回転と射影で学ぶ線形写像(補足 掃き出し法)
このシリーズの(2)では線形写像を表現する道具として行列を導入しました。
重要だったことをまとめておくと
2次元ベクトル$${\begin{bmatrix} x \\ y\end{bmatrix}}$$を2次元ベクトルに移す線形写像は$${x,y}$$の1次式2本で表せる。一般に$${n}$$次元ベクトル$${\begin{bmatrix} x_1 \\ x_2 \\ \vdots \\ x_n \end{bmatrix}}$$を$${m}$$次元ベクトルに移す線形写像は$${x_1 , x_2 , \cdots , x_n}$$の1次式$${m}$$本で表せる。
$${x_1 , x_2 , \cdots , x_n}$$の1次式$${m}$$本は$${\begin{bmatrix} x_1 \\ x_2 \\ \vdots \\ x_n \end{bmatrix}}$$に行列$${{A}}$$を左からかけることで表せる。
です。このように、行列は「大きな1次式をひとまとめに扱う道具」という側面があり、たとえば行列を利用して連立1次方程式を見通しよく解くことができます。
既にこのシリーズの中でも連立方程式を解く作業が何度か出てきているので、一旦この辺りで行列の基礎と連立1方程式に関係する内容をまとめておきます。
行列とは
定義と言葉の紹介
$${\begin{bmatrix} 2&0& 5 \\ -1&6& 4 \\ 3& 9& 2 \end{bmatrix}}$$のように数を長方形状に並べたものです。
$${\begin{bmatrix} 1&0& -3 & 5 \\ 6& 1&2& 4 \\ -7& 2& 2 &1 \end{bmatrix}}$$のように横長でも構いませんし、縦長に並んでいるものを扱うこともあります。
さらに極端な例として$${\begin{bmatrix} 5 4 3 \end{bmatrix}}$$や$${\begin{bmatrix} 1\\ 8\\4\end{bmatrix}}$$のようなものも行列の例です。
並んでいる数を成分といい、横の並びを行、縦の並びを列といいます。
最初の例は行と列を3つずつ持つ行列でこのことをはっきり表現するために$${3\times3}$$行列と言うこともあります。次の横長の行列は行が3つ、列が4つの行列なので$${3 \times 4}$$行列です。この$${3 \times 3}$$や$${3\times 4}$$などを行列の型といいます。
最後に挙げた極端な2つの例はそれぞれ$${1\times 3}$$行列、$${3\times 1}$$行列などと呼ぶべきものですが、これらは3次の行ベクトル、3次の列ベクトルなどと呼ぶことが多いです。
行列の演算
行列には和、差、積、実数倍と呼ばれる演算が定義されています。
行列は数を長方形状に並べてまとめたものですが、この演算たちによって行列自体をあたかも1つの数かのように扱うことができます。
和、差は型が同じ行列に対して定義し、同じ位置にある成分の和、差をまた同じ位置に並べたものです。例えば
$${\begin{bmatrix} 1 &0&4 \\ 5&-2&8 \end{bmatrix} + \begin{bmatrix} 4&-2&3\\0&4&1\end{bmatrix} = \begin{bmatrix} 5&-2&7\\5&2&9\end{bmatrix}}$$
のようになります。
実数倍はそれぞれの各成分に同じ数をかけて並べていきます。これも例を挙げてみると、
$$
3\begin{bmatrix} 1 &0&4 \\ 5&-2&8 \end{bmatrix}= \begin{bmatrix} 3&0&12\\15&-6&24\end{bmatrix}
$$
です。
積はここまでのものと比べて複雑です。
行列$${AとB}$$について$${A}$$の列数と$${B}$$の行数が等しいとき、$${A}$$の第$${i}$$行と$${B}$$の第$${j}$$列をそれぞれベクトルと考えて計算した内積を$${i,j}$$成分に持つような行列を$${AとB}$$の積といい$${AB}$$と表します。
内積とは成分ごとの積の合計です。つまり、
$${\begin{bmatrix}a_1 \\ a_2 \\ \vdots \\ a_n \end{bmatrix} \cdot \begin{bmatrix}b_1 \\ b_2 \\ \vdots \\ b_n \end{bmatrix} = a_1b_1 + a_2b_2 + \cdots +a_nb_n}$$
です。
行列の積の計算例を挙げると、
$$
\begin{bmatrix} 1 &0&4&-3 \\ 0&4&8&1 \end{bmatrix} \begin{bmatrix} 3&1\\-4&2\\1&0\\5&-1\end{bmatrix} = \begin{bmatrix} -8&-2\\-3&7\end{bmatrix}
$$
です。
分配法則のような普通の数に対して成り立つ計算法則の多くが行列に対しても成立しますが、積の交換法則は成り立たないことに注意しましょう。
連立1次方程式と行列
連立1方程式は行列の方程式に書き換えることができます。
$$
\begin{cases}
x + 2y + 3z = 2 \\
2x+5y + 3z = 1\\
x +8z = 4
\end{cases}
$$
は行列の積を利用して
$$
\begin{bmatrix} 1 &2&3\\
2&5&3\\
1&0&8 \end{bmatrix} \begin{bmatrix}x\\y\\z\end{bmatrix} = \begin{bmatrix} 2 \\1\\4 \end{bmatrix}
$$
と表せます。左辺の行列は連立方程式の係数を並べた行列です。これを係数行列といいます。
この見方をしておくと後で紹介する逆行列というものを用いることで、中学校で最初に習う1次方程式($${2x=6}$$のようなもの)を解く要領で係数行列をキャンセルして…のように式変形によって方程式が解けるようになります。
拡大係数行列と掃き出し法
掃き出し法
掃き出し法と呼ばれる連立1次方程式の解法を紹介します。上で挙げた連立方程式を例に説明します。
$$
\begin{cases}
x + 2y + 3z = 2 \\
2x+5y + 3z = 1 \\
x +8z = 4
\end{cases}\\
$$
ここから先は
¥ 100
この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?