見出し画像

あなたとわたしはイーブンだ。

(これは30年ほど前の話です)

寿退社した。
そして結納品を盛大に揃えて行われた結納式1ヶ月後。
結婚式1ヶ月前、突然彼は亡くなった。

亡くなる朝、
彼は私に丁寧な挨拶をした。

君と出逢えて本当によかった。
僕の人生は色々あったけど、
君に出会ったから全て良しとなった。
僕は心から幸せだ。

ありがとう。

私は照れ臭くて、行ってらっしゃいと返した。

その数時間後、彼が心筋梗塞で倒れたと電話があった。

病院までどうやって行ったか、覚えてない。

彼はベットの上。間に合った。

心臓死です。
機械で無理矢理動かしてるだけです。
脳死とは違います。
蘇生することは100%ありません。
ご家族の方が揃ったら、心臓の機械を止めます。
先生は淡々と説明する。

いやー!!
やめてー!!

私は全力で拒否する。

死んでるて嘘でしょ?

嘘でしょ?

彼を抱き寄せると、わずかに死臭がした。
彼の身体は死臭で包まれていく。
彼の体はご遺体に変化する。



それから数ヶ月後、私はインドにいた。

インドの路上は人も動物も活気があるのに、気怠そうなのだ。
日本で、
恋人に死なれた可哀想な私をなぐさめるやさしい空気がしんどかった。

たくさんの死がゴロゴロ転がってるインドで
死の空気を幾重にもまとい、その中で静かに泣きたい。

最貧困層の女の子が黙って私に向かって手を出してきた。
彼女は堂々と私からものをもらうと、別のところに行ってしまった。

インドではものもらいは恥ずかしい行為ではない。
ものをもらってあげることで、
ものを持っている人の罪、咎(トガ)、穢れを
代わりにもらうことになるから。
もらってもうことで、富を持つものたちは浄化される。

彼女はものがなくて、不幸の中にいる。
私はこころがなくて、不幸の中にいる。

わかりやすい不幸と
わかりにく不幸。

神を通して全ては生まれ、
神を通して全ては無になる。

あなたとわたしはイーブンだ。




いいなと思ったら応援しよう!