知能が結晶化するってどういうこと? ~「結晶性知能」についての考察~
最近、「流動性知能、結晶性知能」という言葉をよく聞きます。なんでも、「流動性知能」とは、情報を獲得し、それをスピーディーに処理・加工・操作する知能のことで、暗記力・計算力・直観力などがそれに該当するそうです。そして、その知能は、10代から20代にピークを迎えるということです。一方で、「結晶性知能」とは、経験や学習などから獲得していく知能のことで、言語力に強く依存し、洞察力、理解力、批判や創造の能力といったものが該当するということです。「結晶性知能」は、経験や学習によって20歳以降も上昇を続け、高齢になっても衰えることがなく、安定しているといわれます。
私は、最初、「結晶性」という言葉を聞いて、どことなく違和感を抱きました。というのも、結晶化(クリスタライゼーション)という言葉は錬金術の言葉だからです。精神的・宗教的な語句が「知能」といった科学的な分野に乗り出してきたということは、きちんと調べる必要があると思いました。
まず、この、「流動性知能、結晶性知能」という言葉は、1967年にレイモンド・キャッテル(Raymond Cattell)によって発表されたものとされます。キャッテルの理論の根拠となる、もしくは、サポートする文献はないかと探してみましたが、有効な手がかりはつかめませんでした。ただ、Googleで検索して気付いたのは、これらの言葉を使ったシニア向けのビジネスの宣伝ページがやたら多いことでした。そして、ヒットしたごく少ない論文も、そのほとんどが、知能の「結晶化」には否定的なものばかりでした。
歳を重ねたら「結晶化」する知能について、レイモンド・キャッテル自身も、限定条件を示していました。
「流動性知能」は、凡そ10代後半から20代前半にピークを迎えるとされます。上のキャッテルの言葉は、若い時にしっかり勉強して「流動性知能」を貯めておかないと、そもそも、結晶化する知能もないということを示しています。キャッテルはそれを説明するために、わざわざ、「環境」という言葉を使用しています。それが、キャッテルは優生思想をもった白人至上主義者だと言われるゆえんです。つまり、お金持ちの家に生まれて、良い環境で学習を受けていなければ、歳をとっても安定的に発揮できる知能は残らないと言っているのです。高等教育が受けられない貧しい家に生まれた者、有色人種は知能的に劣ることを科学的に証明しようとしたとも取れます。調べてみて分かったのは、「流動性知能、結晶性知能」という考え方は差別主義の上に成り立っているということです。
「歳をとっても『結晶性知能』は伸ばしていける」と謳っているビジネスは、キャッテルの考え方の表層だけを切り取って、自分たちの都合のいいように解釈して使っているようです。もしくは、全体像のない宣伝的な箇所だけが何度もコピーされ、使っている業者もその由来を顧みることなく、世の中で平気で使われている、という現象が起こっているようです。ルーツを知ったら、それらは、企業倫理的に使えない言葉かもしれません。
最後まで読んでいただいて、どうもありがとうございました。