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人事労務担当者のための労働法解説(7)

【採用内定の法的性質について】
企業においては、採用予定の者に対し「採用内定」を出すことがあると思います。今回は採用内定の意義や、採用内定=契約成立なのか?という点について書きたいと思います。

1 採用内定の意義?

 
 契約は、申込みの意思表示と承諾の意思表示の合致によって成立します。
 採用は、使用者が労働者からの契約の申込みの意思表示に対する承諾の意思表示なので、正式に採用した段階で、労働契約が成立することに争いはありません。
 正式に労働契約が成立すると、労働契約法16条の解雇権濫用法理が適用されるため、使用者が一方的に解雇することが困難になります。
 
 採用内定は、企業が(主に新卒の)優秀な人材を早期に確保するために在学中に内定を与える採用内定制度が広まったとされています。

 例えば、10月1日に採用内定を出し、4月1日に正式に入社する場合、採用内定から正式入社までの間に時間差があることから、この間に内定を取り消すことがあり得ます。
 採用内定=契約成立と解するのであれば、解雇権濫用法理が適用されるため、内定取消しは困難になります。
 反対に、採用内定は契約成立ではないと解するのであれば、解雇権濫用は適用されず、内定取消しは容易に行うことができることになりそうです。

 このように、採用内定の法的性質は、採用内定取消しを容易に行うことができるのかどうかという問題に密接に関わることになります。

2 採用内定の法的性質は?(内定=契約成立なのか?)

 採用内定の法的性質については、法律上明確な定めがないため、解釈によることになります。

 この点について、最高裁は、採用内定を「始期付解約留保付労働契約」と解釈しています(大日本印刷事件・最高裁昭和54年7月20日判決・労働判例323号19頁)。

 大日本印刷事件の事案の概要は、以下の通りです。

①会社が大学に対し入社を希望する者の推薦を依頼し、募集要領、会社概要、労働条件を紹介する文書を送付して求人を募集

②学生が大学の推薦を得て求人募集に応募し、筆記試験・適格検査を受検し、身上調書を提出

③筆記試験等に合格した者に対し、面接試験・身体検査を実施

④採用内定通知書を送付

⑤誓約書(間違いなく入社し自己都合による取消しはしない旨記載)を作成・提出

⑥他に応募していた会社に辞退の連絡をした

 最高裁は、このような事実関係の下で、採用内定通知の他に労働契約締結のための特段の意思表示をすることが予定されていなかったことを考慮し、採用内定通知をもって、労働契約の申込みに対する承諾の意思表示と評価し、始期を大学卒業直後とし、誓約書記載の採用内定取消事由に基づく解約権を留保した「始期付解約留保付労働契約」が成立したと判断したものです。

 このように、最高裁は、採用内定通知の他に労働契約締結のための特段の意思表示をすることが予定されていなかったことを考慮しています。
 採用内定通知がなされたとしても、まだ労働条件の提示を行っていないような場合には、法的には「採用内定」と評価できない場合もあり得るでしょう。

3 採用内定取消しに対する法的規制は?

 このように採用内定は、始期付解約留保付きの「労働契約」が成立したと評価されるため、解雇権濫用法理の規制が及ぶことになります。

 前記の大日本印刷事件判決によれば、「採用当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実であって、これを理由として採用内定を取り消すことが解雇権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認することができるものに限られる」されており、この判断については、採用内定取消しにも解雇権濫用法理を類推適用したと評価されています。

 具体的な採用内定取消しに関する裁判例等については、次回で書きたいと思います。

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