改札を出て街へ出るとき
これは旅先へのアプローチのお話
鉄道、航空機、船舶、自動車、バス、自転車、そして徒歩…
我々は好きな目的地に、好きな移動手段で向かう。
移動手段への価値観もさまざま、移動手段を一手段と見做す人もいれば移動手段を目的とする人もいる。
とはいえ、どの移動手段を使っても旅行は面白い。
それぞれの得手不得手を活かし目的に応じて旅のお供を選んでゆきたい。
もともと私は鉄道でばかり旅行をしていた。
鉄路に身を委ね、街と街を素早く移動することができる。
そんな私が、自動車を使うようになった。
ハンドルを自分で握り、目的地から目的地までダイレクトで繋ぐことができる。
私は自動車で移動することに快感を覚えた。
駅から歩く手間なく、目的地に直接アクセスできる。
便利なことこの上ない。
ただ、街を歩いてもどこかふわふわしてしまう。
「今立っているのはどこなのか」
カメラで街を撮っていてもなおふわふわしてしまう。
「今撮った対象は本当に目の前にあったものなのか」
ある日、久々に電車に乗った。車内は街へ買い物へ向かうお客でいっぱいだ。やがて、目的地の駅で何人ものお客さんと共にドアから吐き出される。
その街の人たちと一緒に改札を通過し、一緒に街へ繰り出す。
「この感覚だ」
目の前に広がる世界を不思議と地に足着いた世界として見つめられた。
街行く人々に溶け込むようにしてカメラを構えられた。
やはり駅は街の表玄関のようだ。お客と共に改札を通ることは、呼び鈴を押し靴を脱いで家に上がる感覚と似ている。
一方、車でのアプローチはどうしても勝手口からひょいと顔を出す感覚に思えてしまう。
(これは私が鉄道の旅ばかりしてきたから得られる感覚なのか?)
駅の改札をくぐる。
地に足着いて街歩きをしたい。街の人々と近い視座で写真が撮りたい。
そんなときは鉄道を使って旅をする。
自動車移動を知ったからこそ感じられた鉄道移動の魅力である。