『傷だらけのタイトルホルダー』〜1杯目〜
ボクシング‥空手‥
相撲‥柔道‥
世の中には様々な格闘技があるが
本気でそれぞれ戦った場合
最強の格闘技は‥?
なぜかそんな事を思いながら
看板を『Open』に裏返し
今週半額で提供する
カクテルの名をチョークで書き込んだ‥
さぁ感謝を込めた引退セールだ‥!
店に戻り私は競馬新聞を開き年末を熱く盛り上げる『有馬記念』の予想を開始した‥
えっ?店の準備はしないのかって?
そりゃそうです!ここは競馬好きの私が経営する競馬BAR!まずは競馬予想から!
なんてったって店の名前が‥
カラン!コロン!カラーン!
申し訳ございませんお客様がこられたようです‥
今回はどうやら真面目そうなお客様ですね‥
《お二人目:真面目なお客様》
『お客様いらっしゃいませ!こちらのカウンターへお座りください‥』
上下スーツ姿で真面目そうな雰囲気の男性はカウンターに腰を下ろした‥
「あの‥私‥今日ここに来るのが初めてなんですが‥入り口の看板に書いてあった飲み物をいただけますかね?」
『かしこまりました、タイトルホルダーですね!』
「それです!それっ!《感謝を込めての引退記念!タイトルホルダー半額!》と書いてあった看板に心が動かされて!入ってきました」
50代くらいの真面目な男性は
20代のようなに目をキラキラさせていた
『お客様も競馬がお好きなんですね!』
「競馬‥?いや?別に‥?見た事はありますが‥馬券は買った事すらありません‥」
そろそろ店の名前に問題があると気付き始めた私だったが‥
『そうでしたか!?ではなんでタイトルホルダーを‥?』
「私、子供の頃からプロレスが大好きで【タイトルホルダー】と【引退】という言葉で、今年引退したプロレスラー武藤敬司を思い出してしまって‥」
お客様がすでに胸が熱くなりかけているのが表情からわかった‥
『よほど大好きな選手だったんですね‥』
「はいっ!私の青春です!」
私は話を聞きながら手際よく作ったカクテルをお客様の前へ出した
《タイトルホルダー:1杯目》
『こちらが今週おすすめカクテル《タイトルホルダー》になります、レモンで光輝くチャンピオンベルトを表現致しました‥』
「マスター完璧です!チャンピオンベルトにも見えますし、武藤の必殺技ムーンサルトの三日月のようにも見えます!」
興奮気味のお客様から、私の競馬愛なみのプロレス愛を感じた‥
『お客様‥プロレス関係者の方でしょうか?』
「いえいえ単なるファンです‥私は熱く殴り合うプロレスとは真逆の世界‥小学校教師です‥」
『通りで‥見た目から真面目そうなお客様だと感じでおりました』
「もう教師歴30年にもなりますが、学校も私が求めていた時代とだいぶ変わりました‥」
お客様の目が先ほどのキラキラ目から50代の目に戻っていった
「私の少年時代はスクールウォーズ!不良生徒に愛のムチ指導!お前たちを今から殴る!そんな青春があると思っていました‥でも今は‥口を開けばハラスメント‥小学生にすら『さん』付‥私が子供の頃なんて宿題を忘れた日には先生からプロレス技をかけられたもんですよ‥」
『そうですが‥』
久しぶりに普通のBARの様な雰囲気になり、マスターらしい対応をしたが、どうせなら楽しい雰囲気で呑んで欲しく‥プロレスに話題を変えた‥
『お客様すいません‥わたくしプロレスは全く知らないんですが、プロレスと武藤選手について教えていただけますか?』
するとお客様の目はまた
キラキラとした20代の目に戻り
競馬BARで
【小6プロレスの歴史】
の授業が始まった‥
「プロレスの歴史は1954年力道山が設立した日本プロレスから始まる!
当時TVが高級だった時代‥プロレスは生活の一部だった‥
力道山対ザ.デストロイヤー戦の平均視聴率64%は今も尚歴代視聴率4位にランクされている。」
「であるからして
その力道山に育てられたのが
みんなも一度は聞いた事あるであろう
アントニオ猪木とジャイアント馬場
同じ師匠をもつ2人だったが
後に考え方の違いから
1972年、猪木が新日本プロレスを創設
異種格闘技戦競系のプロレスを目指す
有名なアントニオ猪木
対
ボクシング世界王者モハメド・アリ戦だ
あの、有名なアリキックはここで生まれた!」
「一方、ジャイアント馬場は
同じく1972年、全日本プロレスを創設
「明るく楽しく激しく」をテーマに
試合そのものを強く見せるプロレスを目指す」
「そして、この年を機にプロレスブームが到来
ヒーローが続々登場する
タイガーマスクに鶴田に藤浪
90年代はプロレス黄金期
闘魂三銃士
プロレス四天王の時代
しかし2000年代は
プロレス低迷期
K-1などの格闘技ブームが逆風となる
2010年代
プロレス黎明期
今の時代のスター選手誕生や技の過激化
新たなファン層の獲得
「プ女子」なんて言葉も出てきたもんだ
「と言うわけで今の新日があるのは‥」
止まらない教師の授業に
私はいつ武藤選手が出るのかと待っていた‥
「それが!さっき私がいったミスタータイトルホルダー!今年引退した武藤敬司のおかげだ!」
やっと武藤敬司が出てきた‥
熱すぎる教師の熱気で
空になったグラスをみて
私は2杯目の
タイトルホルダーを準備した‥