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『ピンハイ』〜2杯目〜

ー中日新聞杯と小柄な球児ー
イカル競馬小説No.004

 薄暗いBARに小柄な男の声が響く‥

『マスター!で、そいつはそのあとどうなったんだ?ピンハイが何かわかったのか?』

 空っぽになったカクテルグラスそっちのけで小柄な男は熱く聞いた

「お客様…次は何を呑まれますか?」

『ピンハイに決まってるだろ!同じやつをくれ!』

 喰い気味の回答のあと私は同じカクテルを作り‥
 2杯目をグラスに注ぎながら‥

「彼は今まで野球しか知らない人生だったそうで…ましてや競馬なんて‥ケイの字すら知らない人だったんです‥」

『ピンハイ』〜2杯目〜

《がんばれ》

 僕は恐る恐るダンジョンに足を踏み入れたが、そこはダンジョンのような暗い場所とは真逆の明るい場所だった‥

 ケイバのケイの字すら知らない僕だが、ケイバがギャンブルだという事は知っていた‥

 だからだろうか‥勝手に5.60代のおじさんしかいないイメージをもっていた‥しかし周りを見渡すと‥
 黒いキャップを後ろに被ったサングラスの青年、若いスーツ姿のサラリーマン、なかには20代ぐらいの綺麗な女性もいた‥

 この前行った映画館よりもたくさんの人で賑わっていた‥

 おそらく「ピンハイ」とは馬の名前だと推測した僕は、おじさんが持っていた新聞と同じ物を近くの売店で購入した‥


 新聞を開きウォーリーを探せバリに「ピンハイ」を探した

 「見つけたっ!」ウォリーよりも簡単にピンハイを探す事が出来た!なぜなら桜花賞と書いてある、1番目立っていた1面にいたからだ。

 ピンハイはカラフルな虹色の出馬表の赤色列の5番に入っていた

 ようやくピンハイを見つける事ができた僕は、シングルヒットを打った時ぐらいの達成感で小さなガッツポーズをした

 そして、よくみると馬の名前の下には◎△⭐︎など色んな記号がついていた‥

 ピンハイには何もついていなかった‥でもそんな事、僕にはどうでもよかった

 それよりも、ピンハイがどのくらい小さいかが気になっていたからだ

 新聞にはピンハイ414kgと書いてあった‥

 ふとTV画面を見上げると「ピンハイ406kg(-8)」と写ってた

 さらに小さくなっていた!

 これがどれらい小さいのか僕にはわからなかったが、他の馬を見てみると482kg‥約80kgの差か‥

 僕と180cmの親友との身長差をみている様で親近感が湧いた‥

 そして急に湧いてきた親近感からか僕は生まれて初めて馬券というものを買うことを決めた‥

 しかし‥買い方がわからなかった

 まわりを見渡し…おそらく買う為の用紙あろうものを見つけた

 ‥‥書き方もわかるわけがない‥

 すると後ろから

『お兄ちゃん初めてかい?』

 聞き覚えのある声に振り向くと‥まさかのさっき僕が尾行していたやや出っ歯さんだった

『お兄ちゃんはどの馬推しだい?』

「ピンハイです!」

『おー!俺と一緒じゃねーか!』

「僕みたいに小さい馬なので‥応援したくて!」

『応援馬券か!!だったらおススメの買い方がある』

 出っ歯さんは耳からペンを取り、スラスラと書いてくれた

『これだ!』

『この買い方は単勝&複勝ってやつで、ピンハイが1着〜3着までに入れば当たりだ!2〜3着だと複勝のみ的中!1着だと単・複のダブル的中!40倍は返ってくるぞ!』

「なるほど‥」

『そして、この買い方の1番良いところは馬券に「がんばれ!」って言葉が入るんだ!応援にも力が入るぜ!』

「はい!僕この買い方にします!」

『あとは、兄ちゃんの好きな金額をマークしな!100円から買えるが、1000円だと10倍ドキドキだ!1万円なんて心臓が飛び出るぞ!』

 僕は『1』と『千円』にマークをした

「親切にありがとうございました」

『いやいや、こちらこそありがとうだ!
 人にはな‥一度しか使えないラッキーがある、それがビギナーズラックだ!』

『兄ちゃんのラックに乗っかるぜ!ありがとう!』嬉しそうだった

「そうなんですね。」

『1着できたらその携帯電話買い換えな!』

(今日買い換えたばかりです‥笑)


 ATMのような機械に千円入れたあとシートをいれた
 【購入金額が不足しています!】
  ATMに大声で言われ驚いた

 あれっ?千円じゃないの!?あせった僕は最後の千円札を急いでATMへ入れた!

 すると軽やかな音と同時に馬券が出てきた

 成功してホッとした

 各‥1000円‥なるほど‥だから2000円‥勉強になった。

『一緒に当てような』デパさんは親指を立てた

「はい!」

『この桜花賞ってのは、牝馬3歳限定G1だ!要するに激戦を勝ち上がってきた若いメス馬達のマイル最強を決める競馬ファンが注目するレースだ』

 良くわからなかったが頷いた


 レース5分前となった

 画面に映る阪神競馬場は満員に溢れかえってた。甲子園以外にこんなに満員の人が入るところがあったなんて‥

『さぁ来たぞ!』デパさんは持っていた新聞をメガホンの様に丸めリズミカルに叩き出した

 同時にファンファーレが鳴った

 甲子園ブラスバンド応援なみの熱のこもった音色に胸が高まった

 こんなドキドキは高校球児時代最後の打席の時以来だった

 ファンファーレが終わり出走馬達が続々とゲートに入って行った

『頼むぞ!ピンハイ!』

 その時のデパさんの言い方が父の
『頼むぞ!川相!』のいい方と一緒で笑えた

 最後に18番がゲートに入った

 すると、一斉にゲートが開き全頭が飛び出した!

 僕は映画鑑賞【大人1枚】ぐらい支払ったチケットを握りしめながら‥

 自分を応援するかのように‥

 チケットに書いてある言葉を叫んだ‥

『がんばれ!ピンハイ!』

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