企業解説【TOTO(5332)】実は住宅市況の影響を受けにくく市況悪化でも拡大が期待できる理由と業績の上振れの可能性
日経平均に採用されている銘柄を全て取り上げているこのnote、今回取り上げるのはTOTO株式会社です。
トイレなど住宅機器の大手企業です。
事業内容と業績のポイント
それでは早速事業内容から見ていきましょう。
TOTOの事業セグメントは以下の3つです。
①日本住設事業:システムトイレなど水回りの住宅設備の製造・販売の国内事業
②海外住設事業:水回りの住宅設備の製造販売の海外事業
③新領域:半導体分野やディスプレイ製造装置向けなどのセラミック関連製品など、半導体市況の影響を強く受ける事業
2024年3月期時点での売上構成は以下の通りです。
①日本住設事業:67%
②海外住設事業:27%
③新領域:5%
④その他:0%
営業利益の額と(利益率)は以下の通りです。
①日本住設事業:223億円(4.7%)
②海外住設事業:119億円(6.2%)
③新領域:110億円(30.1%)
④その他:▲24億円
売上では、住設関連の事業が大半を占める主力で特に国内事業が2/3ほどを占める事業となっています。
利益面も国内住設が主力ですが、新領域は利益率が圧倒的に高く海外住設と同程度の利益を出しています。
2023年3月期では新領域と国内住設の利益が同程度でしたから、新領域事業は利益面にとって重要性の高い事業です。
国内の住設関連の事業が主力なものの、半導体関連などの新領域も利益面への影響が大きい企業だという事ですね。
国内の住宅関連の市場動向に加えて、半導体市況の動向も重要な企業だと分かります。
続いて主力の国内市場の状況を見ていくと、やはり人口減少が進んでおり新設住宅の推移を見ても低迷傾向が続いています。
そういった状況ですから事業は縮小しているのかというと、実はそうではありません。
というのも売上構成を見てみると、新築は3割でリモデルが7割という構成になっているからです。
さらに利益面に関してもリモデルが216億円に対して、新築は8億円しかありません。
リモデルは利益率も高く重要性が高い事業だと分かります。
住宅でも水回りの老朽化すればリフォームなど更新をするわけです、なので新設が伸び悩む中でもそういったリモデル需要があります。
日本は人口減少が進んでいるとはいえ、人口自体は多い国ですし老朽化した物件も増えています。
なので築20年以上のリモデル適齢層の世帯数ボリュームは2030年でも維持されるとしており、堅調なリモデル需要が続く事が期待されます。
実際に安定したリモデル需要があり、2024年3月期も新築の業績は悪化していますがリモデルの業績は拡大した事で国内事業は増収増益です。
国内もリモデルによる安定した業績は期待され、縮小事業ではないという事ですね。
主力の事業は安定した業績が期待される事が分かります。
とはいえ、大きな成長が期待できるのかというと人口減少の中でそれは難しくなっています。
実際に2026年度までのCAGR(年間平均成長率)の計画を見てみると以下の通りです。
①国内住設:+3%
②海外住設:+13%
③セラミックス:+20%
国内事業も拡大を目指していますが小幅で、やはり今後の大きな拡大を目指しているのは海外事業やセラミックス事業です。
それこそ海外事業は2001年度時点では8%ほどしかありませんでしたが、それが近年は3割弱ほどまで伸びてきており成長しています。
2030年には海外売上比率は40%以上まで増加させる目標を立てています。
そして半導体市場も大きな拡大が続く事が期待されていますから、セラミック事業の拡大も期待されます。
今後の成長という意味では、海外事業やセラミックス事業の動向が重要だという事ですね。
ちなみに、海外事業の地域別の売上構成の現状と2026年の計画を見ていくと以下の通りです。
中国大陸事業:44%→36%
アジア事業:23%→26%
米州事業:31%→36%
欧州事業:2%→2%
現在は中国大陸を中心とした構成になっていますが、今後の拡大を目指しているのは米州やアジアとなっています。
米州の成長要因だとしているのがウォシュレットの浸透、そしてアジアは各国の経済成長による拡販だとしています。
米国でのウォシュレット文化の浸透や経済成長が進むアジアで、シェアの拡大が出来るかに特に注目です。
また、海外比率も一定程度ありますので為替の影響もあります。
とはいえ、2024年3月期の影響を見てみると海外住設事業や新領域事業では円安が続く中で好影響がありましたが、国内事業では輸入面の悪化からマイナスの影響があった事で一定程度相殺され、営業利益では+7億円程度の影響にとどまっています。
事業面では為替はそこまで大きな影響が無いという事が分かります。
ですが、その一方で営業外損益では為替差益は56億円となっています。
経常利益が515億円ですから、約10%ほどが為替差益によるものでその影響は大きいです。
海外事業も大きな規模で展開するTOTOは多額の外貨も保有していますから、その保有していいる外貨からの利益が大きいという事です。
100ドル持っていたら1ドル100円→150円に上昇すれば、5000円利益が出るといった話です。
事業面では為替の影響は小さいものの、為替差損も含んでいる経常利益や純利益面では為替の影響もありますので、為替の動向にも注目です。
という事でTOTOの状況を考える際には、住設事業では米州市場やアジア市場の動向、さらに半導体市場や為替にも注目という事です。
それでは事業内容がある程度分かったところで、続いて近年の業績の推移を見ていきましょう。
まず、2014年度以降の売上の推移を見ていくと2020年度までは横ばい傾向で5000億円台の推移となっていましたが、2021年度に拡大し6452億円となり、そして2022年度以降は7000億円ほどとなっています。
近年の売上は好調だという事ですね。
その一方で営業利益の推移を見ていくと、2018~2020年度は低迷し、売上が拡大した2021年度は利益面も好調なりました。
ですがそれでも2017年度は下回っていますし、2022年度以降は改めて減益傾向が続いています。
近年は売上は伸びた一方で利益面は苦戦傾向となっていた事が分かります。
2020年度時点での計画では2023年度の営業利益率は8.7%を計画していましたが6.1%にとどまっており、想定通りの収益性の改善が進められなかった状況です。
ではどこが想定を下回ったのかというと、それは中国大陸事業の市況の悪化の長期化です。
それこそ以前の中国では不動産建設が非常に旺盛で、それによってTOTOも事業の拡大が進んでいたわけですが、それが近年では習近平政権による規制によって不動産市況の大きな停滞が訪れています。
そういった市況悪化で想定通りの成長を見せられなかったという事ですね。
実際に、2024年3月期の海外住設事業の市場別の営業利益の前期比を見ても以下の通りです。
中国大陸事業:▲38億円
アジア事業:▲10億円
米州事業:+39億円
欧州事業:▲1億円
中国大陸事業が最も大幅な減益になっている事が分かります。
主力の中国市況が低迷する中で、今後も海外住設事業の一定の苦戦が続きそうです。
とはいえ米州事業は大幅増益となっており、中国大陸事業の不振で想定は下回ったとはいえ、近年の減益傾向の要因は海外住設事業ではありません。
2023年度のセグメント別の営業利益の推移を見てみると以下の通りです。
①日本住設:+29億円
②海外住設:▲10億円
③新領域:▲84億円
最大の減益となったのは新領域(セラミック事業)です。
それはやはり、半導体市況の低迷による影響が出ています。
2023年度は半導体市況が低迷しています。
とはいえTOTOの関連ある半導体前工程製造装置の市場では2024年から回復傾向となり、2025年には再拡大が見込まれています。
利益率の高いセラミックス関連の事業で今後の業績回復が期待されますから、2025年3月期以降の業績は改善傾向となる可能性が高そうです。
さらに、海外住設事業で派アジアも減益となっていましたがこれは、台湾やベトナムの市況の低迷が影響していました。
台湾に関しては市況が回復傾向だとしていますから、一定の業績改善は期待できそうです。
今後はアジアや半導体関連事業の業績回復による業績改善が期待出来るという事ですね。
2025年3月期は、市況の回復によって前期比では増益となる事は見込まれますからそれ以前と比べて収益性がどこまで改善しているかが注目ですね。
ですがその一方で海外住設で懸念されるのは、米国市場での景気停滞です。建設市況の悪化による住設需要の減少が考えられます。
とはいえ、市況低迷でもTOTOは堅調な業績を維持できる可能性が高いです。
それがなぜなのかというと、2023年度の拡大要因が明らかにウォシュレットだからです。
厳しい市況の中でもウォシュレットが好調だっとしており、ウォシュレット文化が浸透している事が分かります。
ウォシュレットを利用している施設や家庭が増えれば増えるほど、それに触れる機会が増えていきます。
なのでウォシュレットが浸透していない国で拡大が続いているという事は、さらに大きな拡大の可能性が高まっているという事です。
最近はインバウンドも増加しており、これもウォシュレットの利用に繋がりますから、それも接点になりますしそういった点を考えても拡大が続く事が期待出来そうです。
ちなみに、苦戦していた中国大陸事業でも、実はウォシュレットだけは伸びていました。
米国も中国大陸でも市況が悪化する中でも、トイレをウォシュレットに変えたいという需要はある事が分かります。
国内もリモデル需要が大きいですし、実はTOTOは不動産市況の影響を受けにくい企業だと分かります。
なので今後も市況に関わらず安定した成長が期待できそうです。
直近の業績
それでは続いて直近の業績を見ていきましょう。
今回見ていくのは2025年3月期の1Qの業績です。
売上高:3557億円(+4.7%)
営業利益:241億円(+58.1%)
経常利益:227億円(▲0.8%)
純利益:169億円(+1.6%)
増収で営業利益は大幅増益と好調ですが、その一方で経常利益は若干の減益、純利益は微増となっています。
営業利益が大幅増益になったのに対して、経常利益や純利益は停滞していますが、先ほど見た通りでこれには、経常利益や純利益には為替の影響が大きいためです。
前期は為替差益が57億円ほどありましたが、それが今期は30億円の為替差損となりました。
2024年9月末時点では、ドル円は143円ほどまで円高方向に推移していましたから、そういった影響が出ていたという事ですね。
為替は変動が大きい状況が続いていますが、石破政権となって以降は円安方向に推移していますから、3Q以降では為替面から経常利益や純利益面への好影響が出てくることも十分に考えられます。
為替の動向には引き続き注目です。
続いて営業利益が好調だった要因を見ていきましょう。
セグメント別の営業利益の前期比を見ていくと以下の通りです。
①日本住設:▲6億円
②海外住設:+54億円
③新領域:+43億円
国内は減益となりましたが、海外住設や新領域が好調です。
また、為替の影響を除いたセグメント別の営業利益の前期比は以下の通りです。
①日本住設:+4億円
②海外住設:+46億円
③新領域:+24億円
国内事業は減益となりましたがそれは為替による影響で、為替の影響を除くと全事業とも増益となっており、企業全体として堅調な状況となっています。
各事業についてもう少し詳しく見ていきましょう。
国内住設事業は新築に関しては減収で赤字継続と苦戦しています、リモデルも減益ですが、増収ですし営業利益も93億円ほどと堅調です。
為替の影響によるコスト増で減益となりましたが、やはり安定したリモデル需要がある事が強みとなっており、今後も不動産市況に関わらず安定した業績が期待されます。
また、海外住設事業の市場別の営業利益の前期比は以下の通りです。
米州事業:+30億円
アジア事業:+21億円
中国大陸事業:▲4億円
欧州事業:+7億円
中国大陸は低調な状況が続いているものの、前期比では横ばいでアジアと米州が好調となりました。
米州はやはりウォシュレットを中心に拡大しています。
中古住宅販売戸数は前年割れで市況は低調なようですが、それでもウォシュレットによる拡大は続いています。
ウォシュレット文化の浸透が進んでおり、今後も好調が期待されます。
アジアではベトナムの苦戦は続くものの、タイやインド、そして台湾の回復が進み堅調な状況となりました。
規模の大きい台湾市場が回復していますから、今後も堅調な状況は期待できそうです。
一方で中国は市況低迷が継続する中で苦戦しています。
新築住宅販売は▲34%、中古住宅販売は▲3%と市況が大きく低迷する中で前期は伸びていたウォシュレット売上に関しても▲12%となりました。
市況の低迷の影響が大きく苦戦しています。
そして、中国大陸事業の下期の業績悪化を織り込んで海外住設事業は大幅な下方修正をしています。
米州やアジアは堅調な状況が期待されますが、中国大陸が想定以上に苦戦した状況となっていますので、中国景気の回復が進むかに注目です。
そして、セラミック事業では半導体市況の改善が進んだことと円安の影響もあり43億円の増益となりました。
今後も市況改善が続く事が期待されますし、為替も改めて円安方向に動いていますから今後も好調が期待されます。
この新領域事業に関しては、想定以上の市況回復で上方修正しています。
特にデータセンター向けの需要で市況が回復した静電チャックの販売が想定以上だったようです。
生成系AIの投資拡大の中でデータセンターの建設も拡大していますから、好調が期待されます。
という事で、中国大陸事業の停滞が続く事は懸念されますが、日本住設は堅調なリモデル需要、米州はウォシュレット文化の浸透、アジアは台湾の市況回復、セラミック事業は半導体市況の回復があり、今後も事業面は堅調な状況が続く事が期待されます。
さらに、石破政権となって以降は為替は改めて円安に動いており、為替差損益の影響が大きい経常利益や純利益も含めて今後は好調も期待出来ますので、為替の動向には注目です。
ちなみに通期予想は、先ほど見たように中国大陸市場の想定以上の悪化もあり、売上が200億円、純利益が15億円の下方修正をしています。
とはいえ、増収で営業利益は増益を見込んでおり事業自体は堅調が状況が続く見通しです。
また、経常利益や純利益は減益を見込んでおり、それはやはり為替による影響が大きいです。
2024年10~3月の想定為替レートはドル円が145円、元円が20.5円など石破政権となって以降の水準からすると円高方向の想定です。
となると、為替面から業績が上振れする可能性は十分にありますので、やはり為替の動向に注目です。