セブン&アイ・ホールディングス【3882】米国の格差拡大で苦戦する理由

日経平均に採用されている企業を全て取り上げているこのnote今回取り上げるのは株式会社セブン&アイ・ホールディングスです。

セブンイレブンなどを展開する大手の小売企業で、現在はグループ売上では世界7位の規模にまで拡大しています。

店舗展開としては、2024年3月末時点で20か国で世界最多の8万4762店舗を展開しています。

主要な国の店舗数は以下の通りです。
①日本:2万1544
②タイ:1万4730
③韓国:1万2911
④アメリカ:1万2614
⑤台湾:6939
⑥中国:5142
⑦フィリピン:3829
⑧マレーシア:2581
⑨メキシコ:1988
⑩オーストラリア:775
アジアや北米を中心に多数の店舗を抱えています。

国内だけでなく、米国やアジア各国でも市場シェアがトップのコンビニとなっています。

また、最近のセブン&アイホールディングスではカナダ企業からの買収提案を受けており話題です。

米国でもトップのコンビニですし、東南アジアに行ってみても驚くほどたくさんのセブンイレブンがあり、誰でも知っているような非常に強いブランドです。

個人的には、経済成長が期待されるアメリカや東南アジア各国で非常に強いブランドであるセブンイレブンを外資に売却するのは、今後を考えても日本にとってもったいない事だと思っています。

今後どのような判断をしていくのか注目です。

事業内容と業績のポイント

続いて事業内容を見ていきましょう。

セブン&アイ・ホールディングスの事業セグメントは以下の5つです。

①国内コンビニエンスストア事業
②海外コンビニエンスストア事業
③スーパーストア事業:イトーヨーカ堂やヨークベニマル(スーパーマーケット)など
④金融事業:セブン銀行やnanacoやクレカなど
⑤その他:赤ちゃん本舗やロフトなど

国内外でコンビニを展開する他にもスーパーマーケットや赤ちゃん本舗、ロフトなど多数の小売り店を展開しており、金融事業も行っています。

2024年2月期でのそれぞれの事業セグメント事の売上と【EBITDA(キャッシュを稼ぐ力)】構成は以下の通りです。
①国内コンビニエンスストア事業:8.0% 【30.8%】
②海外コンビニエンスストア事業:73.8% 【56.5%】
③スーパーストア事業:12.8% 【4.9%】
④金融事業:1.8% 【6.6%】
⑤その他:3.6% 【1.2%】

売上とEBITDA共に海外コンビニが主力で、国内コンビニもEBITDAは規模が大きく、国内外のコンビニでEBITDAは計87.3%を占めています。
多様な小売業を展開していますが、セブン&アイはやはりコンビニ事業が重要な企業だという事ですね。

ちなみに、国内コンビニは売上は小さいものの、EBITDAは大きな規模を持っています。
それがなぜなのかというと、国内店舗の大半がFC(フランチャイズ)展開となっているためです。

FCは加盟店から売上の一部をロイヤリティとしてもらう仕組みのため、商品を仕入れて売るという直営店の小売業と比べ売上は小さくなりますが、利益率は高くなります。

そういった事があり国内コンビニは売上規模は小さいですが、国内コンビニの取扱高としては5兆円を超えており、規模が大きな事業です。

また、近年のセブン&アイは大きな構造改革を進めています。
バーニーズ・ジャパンやオシュマンズの全株譲渡、大きな話題となった事では、そごう・西武の売却やヨーカドーの人員削減・店舗の縮小、などがありました。

さらに、スーパー事業に関しては上場に向けて動いており、上場前に一部株式を早期売却の検討を行っているという話もあり、非常に動きが大きいです。
コンビニ以外の事業では売却や縮小を進めています。

これにはいわゆるコングロマリットディスカウントによって、市場からの評価が低い事が影響しています。

コンビニ事業に集中すれば、企業価値が上昇すると考えられますので、そういった中で株主からの圧力もありコンビニ事業以外の縮小を進め企業価値の向上に向けて動いています。

現在のセブン&アイは主力事業がコンビニなので、この辺の話にはこれ以上は触れず、スーパー事業の上場など最近の話題についてはまた次回詳しく書いていこうと思います。

なので今回は主力のコンビニ事業を中心に状況を見ていきます。

さて、コンビニ以外の事業は縮小を進めるセブン&アイですが、その一方でコンビニ事業では積極的な投資を続けています。

特に海外では積極的な動きを見せており、直近では2024年1月11日に米国でコンビニを展開するSunoco-Stripes、2024年4月1日にはオーストラリアのセブンイレブンの買収をしていますし、その他にも2023年2月にはベトナムのコンビニ事業への追加出資、2021年5月にも米国でコンビニを展開しているSpeedway社を買収したりと動きが大きいです。

セブン&アイはそれ以前も海外では継続的なM&Aを続けており、毎年のようにM&Aを活用して海外店舗を拡大させています。
2005年から2022年までに50件のM&Aで計7250店舗を獲得しています。
特に米国で積極的なM&Aを続けており市場トップのコンビニとなっています。積極投資で大きく成長してきた事が分かりますね。

また、グローバルのコンビニの市場環境としては世界的な人口増と都市の人口集中を受けて成長機会が到来しているとしています。

近年は成長市場のコンビニでは競争激化が進み、積極買収で拡大する企業が増えたものの、コスト増に耐え切れずに撤退する企業も増えているとしています。

そういった環境の中でさらなる海外市場の拡大に向けて動いており、欧州や中南米といった地域への新規参入も目指しています。

さらに、買収や追加出資を行ったオーストラリアやベトナムといった地域に関しては積極的な投資を進めていこうとしています。
こういった地域でも拡大が進むのかに注目です。

ちなみに、国内市場では人口減少が進んでおり成長市場とは言えない状況ですが、それでもセブン&アイはまだ国内事業の拡大も描いています。

高齢化の中で移動距離が縮まり、食料品のアクセス困難人口も増加する中で新たな需要は生まれています。
そういった中で従来のコンビニのワンフォーマットではなく、エリア事の出店戦略を進め、SIPストアというコンビニより大きく、スーパーよりは小型の店舗やコンビニ自販機など、多様な出店モデルを活用する事で成長を目指しています。

特にSIPストアには力を入れています、イオングループもまいばすけっとを拡大していますし、中規模店舗の争いが激化する可能性がありそうです。

2025年度以降で多様な形態で出店を再加速していく計画を立てていますので、既存のコンビニの形だけではない多様な形で国内の成長が進むかにも注目です。

続いて近年の業績の推移を見ていきましょう。

近年の業績の推移を見ていくと2021年2月期はコロナ禍で一時的な悪化は見られたものの、そこから回復が続き2022年2月期には売上がコロナ以前を上回り、2023年2月期には売上・利益ともにコロナ以前を大きく上回りました。

2024年2月期は売上は前期比で減少したものの、利益面は上回っており堅調な業績が続いています。

近年は売上・利益ともに好調となっていますが、これはどうしてでしょうか?

それは、国内が堅調だった事もありますが、やはり積極投資を続けていた海外コンビニエンスストア事業が大きく伸びたためです。
先程少し触れましたが、210億ドルをかけて2021年5月14日に買収した米国のSpeedway社による影響が特に大きいです。

買収前の2021年2月期時点では海外コンビニ事業の構成比率は売上が38.7%で、EBITDAに関しては31.2%ほどでした。
それが2024年2月期には売上が73.8%で、EBITDAは56.5%となており、大型の買収で大きく事業構成に変化がありました。

このSpeedwayとのシナジーは想定以上だったとしており、シナジーの計画も上方修正しており買収後も順調な状況です。
大型の買収が成功していたという事なんですね。

このような米国の大手コンビニの買収で大きく拡大した事もあり、現在のセブン&アイHDにとっては米国市場が非常に重要になっています。

ちなみに、買収の完了は2021年5月14日です。
通期に渡って業績に貢献できたわけではありませんが2022年2月期時点でもその影響はありました。
ですが、特に大きく業績が伸びたのは2023年2月期です。

それがなぜなのかというと、Speedway社の買収による影響で為替相場やガソリン販売の影響をより強く受けるようになったためです。

車社会の米国では小規模な小売店は、ガソリンスタンド併設店が多いです。
米国のセブンイレブンやSpeedwayもこのような店舗を運営しているので、米国事業の拡大で原油相場と為替の影響を受けやすくなりました。

つまり、現在のセブン&アイHDは主力市場の日本やアメリカの消費の動向に加えて、原油や為替の影響を受けやすい企業となっているという事です。

そして2023年2月期は原油相場は高騰し、円安も進みました。

結果として海外コンビニ事業の営業利益の変動要因を見ていくと、ガソリンの影響は+1996億円で、為替の影響も+654億円となっています。
セブン&アイHD全体の営業利益が5000億円ほどですから、影響の大きさが分かると思います。

相場変動の影響があり、買収から少し時間を空けて2023年2月期から特に大きく業績が伸びていたという事なんですね。

2024年2月期は原油相場は、一定の下落を見せ比較的落ち着いた推移となっていましたので、ガソリン関連の売上や利益は悪化したものの、為替の好影響や人件費管理を強化した事で人件費の減少が進んだ事がなどがあり、売上は伸び悩む中でも利益面は増益となっています。

2024年2月期は為替の影響もありましたが、買収後のシナジーによって収益性が高まっていたという事ですね。
という事は事業自体の強さが高まっており、今後も堅調な状況が期待出来ます。

また、近年の好調はガソリンや為替の好影響だけではなく、商品の販売による好影響もあり、営業利益への影響は2023年2月期が+836億円、2024年2月期が+196億円となっています。

これはアメリカの消費が底堅かった事やインフレによって値上げが進んだ事もありますが、フレッシュフードやPB(プライベートブランド)に力を入れている好影響も出ています。

PBに強みがあるのがセブン&アイですから、SpeedwayでもPB拡大による成長が期待出来る状況になったという事です。
利益率の高いPBの拡大も期待されますので、その点を考えても堅調な状況が期待出来ます。

さて、このように堅調な状況が続いていますが、懸念点が無いわけではありません。
それはやはり消費停滞やコスト面の増加です。

日本では、インフレが続く中で実質賃金はマイナスが続いており、節約志向が高まっています。

さらに、経済がある程度堅調なアメリカ市場でも、コロナ関連の景気刺激策が終了し、クレカの負債も増加する中で、物価高も進み低所得者を中心に消費は一定の停滞を見せています。

アメリカの格差の拡大が悪影響を与える可能性があるという事ですね。

そういった中で実際に2023年度の四半期ごとの既存店の売上の推移を見てみると国内、海外ともに低迷傾向が続いています。
特に海外事業では3Q以降では前期比でも、マイナスとなっており停滞が顕著です。

消費停滞による業績悪化が懸念されるという事ですね。

さらに国内では人件費が報酬制度改定によって増加していますし、水道光熱費も近年は高騰しています。
こういったコスト増加の影響もある中で、今後は一定の苦戦傾向となる可能性がありそうです。

とはいえ、ビジネスモデル的には国内は悪化しずらさはあります。
FC中心なので、人件費や光熱費高騰の影響は受けにくいという事です。

そして手書き伝票の削減などオペレーションの効率化は進めており、会計担当者などを中心に一定の人員削減を進めています。
こういった取り組みで収益性の改善を進められるかに注目だという事ですね。

直近の業績

それでは続いて直近の業績を見ていきましょう。
今回見ていくのは2025年2月期の2Qまでの業績です。

営業収益:6兆355億円(+8.8%)
営業利益:1870億円(▲22.4%)
経常利益:1672億円(▲26.3%)
純利益:522億円(▲34.9%)

増収ながらも減益と利益面が苦戦しています。

セグメント別の営業利益の前期比は以下の通りです。
①国内コンビニ:▲107億円(▲7.8%)
②海外コンビニ:▲395億円(▲35.0%)
③スーパーストア:▲9億円(▲20.7%)
④金融関連:▲25億円(▲12.6%)
⑤その他:+13億円(+56.8%)

主力の国内コンビニや海外コンビニが大幅減益となった事で、収益性が低迷していた事が分かります。

コンビニ事業の状況をもう少し詳しく見ていきましょう。

海外事業の営業利益の変動要因を見ていくと、ガソリン関連は横ばい、為替は円安で好影響があった一方で、商品販売が苦戦した事で業績が悪化しています。

やはり消費低迷の中で、既存店の商品売上が前期比で減少が続いています。
特に客数が大きく減少しており、給与ぎりぎりの生活をしている消費者が増加している事やコロナ対策だったフードスタンプ(低所得者向けの食費補助)の削減などが影響しているとしています。

さらに、特に悪化しているがたばこです。

直近の2024年8月ではたばこを除いた既存店売り上げは▲1.6%となっているものの、たばこを含むと▲2.7%とたばこの影響の大きさが分かります。

タバコ価格が上昇する中で、消費者はより安価なタバコやそのほかのニコチン製品に転換しているとしており、たばこの販売数量は2019年比で▲26%となっています。

国全体の経済環境はある程度堅調な米国ですが、低所得者の生活が苦戦する中で、そういった層の消費も重要なコンビニでは来客数の減少やタバコの販売減少に繋がり苦戦しています。

そういった状況の中で今後も苦戦が想定されそうです。
影響が大きい、為替やガソリンの相場動向にも注目です。
特に為替相場は円高方向に推移する可能性もありますから、そうなれば大きく業績が悪化する可能性もありますので注意が必要そうです。

続いて、国内事業の営業利益の変動要因を見ていくと、売上が若干減少した一方で、広告費の増加や決済手数料の増加などコスト面の増加が影響しています。
広告費を増やしつつも、売上が伸び悩んだ事やキャッシュレス化が進んでいる事も一定の業績の下落要因になっていると考えられます。

人件費は減少しており、オペレーションの効率化は一定の成果を見せたものの、それではその他のコスト増加を補い切れていない状況です。

既存店の売上や集客面は前期比でほぼ横ばいとなっており、悪化しているわけではありませんが停滞しています。

コンビニ各社ではローソンやファミマは既存店の売上が増加しており堅調です。
最近はSNSなどでステルス値上げが話題になる事もあり、割高感が目立つ状況となっていましたそういった中で他社と比べても苦戦傾向にあると考えられます。

SNSを通じて情報が伝達する速度は格段に上昇していますから、商品改定の意図が顧客に伝わりやすくなっており、顧客とのコミュニケーションが重要性を増している事が分かります。

そんな中で割高感のイメージを払拭し集客の改善を目指し「うれしい値」という低価格商品の提供を始めています。

「うれしい値」は若い世代では購入率が増加傾向にあるようです、今後集客の改善が進むかには注目です。

とはいえ決済手数料の増加など、コスト面が増加する中で一定の停滞が続きそうです。

販売面が苦戦をする中で国内外とも通期予想も下方修正しており、想定以上の苦戦となっています。

特に、たばこの減少が大きく落ち込む海外コンビニを中心に減収減益を見込んでいます。

主力の国内外で消費が低迷していますし、特にアメリカ市場では低所得層を中心とした苦戦が続く可能性が高いですから、苦戦が続く事が想定されます。

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