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なりたい自分になる!ホテルマンの私が描くキャリアプラン

SHElikes(シーライクス)ライターコースの卒業制作で実施した、インタビュー記事のリライトです。元ホテルマンとして共感する言葉がたくさんありました。表には出さないホテルマンの想いが届くといいなと思い、ご本人の許可のもと掲載いたします。


「ホテルマンはキャリアップが難しい」。ホテル業界で働く方なら、一度は耳にしたり、もしかしたら、今まさにそれを感じている方もいたりするるのではないでしょうか?不規則なシフト制で実は体力勝負。数値化が難しい、「接客」「おもてなし」を期待される仕事。今後のライフイベントやキャリアの方向性を考えると、続けていけるのだろうかと不安な気持ちになるホテルマンも多いかもしれません。


「ホテルでの接客は好きだけど、役職者はちょっと……」。最初はそんな思いもあった、都内ホテルのフロントスタッフとして働く井口麗さん。

2020年は、コロナ禍での仕事観の変化があり、人生の大きなターニングポイントになった年だったそう。そんな井口さんに、ホテルマンとしての今後のキャリアプランを伺いました。


井口麗さんのプロフィール
都内ホテルでフロントスタッフとして勤務中。動物看護師からホテルマンへのキャリアチェンジを経て、今年で入社4年目。一般スタッフのリーダーとして、後輩指導を任されるまでに。接客が大好きで、目の前のお客様と真剣に向き合ってきた4年間。これからは、ホテルマンとしてのキャリアアップも目指し中。


なりたい自分になるため、ホテルマンへキャリアチェンジ

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大好きな動物と井口さん

ーー井口さんは、未経験でホテルマンへのキャリアチェンジをされたんですね。ホテルマンになろうと思ったきっかけはなんだったのですか?

前職は動物看護師でしたが、実は受付でお客様とお話をする機会がとても多くて。接客をしていて、「ちゃんと見てくれてありがとう」「いつも丁寧にありがとう」と感謝されることがとても嬉しかったんです。当時の上司にも「接客がうまいね」と褒められたこともきっかけでした。


ーーでは、もっと接客がしたくてホテルへのキャリアチェンジを?

ホテルマンって自分の理想の人間像に近いなと思ったんです。気遣いができて、マナーや作法を熟知していて、コミュニケーション能力がある信頼される人。もちろん、接客も大好きですが、ホテルマンとして必要なスキルと、私の理想の人間像が合致したので、おもいきってホテルマンの道に進みました。


ーー未経験で入社し、今年で4年目。コロナ禍で大変だと思いますが、現在はどのような仕事をされていますか?

基本的には、フロントスタッフとして宿泊の手続きや、お客様の滞在中のお手伝いをしています。接客以外では、教育スタッフとして新卒社員や中途採用者の指導も任されています。

今はお客様の数も少ないので、役職者になるために必要な売上管理の勉強や、スタッフの接遇力アップのためのマニュアル作りをしています。ホテルマンとして、接客のプロも目指しているので、本を読んでおもてなしスキルを学んだり、他ホテルの研究をしたりもしています。

後輩指導を経験して変化したキャリア観

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お気に入りのホテル「神戸メリケンパークホテル」からの景色


ーー役職者と接客のプロを目指されているのですね。両方を目指す上で、難しいと感じたことはありませんか?

一般的なキャリアアップと、私が思い描くキャリアアップは違うかもしれません。ただ単に、「役職」が欲しいのではなく、役職者(*注1)を目指す過程で自分が理想とする社会人像に近づくことを目標にしています。

ですので、役職者を目指すことと、接客のプロを目指すことは私にとって別物です。


(*注1)一般スタッフ→フロントチーフ→アシスタントマネージャー→マネージャー→支配人→総支配人が一般的なホテルマンのキャリアステップ。ホテルにより名称や役割は異なる。(井口さんが働くホテルでは、マネージャーが実質的な支配人)。


ーー先ほどホテルマンが理想の「人間像」と伺いましたが、「社会人像」とはまた異なる意味ですか?

そうですね。社会人像は仕事をする上での私の目標です。私はもともとリーダー気質ではないので、意見をちゃんと言えて、かつみんなをまとめられるようになりたいと思っていて。後輩指導では、リーダー性が特に必要だと実感しています。

役職者を目指す上でのマネジメント方法や、売上管理(レベニューマネジメント)の勉強は自分自身の成長とホテルの売上貢献にもなります。自分の成長が、後輩の育成にもつながると気づいたので、役職者を目指すようになりました。


ーーそれでは、後輩指導を任されるようになって役職者を意識し始めたのでしょうか?

入社当初は接客が大好きだったので、お客様との関わりが少なくなる役職者を目指す必要は必ずしもないと思っていました。でも、お客様の期待を超えたサービスをするには、自分一人が頑張ってもしょうがないので……。

店舗全体のレベルアップをするためにも、自分がリーダーシップを持って後輩にその姿を見せる必要があると感じるようになりました。


理想の人物像になるためのキャリアプラン

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おもてなしに感動した「バンヤンツリープーケット」での1枚


ーー理想の人物像になるために、ホテルマンとしてのキャリアを築いていくということですね。では接客のプロとして、どのようなことを日頃大切にしていますか?

接客のプロって定義が曖昧で、何をもって評価するのか難しいですよね……。「期待を超えるサービス」「お客様が何を求めているか先読みして行動」「お客様の気持ちをくみ取って実行する」「こんなことまでしてくれるんだって思われるサービスをする」。これは、いつも心に唱えていることです。

接客のプロになりたいって言うのは簡単で、もし周りから「あなたはプロだよ」と言われたとしても、自分の中ではずっと理想を追い求めると思います。「接客にゴールがない」はすごく実感しています。でもそれが接客の面白さでもあるんですよ。


ーー「接客にゴールがない」と、モチベーションの維持が難しくはありませんか? 

確かに、ゴールはありません。お客様と接する機会が減ってしまったコロナ禍では、正直モチベーションが下がってしまうこともあります。でも、私は無理にゴールを決めなくてもいいのかな、と思っています。

目の前にいるお客様と同じ方向を向いて進んだ先、それがゴールなんじゃないかな。ゴールに近づけば近づくほど、お客様は安心し、また来たいと思ってくれると思います。


ーーそのような考え方になったのは、何かホテルでの原体験があるのですか?

海外のホテルでの経験ですが、「バンヤンツリープーケット」というタイのホテルで、私も大切にしたいと思える体験をしました。滞在中、友人が熱を出してしまい、フロントの方に相談したら、おかゆを作って部屋に持ってきてくれたんです。

海外で不安だったし、どうしようと思っていたのですがとても安心しました。私の勤めるホテルも、今は少ないですが、海外からのゲストがとても多いホテルです。日本と、このホテルを選んでくれた方に、安心感を届けたいと思っています。

国内ホテルでは、「神戸メリケンパークホテル」が印象に残っています。ホテル全体に「らしさ」があふれている、居るだけ楽しいホテルです。立地や、神戸という場所をうまく表現されていて、働いているスタッフさんたちも明るくて楽しい方ばかりでした。

世の中にホテルはたくさんあるけど、「らしさ」は安心につながるのだな、と実感しています。

コロナ禍でも転職はしない。今できることを100%達成したい

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「バンヤンツリープーケット」スタッフの対応に感動した思い出のホテル


ーー今後のキャリアプランを教えてください。

正直、先のことはわかりません。なりたい人物像になるのは、今のホテルでしかできないわけでもありません。でも今すぐ、の転職は考えていません。今は勤めている会社でやりたいこと、やるべきことがあるので達成したいです。


ーー具体的にはどんなことを今のお勤め先で達成したいですか?

ブランドを体現できるスタッフになりたいと思っています。勤め先のホテルは、親会社の母体が大きいため、ブランドの安心感を求めて利用しているお客様は多いと思うんです。

実は先日、「〇〇会社(親会社)だから安心だと思って予約したのに!」というクレームがありました。「安心感」という期待を持って予約してくださったお客様の思いに応えられず、店舗スタッフ全員で改善策を考え、改善できるように努力しています。

東京はホテル激戦区で、新しくて奇麗でおしゃれなホテルが山のようにあります。そんな中、私たちのホテルを選んでくださったお客様の期待を裏切りたくはありません。何よりも安心して滞在できるホテル、信頼できるブランドを更新していきたいと思っています。


ーー役職者としてのキャリアプランは?

まずはフロントチーフ(*注2)を目指します。このようなクレームがでない、接客マニュアルの見直しや、チーム作りをリーダーシップを持って進めていきたいと思います。

顧客満足度をあげて、私たちを信頼してくれるお客様を増やすこと。そのためには、やはり接客のプロも目指すし、リーダーシップを持ってみんなを引っ張って行くマネジメント力も磨いていきたいです。

(*注2)ホテル現場のスタッフリーダー。スタッフ指導や時間帯責任者としてクレーム対応も行う。一般企業の「主任」に当たる。


ーーコロナ禍で「安心・信頼」は大切なブランドイメージですよね。

「安心・信頼」は大前提です。さらにこれからはコロナ禍だからこそ、新しいサービスや、お客様にできることをたくさん考えたい思っています。ワーケーションプランも増えていますし、今のお客様のニーズにあったプランやサービスをどんどん提案していきたいです。

自分自身に関しては、コロナ禍が将来を考えるきっかけとなった部分もあります。なりたい自分があって、そのためのキャリアプランを考える。その軸を忘れずにホテルマンとしてずっと働いていきたいと思います。


編集後記


「ゴールが見えない」は、キャリアを目指す上で誰にとっても不安になる要素かもしれません。接客という数値化が難しい仕事は、キャリアプランを考える過程で、どうしても悩まされる点です。

「ホテルマンとしてのゴールはない」。そんな世界で働く井口さんは、キャリアプランの道筋を「なりたい自分になるため」と定義しています。その定義のもと、井口さんがホテルマンとして働く上で大切にしているのは「安心と信頼」「期待を超えるサービスの提供」です。

なりたい自分を目指している井口さんは、安心感を与えるゆったりとした表情と丁寧なしぐさが印象的でした。井口さんのような「なりたい自分になるためのキャリアアップ」は、これからの多くの人の働き方として、一つのヒントになるのではないでしょうか。


写真提供:井口 麗さん
記事執筆:池田 里紗

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