人事労務担当者のための労働法解説(4)
【労働者と業務委託の違いは?】
「委託」や「請負」という名称であっても、実は業務実態をみれば、「労働者」であると認定される場合があります。
思わぬところで足をすくわれないように注意したいところです。
1 労働者とは?
労働者とは、「職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者」(労働基準法9条)をいいます。労働契約法2条1項にも労働者の定義規定がありますが、ほぼ同じ内容です。
2 労働者に該当するとどうなるのか?
労働者に該当すると、労働者を保護する各種法令の適用対象となります。
労働基準法、労働安全衛生法、労災保険法、最低賃金法、雇用保険法等の法令が労働者を適用対象としています。
例えば、労働者が労災事故に遭った場合、労災保険給付を受けることができますし、労働者に該当する場合には労働基準法の適用を受けるので、時間外労働を行わせる場合には残業代を支払う必要があります。
使用者としては、労働者ではないと思っていたとしても、後から裁判等で「労働者性」を主張され、裁判で労働者と認定されていますと、遡って残業代の支払いを命じられることもあり得ます。
3 「委託」でも労働者と判断される場合がある?
労働者か否かは、契約の名称で決まるわけではなく、業務の実態によって判断されますので、例えば、契約の名称が「請負」や「委託」であっても、実態としてみた場合に、労働者と認定された場合には、各種法令の適用を受けることになるため、注意が必要です。
4 「労働者」に該当するか否かの判断基準は?
前述のとおり、「労働者」に該当するか否かの判断基準は、契約の名称ではなく、業務の実態によっては判断されます。
労働者の要素は、使用者に「使用されている」ことであり、「指揮命令に属しているかどうか」という観点から総合的に判断されます。
この総合判断の考慮要素としては、以下のものがあります。
①仕事の依頼や業務の指示に対する諾否の自由があるかどうか
②業務遂行をする上で指揮監督関係にあるかどうか
③場所的、時間的拘束性があるかどうか
④業務の代替性があるかどうか
⑤業務に必要な道具を誰が準備するか
⑥報酬の決定方法 等々
これらの要素を総合的に考慮して、指揮命令関係があるのかどうかを判断することになります。裁判では、よく「総合判断」ということが行われますが、機械的に答えが出るわけではないので、どのような判断になるのか曖昧であるといわざるを得ません。非常にファジーです。
弁護士としても、「労働者に当たりますか?」という相談を受けた際には、過去の裁判例と比較して見通しを伝えることになりますが、「絶対」という回答はなかなかできないケースも多くあり、悩ましいところです。
5 裁判例ではどのような判断がされているのか?
~労働者性肯定(フリーカメラマンの事案)
有名な新宿労基署長事件(東京高裁平成14年7月11日判決・労判832号13頁)という裁判例を簡単に紹介します。
この裁判例は、労災保険請求に際して、フリーカメラマンである原告と映画制作会社(Aプロ)との契約関係が問題となった事案です。地裁と高裁で結論が分かれた微妙な事案です。
東京高裁は、以下のような事情を総合的に考慮し、「労働者」に該当すると判断しました。
① Aプロ側が作成した予定表通りに行動しなければならない
② 原告は撮影技師として監督のイメージを把握してこれを映像に具体化す る立場にあったことから、本件映画の撮影について個々の仕事について諾否の自由はなかった。
③ 監督が映画製作に関して最終的な責任を負っており、レンズの選択、カメラのポジション・アングル、撮影方法についても指揮し、フィルムの編集について最終決定をしていたのであるから、本件映画についての最終的な決定権限は監督にあったというべき。よって、指揮監督関係あり。
④ Aプロは監督の推薦があったため原告との間で契約を締結したのであるから、原告に使用者の了承を得ずに他の者に労務を提供させることが認められていたとは言い難いので代替性なし。→指揮監督関係を肯定する要素となる。
⑤ 予定表にしたがって集団行動し、就労場所もロケ現場と指定されていたことから、時間的・場所的拘束力は高い。
⑥ 原告にはAプロの就業規則は適用されていなかったが、Aプロの従業員であってもロケ期間中は撮影スタッフに対しては就業規則が適用されないのが通例であったことから、原告の労働者性に影響を与えるものではない。
⑦ 撮影機材は、自己のカメラを使用した他はすべてAプロのものであった。
⑧ 原告の報酬は本件映画1本に対して120万円とされていたものの、Aプロで決まっていた日当と予定撮影日数を基礎として算定した額であるから、Aプロの従業員との本質的な差異はない。よって、賃金の性格が強いといえる。
6 裁判例ではどのような判断がされているのか?
~労働者性否定(トラックドライバーの事案)
横浜南労基署事件(最高裁平成8年11月28日判決・労判714号14頁)を紹介します。この事案は、労災保険請求に際して、トラック運転手であるXと運送会社Yの契約関係が問題となったものです。
この事案では、以下のような事情が考慮され、労働者性が否定されています。
① Xに対するYの指示は、運送物品、運送先、及び納入時刻に限られ、運転経路、出発時刻、運転方法には及ばなかった。
② 一般の従業員のように始業時刻・終業時刻が定められていたわけではなかった。
③ トラックは自己所有のものをY社に持ち込んでいた。ガソリン代、修理費、高速代金はXが負担していた。
④ 報酬の支払に当たっては、所得税の源泉徴収及び社会保険・雇用保険の保険料は控除されておらず、Xは右報酬を事業所得として確定申告をしていた。
7 今回のまとめ
以上のように、委託契約や請負契約などとしている場合であっても、労働者と認定されるケースがあります。
労働者性の判断は、諸々の事情を総合考慮するしかないので、判断が微妙なケースもあり悩ましいところではありますが、気になる場合には、自社の業務実態をきちんと整理しておく必要があるでしょう。
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