明るいほうへ
彼が亡くなって数ヶ月後。
私は霊媒師の前に座っていた。
「死を待つ家」で
四の五の言わずに生きる覚悟はしてみたけど、
こころがこうちゃくしたままだった。
心配した母に連れられ
平凡な3LDkマンションの祭場のある一室で
私は霊媒師の前に座ってる。
霊の見える人特有の目をした彼女は
モジャモジャと何かを唱えた。
そして、怪訝な顔しながら
「世界は二人のために」(山路路夫作詞・いずみたく作曲)
を歌いはじめた。
??????
「彼はあなたが自分を心から愛してくて嬉しいとこの歌をウタッテマス」
呆れた感じで私に告げた。
「は!???」
「突然、居なくなってごめんね」とか
「色々大変な思いさせてすまない」とか
他に言うことあるだろうーーーー!!!
イヤ、そんなはずはない。
これから彼の言葉が続くはずだ。
「‥‥‥」
「‥‥‥」
「それだけですか?」と私。
「はい、それだけです」と彼女。
「はぁーーーー!!」
「ふざけるな!!」
私の悲しい、重い想いが消し飛んだ。
ふざけてる。
ふざけてる。
私がこんなに悲しみと虚無感に押しつぶされそうなのに。
あの世で彼はご機嫌だって?
頭の中で想いがグルグル巡った後、
だんだん笑えて来た。
馬鹿な人だよ。
まったく。
自分が死んだことより
私が自分のこと好きで居てくれたことの方が
あの人にとっては大事なことなんだ。
彼はあの世でしあわせな気分でスキップしながら歌ってるのか。
「世界は二人のために」を‥
死んでも呑気な人だ。
相変わらずバカばっかり。
明るい方へ、
こころがすーと向かった。
「大好きなあなたへ
あなたはあなたで、
あの世でしあわせそうでよかった。
私は私で、
この世で明るく生きるしかないよね。
じゃあね。
ありがとうね。ばいばい」
幾重にも語られる真理よりも
一つの笑いが人を救うこともある。