ファナック【6954】工場自動化の企業が苦戦している理由と業績回復の兆候
日経平均に採用されている銘柄を全て取り上げているこのnote、今回取り上げるのはファナック株式会社です。
事業内容と業績のポイント
それでは早速事業内容を見ていきましょう。
ファナックの部門は以下の4つです。
①FA部門:工場の自動化を実現する基本製品を取り扱う部門で、CNC(数値情報で工作機械の動作を制御する製品)、サーボ(速度と位置を制御する製品)、レーザ発振器(溶接や切断に使用される製品)などを提供
②ロボット部門:CNCとサーボの基本技術を応用して、アームを自由に制御する事で多様な作業を自動化するロボットを提供
③ロボットマシン:CNCとサーボの基本技術を応用した機器を取り扱う事業、小型切削加工機(ロボドリル)、電動射出成形機(ロボショット)、ワイヤ放電加工機(ロボカット)などを提供
④サービス:①~③の製品の保守サービスなど
ファナックは日本の民間では初めてCNC(数値情報で工作機械の動作を制御する製品)とサーボ(速度と位置を制御する製品)の開発に成功した企業であり、そのCNCやサーボなどを提供し、世界中の工作機械に搭載されています。
さらに、その技術を応用する事でロボットやロボットマシンとしても提供している企業となっています。
そしてCNCやロボット、ロボドリルやロボショットなどで世界トップクラスのシェアを持っています。
2024年3月期時点でのそれぞれの部門別の売上構成は以下の通りです。
①FA事業:22.7%
②ロボット:47.9%
③ロボマシン:13.0%
④サービス:16.4%
どの事業も一定の規模があり分散した構成ではありますが、ロボット事業が主力となっています。
どの部門も工場の自動化を支える製品となっていますから、工場の自動化などの設備投資需要による影響を受けやすい企業だと分かります。
続いて市場別の売上構成を見ていくと以下の通りです。
①国内:13.2%
②米州:28.6%
③欧州:21.2%
④中国:21.6%
⑤アジア(中国以外):14.1%
⑥その他:1.3%
最大の規模を持っているのは米州市場ですが、各国で分散した構成となっています。
海外比率は86.8%となっていますのでグローバル市場の動向の影響を受けやすい事が分かります。
また、円安が進む中では好影響が期待されますので為替の動向にも注目です。
続いてファナックの業績を詳しく見ていくと、2024年3月期の営業利益は1419億円なのに対して経常利益は1818億円と営業外利益が大きくなっています。
その要因は、受取利息や配当金が計68億円ほどある事も影響していますが、それ以上に大きいのは持分法による投資利益が275億円あるためです。
主要な持分法適用会社は北京と上海ファナックとなっています。
主力市場の1つである中国市場では、大きな規模で事業を行う北京と上海のファナックの利益の一部が持分法による投資損益として計上されているため、それを含んだ経常利益や純利益の動向が重要だという事です。
この辺の話は会計的な知識も必要となるため詳しくは説明しませんが、ファナックの業績を見る際には持分法による投資損益というのを含んだ「経常利益」や「純利益」が重要だという事です。
それでは、事業内容がざっくりと分かったところで近年の業績の推移を見ていってみましょう。
2017年度以降の業績の推移を見ていくと、2017年度~2020年度までは減収減益傾向が続いています。
それ以降は2022年度までは増収増益が続いていますが、利益面では2017年度には及ばない水準での推移となっており、2023年度に関しては減収減益となっており改めて苦戦しています。
ではどうしてこういった業績の推移となっているのかというと、2017年度~2018年度の業績悪化の要因は米中の貿易摩擦です。
米中の対立が激化する中で、主力の中国市場が苦戦した事で業績は悪化傾向となりました。
そして2019年度では、米中貿易摩擦に加えて中国市場でいち早く新型コロナの影響が出始めた事で業績はさらに低迷しています。
ですが、2020年度以降では中国経済の回復が早かった事で業績は改善傾向となり、その後は他国の市況も改善する中で2022年度までは業績の改善が続いています。
とはいえ半導体不足によるファナックの生産面への悪影響、主要顧客の1つである自動車関連市場でも生産の低迷、社会情勢の不安定化によるサプライチェーンの混乱など不安定な状況が続く中で、利益面は2017年度の状況には及ばず推移していました。
それでも業績改善は進んでいたわけですが、2023年度に関しては改めて減収減益となり業績の回復が停滞した状況です。
ではどうして2023年度は苦戦していたのか、その要因をもう少し詳しく見ていってみましょう。
2023年度の状況としては半導体不足による生産活動への影響は落ち着きを見せたものの、世界的なインフレや金利上昇による景気減速懸念などがあり、2022年度の下期からは在庫調整が続いている事も影響を及ぼしているとしています。
半導体不足は改善したものの、景気低迷による需要減などが起きたという事ですね。
続いて部門別の売上の推移を見てみると、主力のロボット部門は拡大したもののFA部門やロボットマシン部門が減収となっています。
FA部門ではCNCの主要顧客である工作機械業界では世界各国で減速傾向が見られたことで苦戦しています。
同じように工作機械などを提供するロボマシン部門でも、海外市場の低迷やIT関連向けの需要が落ち込み苦戦したとしています。
唯一ロボット部門は好調でしたがこれは、欧米が前期からの受注残によってEV関連と一般産業関連が増収になった影響が大きいとしています。
中国では好調だったEV関連が若干下降気味でインフラ関係や電子産業向けも低調だったとしています。
受注残の消化による増収の側面が大きく、ロボット部門も好調とは言えない状況だったことが分かります。
景気減速や設備投資抑制を受けて全事業とも一定の苦戦傾向だったという事ですね。
また、地域別の売上の推移を見てみると、受注残が堅調に消化された欧米は増収となっていますが、国内やアジアが若干の減収となり中国市場が2456億円→1716億円までの大幅減収となっています。
工場が多く需要が大きい、中国市場の景気低迷による苦戦が業績悪化の要因となっていたという事が分かります。
とはいえ地域別の受注高の推移を見てみると、中国からの受注は2023年度の4Qには前期比では▲39.2%と低迷が続いているものの、前四半期比では+12.6%となり2023年度では4Qが受注額としても最大となっています。
受注総額でも低迷傾向は続いているものの、4Qは改善が見られており、底打ち傾向にはある事が分かります。
このまま回復傾向が続くか、特に中国市況の動向には注目です。
また、堅調な状況が続く北米市場では総額2億5千万ドルの積極投資を進めており、2025年3月期のも新拠点が竣工しています。
投資を進める北米市場の動向にも注目です。
直近の業績
それではファナックの状況が分かったところで、続いて直近の業績を見ていきましょう。
今回見ていくのは2025年3月期の1Qの業績です。
売上高:1951億円(▲3.3%)
営業利益:330億円(+1.1%)
経常利益:411億円(▲1.3%)
純利益:288億円(▲5.0%)
減収で営業利益は増益となりましたが、ファナックの業績を見る際に重要な経常利益や純利益は減益と苦戦傾向が続いています。
四半期ごとの業績の推移を見ても前四半期比でも減収減益と低迷傾向が続いており、苦戦傾向が続いている事が分かります。
事業環境としても設備投資需要の回復の動きがみられるものの、リスクが高い状況は続いているとしています。
在庫調整に関しても適正在庫状況に戻りつつあるものの、一部ではまだ在庫調整が継続しているとしています。
市況改善の動きは見え始めているものの、十分な状況ではないという事ですね。
もう少し詳しく部門別の売上の前期比は以下の通りです。
①FA:▲3.4%
②ロボット:▲12.4%
③ロボマシン:+14.4%
④サービス:+12.2%
FA部門やロボットが苦戦した状況です。
FA部門に関しては、工作機械の需要は一部回復基調や堅調な市場があるものの、全体としては低調に推移しており、そういった市況の中で苦戦しています。
ロボット部門では、国内では自動車向けで回復傾向が続き、欧米でも自動車関連は前期からの受注残で堅調だったものの、一般産業向けが若干低調、中国ではEV関連が下降気味で、インフラ関連と電子産業向けも低調に推移した事で苦戦したとしています。
そしてロボマシン部門では、ロボドリルの低迷や、ロボカットで欧州向けの出荷停止があったものの、ロボショットでは中国の需要増があった事で増収になったとしています。
景気が低迷する中国市場ではロボット部門を中心に苦戦傾向は続いていますが、一方でロボマシン部門で需要増加が見られていたりと一部需要回復の動きは見られています。
実際に四半期ごとの地域別の売上の推移を見てみると、中国市場では前期比では▲17.4%と苦戦は続くものの、前四半期比では+11.8%と一定の改善が見られます。
前期末から受注面の回復も起きていましたし、中国市場では一定の改善傾向は見られているという事ですね。
そして地域別の受注高の前期比を見てみると以下の通りです。
①国内:+27億円
②米州:+20億円
③欧州:▲48億円
④中国:+130億円
⑤アジア(中国以外):+83億円
景気停滞も見られる欧州は苦戦していますが、それ以外の地域は増加しており特に中国やアジア(中国以外)が大きく伸びています。
中国市場を中心に受注回復が続いており、業績改善の兆しが見えてきた事が分かります。
そういった中で、実際に通期予想に関しては、減収で経常利益や純利益は減益を見込む予想ではあるものの、上方修正を行っています。
不安定な状況が続き、一定の苦戦傾向が続く可能性はあるものの想定以上の回復が進んでいる事が分かります。
また、為替に関してもドル円の想定レートは135円→147.72円へと修正していますが、2Q~4Qの想定レートは145円と現在の水準から考えると保守的な状況です。
日本でも利上げの機運が見られる中で相場変動も大きく、何とも言い難い状況ではありますが為替面のさらなる修正も考えられますので為替の動向には注目です。
という事で中国の経済動向や為替など市況の変化には特に注目です。