の交流の場としても重宝される寺社等は「政教分離の原則」により公的支援が受けにくいという難点があるが、上記復興基金を活用することでその問題に柔軟に対応できる。6月時点で県はその方向で調整中。
蛇足だが、祭り文化支援のための文化復興基金についても拡充されている。
北國新聞(2024/3/1)
⑬解体の進捗
公費解体についてはお隣富山県においても同様に難航している様子が伺える。
⑭ボランティア関連
進まないボランティアの受け入れ 支援強化へ 宿泊所整備も検討(2024/2/19)
被災地のボランティア宿泊拠点を穴水町に設置 運用開始(2024/2/26)
能登半島地震2か月 ボランティアなど活動時間制限が大きな課題(2024/3/1)
ニーズの把握に課題(2024/4/3)
■何度も言うけど
現地の人が苦しくて辛くて弱音を吐くならわかるけど。
遅いとか見捨てられてるとか、現地のことを知ることもせずに言ってくるような人に言われたくない。
地理的にも不利な半島という地で生き抜く能登の人たちのことをもっとちゃんと知って、寄り添って欲しい。これからも応援して欲しい。
どうか、どうか宜しくお願い致します。
関連:「いまの奥能登のこと」