三菱倉庫【9301】倉庫を中心とする企業の状況と物流事業の現状
日経平均に採用されている銘柄を全て取り上げているこのnote、今回取り上げるのは三菱倉庫株式会社です。
事業内容と業績のポイント
それではまずは事業内容から見ていきましょう。
三菱倉庫の事業セグメントは以下の2つです。
①物流事業:
(1)倉庫事業・陸上運送事業:多種多様な原材料や商品の保管や輸送を行う物流サービス
(2港湾運送事業:港湾運送業務が中心
(3)国際運送取扱事業:船舶、航空機、鉄道などを活用し国際物流を行う事業
②不動産事業:オフィスや商業施設、住宅などの賃貸事業や分譲マンションなど
倉庫での保管や港湾機能から物流まで行い、不動産事業まで手掛けています。
世界の物流拠点は140拠点で、倉庫の所管面積は117万㎡、不動産の延べ床面積は100万㎡となっています。
2022年度時点でのそれぞれの事業ごとの売上構成は以下の通りです。
①物流事業:87.4%
②不動産事業:12.6%
物流事業が中心です。
売上構成をもう少し詳しく見ていくと以下の通りです。
①倉庫保管料:10%
②倉庫荷役料:7%
③陸上運送料:17%
④港湾荷役料:6%
⑤国際運送取扱料:39%
⑥不動産賃貸料:11%
⑦その他:10%
分散した構成ですが、国際運送取扱料が最も大きな規模を持つ事業となっています。
国際物流の市場動向の影響を受けるという事ですね。
また、国際運送取扱料は39%を占めていますが、それでも海外比率は21.5%となっており、国際運送も国内を起点とした物流を中心に事業を行っている事が分かります。
日本の貿易の動向に影響を受けますので、国内消費の影響を受けやすいと考えられます。
続いて近年の業績の推移を見ていくと、売上高はコロナの影響で一時的な悪化はあるものの拡大傾向です。
営業利益や経常利益も拡大傾向となっており、近年は比較的好調だったことが分かります。
セグメント別の業績を見てみると、ここ2年ほど好調なのは物流部門となっています。
ではどの事業が特に好調だったのかというと、国際運送取扱事業です。
2022年度時点では売上構成で39%を占める主力でしたが、これにも近年の大きな成長が影響しています。
2020年度時点では465億円だった売上が、2022年度には1162億円まで拡大しています。
そして、この拡大に影響しているのは海上運賃の高騰を始めとする、国際物流相場の高騰で、さらに円安も影響しています。
コロナ禍では国際物流の需要は一時的には悪化したものの、その後は比較的早く回復しました。
一方で労働力の確保など、物流能力の回復は十分に進みませんでしたし、海運事故などもあり、需給がひっ迫し海上運賃は高騰しています。
燃料高などはありつつも、コスト面は海上運賃ほど大きく変動していませんからそういった中で好調となっていました。
近年は市況の後押しを受けての好調だったわけです。
ですが2024年3月期以降では海上運送の市況が正常化していますから一定の業績悪化が考えられます。
さらに国内では、インフレにより消費の低迷も考えられる状況で、需要の拡大は期待しにくいですから事業自体の収益性向上が重要になります。
そういった中で国内物流業務における生産性向上や適正料金収受による利益率向上を進めています。
燃料費高騰などコスト高騰が進んでいますので、生産性向上や値上げで対処したいという事ですね。
2024年3月期以降では全体では国際事業の影響による業績悪化が考えられますが、そんな中でも国内事業の収益性が改善しているかに注目です。
また、安定収益が見込める不動産事業の強化も進めています。
物流に比べて不動産事業は安定していますから、不動産事業が拡大にも注目です。
ちなみに、海外事業に関してもさらなる拡大を進めています。
2024年度までの中計では海外比率は20%を目標としていました。
これに関しては海上運賃の高騰で海外物流が好調だったので2022年度時点ではすでに21.5%となっていますが、今後は一定の下落が考えられますので、安定して20%の水準を確保できる状況になっていくかには注目です。
という事で三菱倉庫は、倉庫での保管や港湾機能から物流まで行い、不動産事業も手掛けている企業です。
国内を起点とした物流の規模が大きく、近年は海上運賃の高騰を受けて国際物流取扱高が増加し好調となっていました。
なので国内の消費や国際物流の動向に影響を受けますが、2024年3月期以降では海上運賃が落ち着きを取り戻し、インフレによって消費も拡大が期待できる状況ではなく一定の業績悪化が想定されます。
なので業績悪化となる中でも国内事業の収益性改善や、不動産事業の拡大が進んでいるかが注目です。
直近の業績
それでは続いて直近の業績を見ていきましょう。
今回見ていくのは2024年3月期の3Qまでの業績です。
売上高:1925億円(▲17.0%)
営業利益:158億円(▲12.9%)
経常利益:212億円(▲15.9%)
純利益:246億円(▲14.0%)
減収減益で苦戦した状況です。
もう少し詳しく売上の額と前期比を見ていくと以下の通りです。
①倉庫保管料:242億円(+8.0%)
②倉庫荷役料:160億円(+0.6%)
③陸上運送料:390億円(▲0.8%)
④港湾荷役料:141億円(+3.6)
⑤国際運送取扱料:499億円(▲46.9%)
⑥不動産賃貸料:257億円(+2.0%)
⑦その他:234億円(+9.5%)
国際物流事業が大きく悪化しており、業績悪化の要因となっていた事が分かります。
市場環境は世界的な景気の足踏みにより貨物量が減少し、海上運賃単価は前期を下回る状況となったとしています。
一方で人手不足によるコスト増加が続き、不動産業界でも需給の緩みによって空室率は高止まりしたとしています。
そういった中で海上運賃単価の下落や貨物取扱数量の減少によって国際物流運送取扱事業を中心に苦戦した影響が出たとしています。
国際物流は比較的安定し海上運賃が下落した状況が続きますから、今後も業績悪化が続く事が予想されます。
とはいえ、国際運送取扱収入以外は比較的堅調な推移を見せていました。
業務拡大や業務効率化、コスト上昇に見合う適正料金の収受を進めたとしています。
インフレによる消費低迷が懸念されますから大きな拡大が進むかは不透明ですが、市況悪化の影響を除くと取り組みは一定の進捗を見せていると考えられます。
また、不動産事業は稼働率の上昇や、マンションの販売物件の増加によって増収増益と堅調です。
さらに拡大を進め安定した事業基盤を作っていけるかには注目です。
そういった中で通期予想は物流事業を中心に減収となる事を見込んでいます。
ですが、減少を見込むのは国際運送取扱事業でその他の事業では増収となる事を見込みます。
利益面に関しては海上運賃の下落や貨物取扱量の減少による、物流事業の悪化で減益を見込み、物流事業を中心に事業の苦戦が続く事を想定しています。
インフレによる消費低迷で貨物取扱量の減少や海上運賃の下落を受けて、業績は苦戦が続く可能性が高いです。
そういった中でも収益性向上の取り組みや料金の適正化を進めて、消費が回復した際に業績の大きな改善が見込める事業基盤を作れるかに注目です。
という事で直近では海上運賃の下落を受けて国際運送取扱事業が大きく業績を落とし減収減益となっています。
さらにインフレによる消費低迷の影響もあり、貨物取扱数量の面にも影響が出ている状況で苦戦が続く事が想定されます。
一方で国際運送取扱収入以外の売上は比較的堅調な推移を見せており、業務拡大や業務効率化、コスト上昇に見合う適正料金の収受を進めた結果が出ています。
収益性の向上の取り組みは一定程度進んでいると考えられますので、業績悪化の中でもこういった取り組みの進捗には注目です。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?