「ミノスゲーム」第2話
■場所:1F:ロビー:エレベーター前
広間への入り口付近に立っているミノタウロス。
その手には血濡れた斧が握られている。
驚愕する夜熊達。
虎谷「あ、ああ……」
ミノタウロス「オオオオオオオオオ!」
ミノタウロスが雄叫びを上げる。
地鳴りのような声量に耳を抑える夜熊達。
虎谷「も、もう……駄目だぁ……」
虎谷が諦めたようにへたり込む。
ミノタウロスが体勢を低くすると、ビキビキと全身の血管が浮き立つ。
鼻息を噴出して夜熊達の元へ駆け出す。
夜熊、竜泉寺を庇うように立ち上がって前に立つ。
ミノタウロスが斧を振り下ろそうとして、その右目に弓矢が突き刺さる。
ミノタウロスが右目に刺さった弓矢に悶絶し悲鳴をあげる。
ソファの後ろに黒髪ロングの女生徒が弓矢を構えて立っている。
竜泉寺「黒羊さん!?」
夜熊(?)
黒羊が再び弓矢を放つと、ミノタウロスの肩に弓矢が突き刺さる。
ミノタウロス「グォオオオオオオオオオオ!」
ミノタウロスが斧を闇雲に振り回す。
黒羊「広間に行って! 早く!」
黒羊の指示に従って広間に逃げる夜熊達。
■場所:1F:ロビー:広間
広間に散乱している死体を見て、虎谷が吐く。
虎谷「おぇええっっ……!」
竜泉寺「黒羊さん……弓矢なんて一体どこで」
夜熊「知ってるのか?」
竜泉寺「ううん。弓矢なんて私も知らなかった」
夜熊「そうじゃなくて」
夜熊「あの黒髪の生徒」
竜泉寺「黒羊さんがどうかしたの?」
夜熊「こくよう……」
竜泉寺「?」
夜熊「こくようさんって……」
夜熊「誰?」
竜泉寺「こんな時に何言ってるのよ」
竜泉寺が眉をひそめる。
夜熊「だって……俺は」
――黒羊なるクラスメイトに心当たりがない。
夜熊「何でもない。悪い」
竜泉寺「夜熊、それより早く隠れないと!」
広間を見て隠れそうな場所を探していると、
広間に黒羊が走って来る。
虎谷「黒羊さん!」
黒羊が夜熊達に駆け寄る。
黒羊「右目と右肩、それに左の太腿、背中に命中した」
黒羊「でも、数分もしない内にこっちに来ると思う」
虎谷「トドメ刺さなかったの!?」
黒羊「無理。暴れて動き回ってるから眉間を狙えない」
黒羊「それに矢は残り1本。もう無駄撃ちできない」
小蟹「首とか心臓は?」
小蟹がハンカチで頭の出血を押さえながら苦しそうに言う。
黒羊「あの硬度の筋肉じゃ深くは刺さらない」
竜泉寺「じゃあ、どうすれば……」
夜熊「アプリ……」
夜熊「アプリにヒントがあるかも」
夜熊が慌ててスマホを取り出してアプリを起動する。
最初に立ち上げた時は反応しなかった「BOSS」のボタンが反応するようになっている。
「BOSS」のボタンをタッチする。
夜熊(レベル、1……?)
夜熊(嘘だろ……あれで?)
夜熊(いや、今はそんなことよりも)
ミノタウロスの絵柄の下に書かれている文字に目がいく。
【半人半牛の怪物は生贄に舞い踊り、白く光る蜜蜂の巣が落ちると、偽りのペルシャの花畑を燃やすだろう。】
夜熊(白く光る蜜蜂の巣? ペルシャの花畑? どういう意味だ?)
虎谷「なにこれ? 何かの謎解き? こんなのわかんないよぉ!」
夜熊(考えろ)
夜熊(これの解読が決め手になるのは間違いない)
夜熊(このタイミングで閲覧できるようになったのはその為だ)
夜熊(白く光る蜜蜂の巣……)
夜熊(ペルシャの花畑……)
夜熊が足元の絨毯を見て気づく。
絨毯は花柄の模様だった。
夜熊「花畑……」
夜熊「ペルシャ絨毯のことか!」
夜熊達の足元にあるペルシャ絨毯は花柄の模様になっている。
竜泉寺「あ! うんうん! そうだよ! きっとそう!」
小蟹「でも……他にも絨毯があるっぽいな」
ロビーにある絨毯を指差す小蟹。
夜熊(絨毯の数は5枚。この内のどれかが正解なのか? それともどれも同じ、な訳ないよな…)
小蟹「手分けして絨毯の模様を確認しようぜ」
小蟹が頭の出血を押さえながら苦しそうに言う。
虎谷「そんな暇ないよぉ! もうすぐこっちに来るから隠れようよ!」
黒羊「隠れても無駄よ。アレを倒さないと」
虎谷「で、でも! でもぉ!」
ミノタウロス「グォオオオオオオオオオ!」
ミノタウロスが広間に戻ってくる。
斧を振り回して暴れている。
虎谷「こっちきたぁーーー! ひいぃいい!」
虎谷がその場から逃げ出して階段に向かう。
そして勢いそのままに躓いて転げ落ちる。
竜泉寺「まどか!」
竜泉寺が虎谷の元へ駆け出す。
暴れ狂っていたミノタウロスが竜泉寺の方を振り向くと、
竜泉寺と虎谷がいる階段下に向かって走り出す。
夜熊「クソッ!」
夜熊が二人の元へ駆け出す。
夜熊(駄目だ! 間に合わない!)
バリィンッとミノタウロスの顔で酒瓶が砕け散ると、
ミノタウロスの頭部が炎に包まれる。
■場所:1F:ロビー:BAR
猫井田「イエェーース! 命中♥」
BARカウンターの上に猫井田が立って投球ポーズをしている。
カウンターの下では鼠家が酒瓶を持っている。
酒瓶の先端からは布が飛び出ている。
夜熊(火炎瓶!?)
しかし、ミノタウロスの頭部の火はすぐに鎮火してしまう。
猫井田「あちゃー駄目かー。ウォッカ程度じゃ火力が弱い」
猫井田「でも、スピリタスなかったしなー」
ミノタウロスがBARの方向を凝視すると、BARへと進路を変更する。
鼠家「あ、歩ちゃんっ! こっちに来るよ!」
猫井田「聖子、次弾装填!」
鼠家がライターの火をつけようとするも、手が震えてうまくいかない。
鼠家「あれ? あれ?」
業を煮やした犬童が立ち上がって鼠家からライターを奪う。
犬童「貸して!」
鼠家の代わりに火を火炎瓶の布につけて猫井田に手渡す。
猫井田「グッジョブ、愛!」
突進してくるミノタウロスに猫井田が火炎瓶を投げつける。
ミノタウロスが火炎瓶を手で払って不発に終わる。
そのままカウンターに突進するミノタウロス。
ミノタウロスの突撃前に、猫井田がカウンターから飛び降りる。
カウンターを斧で叩き割るミノタウロス。
斧がカウンターに食い込んで抜けなくなると、ミノタウロスが斧を手放して猫井田を睨みつける。
猫井田「げっ。ヤバッ」
猪子場「オッッラァ!!!」
付近に隠れていた猪子場がテーブルを持ち上げて、ミノタウロスの頭部に叩きつける。
ガラステーブルが粉々に砕け散る。
牛崎「ウゥオオオオオッッ!」
牛崎が照明スタンドの尖った先端でミノタウロスに突進。
ミノタウロスの脇腹に突き刺さる。
口からゴボッと血を吐いて膝をつくミノタウロス。
牛崎「いけんぞ! 石馬ァ!」
石馬が酒瓶を割って、割れた先で何度もミノタウロスを突き刺す。
石馬「死ね死ね! 死ねオラ! 死ねぇ!!!」
猪子場も壊れたガラステーブルの脚で何度もミノタウロスの頭部を叩きつける。
猪子場「クソがッ! 死ね化け物!!!」
石馬「よっしゃ! いけそ――」
石馬の手首をつかむミノタウロス。
そのまま手に力を込めて石馬の手首を握りしめていく。
石馬「ぎゃああああああああ!」
猪子場「テメェえええええ! 離せ!!」
乱打する猪子場。
石馬の腕を握っていた手を離すと、腹部に刺さった照明スタンドを力任せ引き抜いて、スタンドの棒ごと牛崎を放り投げる。
牛崎が地面に叩きつけられる。
猪子場「倫!!!」
牛崎が背中から落ちて意識を失う。
猪子場が牛崎に気を取られていると、ミノタウロスが勢いよく立ち上がってツノが猪子場の右肩に突き刺さる。
猪子場「うっ、ぐおおおっ……!」
突き刺したまま壁際前で突進して猪子場を壁に押し付ける。
苦痛からジタバタと悶える猪子場。
■場所:1F:ロビー:広間
夜熊、牛崎達と負傷して動きが鈍っているミノタウロスを観察している。
夜熊(殺れるかもしれない…)
夜熊(あの怪物もだいぶ弱ってる)
隣では竜泉寺が転倒により足を捻った虎谷に肩を貸している。
黒羊「どうするの?」
隣に立っている黒羊が問いかけてくる。
夜熊「……」
夜熊、速まっている鼓動に手を当てて深呼吸する。
夜熊(落ち着け)
夜熊(これはゲームだ)
夜熊(必ずあの怪物を倒す手段がある)
夜熊(絨毯をどう使う? 絨毯の下に何かあるのか?)
夜熊(5箇所も調べている時間は無い)
夜熊(正解の絨毯はどれだ? どうする? どうすればいい?)
夜熊(白く光る蜜蜂の巣? それは何を指している?)
夜熊(何か……あれを倒す手段が何か! 必ずあるはずなんだ!)
夜熊がロビーに来てからの出来事を断片的に思い出す。
――【半人半牛の怪物は生贄に舞い踊り】
――「豪華なシャンデリア……蝋燭までのってる」
――「大丈夫セーフ! 染みになってない!」
――【白く光る蜜蜂の巣が落ちると】
――「あちゃー駄目かー。ウォッカ程度じゃ火力が弱い」
――【偽りのペルシャの花畑を燃やすだろう】
夜熊(倒し方が……)
夜熊「……わかった」
夜熊が鼠家の持っている火炎瓶を見つめながら口を開く。
夜熊「黒羊さん……頼みがある」
※夜熊の顔のアップがラストカット(コマ)