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小雨の中の出会い

それはとても寒い日だった
出かけようと思って玄関を開けると
小雨が降っていたので傘を持った

もうすぐ目的地
というところで
道路の向こう側に
カートを押しながら歩く
高齢の女性の姿が見えた
小雨とはいえ
道ゆく人は皆傘をさしている

私は一瞬迷って通り過ぎてしまったが
振り返ると
彼女は道路を渡ってこちら側へ来た
いま声をかけなかったら
後悔する
はっきりそう思ったわけではなかったけれど
私は戻って傘を差しかけた
「お家までお送りします」
カートを押している彼女の足取りから考えても
行き先はそう遠くはないだろう
急いでいるわけでもないし
ただそう思ったのだ
案の定、彼女は断った
「寒いし、風邪でも引いたら大変なので」
少し押しつつ
一緒に歩き始めた
「もう私、涙が出ちゃう」
彼女は急に涙目になってしまった
その涙が私の傘を差しかけたせいだというのなら
なんて素敵な涙だろう
それからほんの少しの間に
色々な話をした
彼女はノーメイクでマスクをしていただけの私に
しきりに
「綺麗だ」
と言ってくれた
こんなに褒められたのは
久しぶりだ
あまりにも色々褒めてくれるので
最後には
私の方が泣いてしまった
しばらくして雨が止み
「雨が止みました、もう大丈夫」
彼女がそう言ったので、私たちはわかれた

別れ際
「また必ずお会いしましょうね」
そう言って握手をした彼女と
私はまたあの道で会うことを楽しみにしている

彼女に声をかけたことで
私は少しでも
あの日の女子高生に近づけただろうか

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