人事労務担当者のための労働法解説(1)
【労働契約とは何か?】今回は、労働契約とは何か?ということについて書いていきたいと思います。
1 労働契約とは?
労働契約とは、労働者が使用者の指揮命令の下で労働を提供し(労務提供する義務)、使用者がその対価として賃金を支払う(賃金支払を支払う義務)ことを内容とする契約です。労働契約法6条に定めがあります。
労働契約の締結の基本的な効果として、
労働者には、①労働者が使用者に対して労務を提供する義務が生じ、
使用者には、②使用者が労働の対価として賃金を支払う義務が生じます。
労働契約か否かは、他人決定労働(使用者による指揮命令)の有無という実態に即して判断されるため、契約の名称が「業務委託」や「業務請負」等であったとしても、法的には労働契約(労働者)であると判断される場合があります。
労働契約(労働者)と判断されると、労働契約法、労働基準法、労働安全衛生法等の法令の適用を受けることになりますので、「業務委託」として契約していた場合でも実態からみて「労働契約」と判断される場合がありますので注意が必要です。
「どのような場合に労働契約(労働者)と判断されるのか」という問題は一大論点ですので、別の機会に書こうと思います。
2 労働契約における一般原則
労働契約法3条に、労働契約の一般原則が定められています。
① 合意原則・対等決定の原則
労働契約は、労働者および使用者が対等の立場における合意に基づいて締結し、又は変更すべきものとするという原則です。
労働契約においては、労使間に顕著な交渉力・情報格差が存在し、使用者が事実上優越的地位に立って労働条件を決定する状況が存在することから、特に労使間の対等を宣言すべし、との考え方のもとに、このような原則が定められています。
② 均衡待遇の原則
労働契約は、労働者および使用者が、就業の実態に応じて、均衡を考慮しつつ締結し、又は変更すべきものとするという原則です。
均等待遇の原則は、特定の自由に基づく労働条件上の差別禁止の規定です。この原則と関連する法規制としては、男女雇用機会均等法、パートタイム労働法(正式名称:「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」)等があります。
特に近年は、「同一労働同一賃金の原則」が注目されています。
③ 仕事と生活との調和
労働契約は仕事と生活の調和にも配慮しつつ締結し、又は変更すべきも のとするという原則です。
いわゆる「ワーク・ライフ・バランス」への配慮を要請する規定です。
3 労働契約における手続き的ルール
労働契約法4条には、以下のような手続き的要請が定められています。
① 契約内容の説明
使用者は、労働者に提示する労働条件及び労働契約の内容について、労働者の理解を深めるようにするものとするとの要請です。
抽象的な規定なので、この規定自体に何か法的拘束力があるわけではありませんが、使用者における説明義務の根拠規定として用いられることがあります。
② 書面作成・明示の努力義務
労働者及び使用者は、労働契約の内容(期間の定めのある労働契約に関する事項を含む)について、できる限り書面によって確認するものとするという要請です。
労働契約は、合意のみで契約する「諾成契約」なので、労働契約書等の書面がなくても契約の効力は発生します(労働をさせ、賃金を請求することはできます)。
ただ、労働基準法15条及び同法施行規則5条では、
・労働契約の期間
・就業場所、業務内容
・労働時間
・賃金
・退職
等に関する事項については、書面交付の方法によって明示しなければならないとされています。これに違反した場合には、罰則があります。
4 労働契約の特色
労働契約は、売買契約などとは異なり、契約締結(採用)から退職まで、継続的な関係や様々な人的関係が生じる契約であるため、様々な特色があります。
① 労働の他人決定性
労働契約は、労働者が使用者の指揮命令(労務指揮権)に従って労働することを内容とします。
使用者に賃金支払い義務が生じる「労働時間」の判断基準に使用者から「指揮命令」されている時間という概念が用いられます。
業務委託契約であっても「指揮命令」下にあると認められる場合には、「労働契約(労働者)」と判断される場合があります。
「労働時間性」の問題、「労働者性」の問題については、別の機会に書こうと思います。
② 継続的契約
日本では、厳しい解雇規制(労働契約法16条)によって、長期雇用システム(終身雇用制)が形成され、労働契約の継続性を強化しています。
労働契約の継続性を強化すると、契約内容(労働条件)を柔軟に変更・調整する必要性が生じます。
企業内において、契約内容の変更・調整を円滑に進めるためには、合理的な社内規程のもとで、使用者により一方的に契約内容の変更を行う必要が生じます。
そのためには、労働契約においては、人事権(配転命令権、出向命令権、降格命令権など)や就業規則が肯定されることになります。
人事権の問題や就業規則の問題は別の機会に詳しく書きたいと思います。
③ 組織的・集団的性格
労働契約は、原則としては、使用者と個々の労働者間の契約です。
とはいえ、企業内には、多くの労働者がおり一定の集団関係や企業秩序を形成するため、そのような集団関係や企業秩序を反映したものとならざるをえません。
このような、労働契約の組織的・集団的性格から、人事権(企業組織に配置)、企業秩序定立・維持権限、懲戒権が肯定されることになります。
→ 労働協約・就業規則による労働条件の集団的・統一的処理が要請
④ 人格的性格
労働契約は、労働者が使用者に「労働」を提供する契約であるため、人格的性格が濃い契約になります。
そのため、労働契約においては、使用者対しては安全配慮義務が課され、労働者には企業秩序維持義務が課されることになります。
安全配慮義務違反があると損害賠償請求の対象となりますし、企業秩序義務違反があると懲戒の対象となります。
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