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The 404 Political War: the cases of political parties in UK.

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 404(not found)とは、サイト閲覧時に削除やリンク間違い等の事情で存在しないwebページにアクセスしようとした際に出る、HTTPのステータスエラーコードである。検索してみると、「ひと工夫した404ページを作ろう」といったサイトが出てきたりする。さて先日、イギリス保守党の404ページに偶然行き着き、興味が湧いたのでついでに他の党のも調べてみたという経緯。意外にも奥が深かったので、少し書いてみる。

 方法としては、各党のHPにアクセスし、/以降に「404」や「aaa」などの適当な文字を入力してエラーページを出す。また、過去のものを確認するにあたっては、インターネットアーカイブサービスであるWayback Machineを用いて、同様のアドレスで検索をかけた。

Attack 404

保守党: Conservatives (Tories)

 保守党の現行の404[Figure 1.]。労働党党首Keir Starmerに「Whoops!」の文字。写真は背景透過加工済で、ファイル名「Keir2.png」。労働党政権だとoff-track、すなわち道を外れてしまうぞという暗喩だろうか。

WFigure. 1

 その後調べてみると、こうした404は昔からではなかった。かつてはアンケートページになっており、自党の「長期経済計画」をアピールしつつ、それが訪問者の選好と合致しているかを示す戦略的なものだった[Figure 2.]。

Figure 2.

 これが現行の形式に変わったのは2020年末だった[Figure 3.]。使われているのは同年4月に労働党党首を辞任したジェレミー・コービン(Jeremy Corbyn)が自転車に乗っている写真である。

Figure 3.

この自転車は雑誌「Stylist」にてコービンが理想として挙げたもので、これが£475(当時のレートでおよそ7万円)だったことを「社会主義者を自称するコービンがブルジョワの物を欲しがるなんて」とTelegraph紙らが揶揄して物議を醸した。結局、労働党支持者らがコービンに自転車を買おう!とクラウドファンディングを行い、コービンはその集まった£7,445に自腹の£475を加えて、難民支援団体Calais Actionに寄付するなど逆手にとった。

 保守党はコービンが辞任した後に、そうした過去の"ネタ"を持ち出して404に使ったのだろう。ちなみに、ファイル名は「5db870983a5d8b55ebf589ea_Corbyn Website Error Isolated.png」だった(ちなみに、素材を買うと$59かかる)。なお、ページ下部に「Back Boris and the Conservatives」のメッセージが追加され、メールアドレス欄等への入力でお知らせへの登録を促すようになっていた。

労働党: Labour

 現行は、特に変哲もない404ページ(勝手な願望としては、404という見えないところで熾烈にやりあっててほしかった)[Figure 4.]。以前からもそうだったようで、落ち着いたシンプルなページだった[Figure 5.]。

Figure 4.
Figure 5.

 ただし、一時期、とりわけ2018年頃はもう少し攻撃的だったようだ[Figure 6.]。使用されていたgif画像は、当時の保守党党首で首相のボリス・ジョンソンが、EU離脱交渉に臨んでいた際にその決定に対する抗議を各地で受けていたことを受け、ルクセンブルク首相との会談後の屋外での共同記者会見を欠席した際のものだ。当時のベッテル首相はそのまま続行し、空の演説台を指しながらジョンソン首相を非難していた。

Figure 6.

 この場面のミームを労働党は使用し、以下のような文言を載せている(なおこのgif画像の前はコービンの画像だったようだ)。皮肉が利いている。

Just like the Prime Minister, this page appears to be missing.
Fortunately, Labour’s got a plan to build a Britain for the many, not the few.
(首相と同じように、このページも見つからないようです。
幸いなことに、労働党は少数の者のためではなく、多くの人々のためのイギリスを建設するプランを持っています。)

(2023.11.13追記)
再度アクセスしてみると、一言足されていた。世論の政権支持下落を受けて若干攻勢を強めていると言える(?)

「リシ・スナクの労働者のためのプランとちょうど同じように、このページも見つかりません」

自由民主党: Liberal Democrats

 自由民主党(Lib-Dem)が最も辛辣で面白い[Figure 7.]。

Figure. 7

Sorry, just like a Conservative MP for Tiverton and Honiton, this page does not exist.
(申し訳ございませんが、Tiverton and Honitonの保守党議員のように、このページは存在しません。)

 Tiverton and Honitonは前回選挙で保守党と自民党が議席を持っていたところだが、保守党議員のNeil Parishが議会中にポルノ動画を見てたことが発覚して、今年5月に辞任したことを盛大に揶揄している。大変イギリスっぽくて好きだ。

 そして、Lib-Demはどうやら以前からこの種の辛辣な404を使っていたようで、確認できる限りでも、労働党・保守党・UKIPと手当たり次第に皮肉っている[Figure 8.-15]。なお、webアーカイブで遡ると、2015年5月の初めには緑の背景に道路というものだったが、その後は攻撃的になっている。2010年から保守党との連立政権を形成していたが、2015年5月実施の総選挙にて議席を大幅に減らし(57→8)、離脱した。それ以降、与党・保守党に刃を向けるようになったものと推測される。
 残念ながら全てはアーカイブに残っていないのだが、調べるとこの他のバージョンもあるようで、興味深い。

Figure 8.
注: 写真は当時の労働党の影の財務相であったエド・ボールズ(Ed Balls)。
Ed Balls Dayでもお馴染み。
Figure 9.
Figure 10. (BBCより)
参考: Is it West Ham? Or is it Villa? Cameron mocked on Twitter as he forgets which team he backs | David Cameron | The Guardian
Figure 11. (BBCより)
Figure 12. (mashableより)
Figure 13.
Figure 14.
注: 丁寧にも、「ジョンソンとトランプ、どっちの発言でしょう」というクイズと、ジョンソンの問題点を列挙したページへの誘導をしている。
Figure 15.
参考: ‘People won’t forget Dominic Cummings’ visit’: Barnard Castle learns to live with notoriety | Dominic Cummings | The Guardian

(2024.1.10追)
かつてないほど変哲のない404になっていた。どの党に対して批判を加えるか様子見している状況、といったところか。

https://www.libdems.org.uk/notfound

スコットランド国民党: Scottish National Party

 SNPはイギリスからのスコットランド分離独立を主張する政党である。 その404は、「イギリスの一部でいることの利点など見つからない」と暗に言っている[Figure 15.]。"a bit"がニクイ。アーカイブを遡る限り、当初からこのデザインだった模様。

... a bit like the positive case for Scotland remaining part of the United Kingdom. Read about how we are building a better Scotland.
(... スコットランドがイギリスの一部でいることの利点と少し似ています。より良いスコットランドをつくるために、私たちがどのような取り組みをしているか、ぜひご覧ください。)

Figure 15.

 なお、この他の政党、例えばUKIPやReform UKなどの政党についても一通り確認したが、普通のエラーページであった。

含意?

 他党のリーダーや政策を批判してそのイメージを棄損しようとする、立派な(?)’Valence Attack'(イシューまたは非イシューに関連する政党の誠実さ、完全性、能力に対する性質に基づく攻撃)の一つと言えるのではないか。尤も、404ページは全ての訪問者が行き着く場所ではないし、実際に何らかの効果があるわけではないだろう。だが、頻繁に変えたり、時期によって攻撃度が変わったりしていることを考えれば、その時々の政局や政党の戦略の方向性を反映していることが分かる(どの部局が担当しているのか知りたい)。
 また1ユーザーとしては、404というエラーページに行き着いてしまったという割とストレスフルな状況で誰かのネガティブイメージを提示されたら、そちらに矛先が向きそうな気もしなくもない。

後記

 ところで、今回はイギリスを中心に見たが、他国でもこのような文化は存在するようだ。簡単に確認してみる。

アメリカ
 共和党はバイデンを皮肉っているが、民主党は「まだやることはある!」とサイトに留まらせてボランティアなどに誘導しているだけである。大統領野党のほうが現職を攻撃するというインセンティブが働きやすく、アメリカの政党の場合は党首は存在しないため大統領与党側はそうした相手方の「顔」が予備選が終わるまで指しにくい、ということかもしれない。

①共和党

Figure 15.
Figure 16.
IT LOOKS LIKE YOU'RE AS LOST AS BIDEN IS(バイデンと同じように迷走しているようだね)

②民主党

Figure 17.
Figure 18.

カナダ

 たまたま目に付いたので。

Figure 19.


 なお、フランスやドイツの主要政党も確認してみたが、特に面白いものはなかった。また、日本の国政政党もあらかた調べてみたが、予想通りこちらも簡素なページだった。国によって差があるのも面白い。

 他に見つけたものがあったら是非教えてください。