拝啓、推し様。2
ブラブラ探索し終え、時刻は12時を超えていた。
そろそろお昼にしたいが、近くのお店はお昼時ということもあり、どこも混んでいた。
流石に初デートでお昼に長時間待つのは避けたい。どうしたらいいんだろうとスマホでお店を調べようとするも、その手を彼女に遮られた。
「私が良く通っているお店。ここから近いんでそっちに行きません?そこならあんまり混雑しないと思いますし」
「あぁ、そうなんですね。そうしたらそこ行きましょう」
彼女の行きつけというお店は、こじんまりした古民家のようなオシャレと言われるとそうではない場所だった。
お店の名前は『クルールカフェ』
そういえばこのカフェの名前。どこかで見た覚えが。あれ、何だっけ。
席に着くなり、彼女は店主に「いつもので」と頼むのだ。ドラマや漫画の世界では、行きつけのお店に行くと『いつもので』と通じるのはフィクションだからと思っていたが、まさか本当に現実世界でも通じるとは。驚きつつも、メニューが決まっていない僕は少しの焦りからかあまり頼まないオムライスを頼むことにした。
「オムライス、好きなんですか?」
「え?あぁ、まぁ、はい」
特別好きではない。本当はカレーライスのが好き。店長オススメなんて書かれていたのと早く決めなくてはという焦りで頼んでしまっただけ。
数分後。先に彼女が頼んだメニューが来た。それは白米とコーンポタージュスープ、粉チーズだった。
『いつもので』と頼んだメニューの割には意外にも質素というか。貧乏くさいというか。
「あんまりお腹、空いていないんですか?」
「え?いえいえ、お腹空いていますよ」
「でもそんなメニューだけじゃ、お腹いっぱいにならないでしょう」
「私、少食なんです。だからこれでお腹いっぱいになるので心配しないでください。あ、ほら貴方のオムライスも来ましたよ」
そうしてお互い一斉に「いただきます」と言い、食事を運ぶ。しかし、彼女は一向に口に運ぼうとしない。
やっぱりお腹空いていないのかなと疑問に思った瞬間。驚きの光景を目の当たりにする。
なんと白米にコーンポタージュスープを入れ、ドロドロにかき混ぜる。仕上げに粉チーズを大量にまぶす彼女の姿。
その光景は傍から見たら行儀が悪い。でもそれだけじゃなかった。その光景は以前、僕の脳裏に焼き付けられた記憶があった。このカフェの名前。行儀の悪い食べ方。僕は何度も何度もその光景をあるネット記事で見ていたのだから。
せっかく”彼女”を忘れて目の前の彼女と向き合うと思ったのに。
「あの……」
「なんですか?」
「間違っていたらごめんなさいですけど、君ってもしかして、”キラちゃん”ですよね?」
僕がその言葉を紡いだことで少しの沈黙が続いた。あ、やってしまった。彼女からしたら誰のこと?って思うよね。嫌な思いするよね。これは早急に謝らなくてはと口を開こうとした瞬間。真っ先に口を開いたのは彼女だった。
「大正解だよ。碧翔さん。──じゃなくてアオくん」
「なんでキラちゃんがここに……?……もしかして、まだ。僕のこと、恨んでいるの?」
「恨んでいる?何のこと?」
「え、だって執拗に君のことをストーカーしていたんだよ。気持ち悪いとか、アイドル活動の邪魔したとか。そういうので恨んでいるのかなって」
「全然。恨んでいないし、君とはむしろ同志だと思っているから」
「は?……同志?」
「うん。だから、私達。恋人にならない?」
彼女の放った言葉は、あまりにも夢見心地のような甘い言葉だった。
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