IPO解説【Synspective(290A)】宇宙関連企業・SAR衛星とは?今後はどうなる?
どうも、こんにちは!
IPO企業を取り上げていきます。
今回取り上げるのは、2024年12月19日にIPOを予定している株式会社Synspectiveです。
宇宙関連企業で話題性も高く、想定株価は460円で、想定時価総額は497.9億円、想定の吸収金額は112.7億円と大型の上場となっています。
事業内容
事業内容はSAR衛星の開発・製造と衛星コンステレーション(多数の衛星の連携運用)の運用、そこから得られたデータ活用となっており、現在は3基のSAR衛星を運用しています。
衛星からデータを取得し販売、さらにそれを解析しソリューションとして提供する事業も行っているという事ですね。
SAR衛星とはその名前の通り、SAR(Synthetic Aperture Radar:合成開口レーダー)を活用した人工衛星のことで、SARとはマイクロ波(電波)を出し、その跳ね返りを捉え、それを合成する事で高い精度でのデータを取得する方式です。
人工衛星からカメラを使って撮影しているのではなく、電波の跳ね返りを活用しているので、夜でも雲があっても観測可能だというのが特徴です。
そしてカメラとの最大の違いは高さが分かる事です、現在はcm単位での把握が可能となっているようです。
一方で、電波の跳ね返りですからデータには色が無いというのもポイントです。
つまり、グーグルマップのように色が付いた写真として捉える事は出来ませんが、その一方で高さが分かるので地形や構造物の形、物性の把握に役立ちます。
さらに、天候や夜でも観測可能なので、時系列分析や変化抽出に非常に有用となっています。
例えば、センチの単位の地盤沈下を捉えることが実際に出来ています。
時系列で高さを追う事が出来るので、その変化を捉える事に有用だという事です。
この特性を活かすためには、衛星を多く打ち上げて頻度高く観測する事が重要です。
さらに、合成技術を活かすためにコンステレーションを形成する小型化も重要です。
なので、商業利用するためには小型化に加えて低価格化を進め、数多くのSAR衛星を打ち上げる事が重要になっています。
強み
そんな中でSynspectiveは、StriXという従来の大型SAR衛星と比較して重量が1/10以下の小型化、1/20以下の低コスト化が進んだ衛星の開発を行っています。
小型化、低コスト化で商業利用が可能な衛星を作っているという事ですね。
ちなみに、SynspectiveによるとSAR衛星を特徴づける要素は、詳細分析と広域分析の実効性だとしています。
これは消費エネルギーの制約によるトレードオフだとしており、現状は防衛需要が大きいためそれに答える詳細分析が重要となっているようです。
そんな中で、世界最高水準の0.25mの分解能を実現しているとしています。
さらに、広域性に関しても撮影モードを切り替え可能にすることで他社と比較して10~50倍の映像域を実現しているとしています。
広域性や詳細性に関しても強みがあるとしています。
市場環境
Synspectiveによると、現在のSAR衛星は防衛領域を中心に世界需要が拡大している一方で、供給側のプレイヤー数が不足しており、SAR衛星を商業運用している企業は世界でも5社しかないとしています。
さらに技術面やエンジニアの希少性などもあり、新規の参入が難しい市場となっているともしています。
競合が増えやすい市場ではないという事ですから、現在の競合に対して拡大を見せられるかが重要です。
ちなみに打ち上げに関しては他社に委託しています、現在はアメリカのRocket Lab社と今後10基の契約をしています。
ロケット市場にも影響を受けます、近年はロシアとウクライナの問題によって、ロケット技術が進んでいるロシアを活用できなくなったのは衛星の企業にとってはマイナスが大きいと考えられます。ロケット企業の動向にも注目です。
ビジネスモデル・活用例
続いて収益源をもう少し詳しく見ていきましょう。
現在の収益源は①データ販売②解析ソリューションとなっています。
①データ販売の主要顧客は政府で、SARデータの解析能力を持っているため直接データ利用が可能な従来市場だとしています。
②ソリューションは民間企業向けで、データ解析をSynspective側が行い提供する事業で新興市場だとしています。
現在の主要顧客は官公庁となっており、9割以上を占めています。
現状は官公庁向けのデータ販売を主軸としているという事ですね。
地盤やインフラ分析、災害被害分析、森林の伐採状況などの森林資源管理、さらに波の高さから風力を分析し洋上風力の設置場所選定などにも活用されています。
もちろん、衛星の用途はそれだけではありません。現在の観測頻度は週次なのですが、今後衛星の数が増え観測頻度が上がっていけば、様々なビジネス活用も可能となっていきます。
例えば、他社では世界中の石油タンクを監視し先物取引向けの情報を提供したりしています。
石油タンクは天井の蓋が石油量と連動して動くので、それを監視する事が備蓄量が分かるようです。
それ以外にも、どこに工場が出来たどのくらい稼働している、店舗の駐車場を見れば、どのくらい顧客がいる、などの情報が取れますから様々な活用が考えられます。
なので長期的に成長が期待されるのはソリューションの拡大、民間利用の拡大で、データ販売に活用されなかった余剰分を、ソリューションに充てる事で、最大化、データの値崩れにも対応していくとしています。
そんな中で2027年までは衛星を増やす中で海外政府へのデータ販売を拡大し、その後はさらに衛星が増える中で民間市場の拡大による高収益化を目指しています。
この民間市場では、2030年までにリスク管理用途が1.2兆円、生産性向上の用途が3.5兆円の規模が期待されるとしており、衛星が増えデータ量が増加すれば成長が期待される市場です。
ともかく、まずは衛星の数を増やし取得できるデータをどれだけ増やしていけるかが重要だという事ですね。
ちなみに2025年~2027年ではすでに、ロケット会社と10基の打ち上げに合意しています。それによって現在は週次の観測頻度を2025年には日次、2027年までは数時間単位とする事を目指しています。
2028年以降では30機以上の体制を目指し、分単位の頻度での観測を目指しています。
衛星の量産と打ち上げが進捗するかに注目です。
業績の推移
続いて、近年の業績の推移も見ていきましょう。
売上は成長が続くものの、大きな赤字が続いています。
直近の2024年12月期3Q段階でも16億円ほどの売上に対して、22億円ほどの赤字と、売上を超えるような赤字でまだまだ投資段階にいる事が分かります。
どうしてこれだけ大きな赤字なのかというと、その大きな要因は研究開発費が多額だからです。2022年3月期は33億円、2023年3月期も14億円ほどの研究開発費を計上しています。
さらに、衛星は非常にコストがかかり、1基当たり20~30億ほどの投資を予定しています。
今は、衛星を積極的に増やし観測頻度を上げていく必要がある状況の中で2024年12月~2027年12月で計15基の衛星が完成予定となっていますから、まだまだしばらく赤字が続くでしょう。
さらに、今のSAR衛星市場は市場の立ち上げ時期であり大きなシェアを獲得できているプレーヤーがいないため、競合に先んじて早急な市場シェアの獲得が重要な時期だとしています。
なので、継続的な先行投資を実施するとしていますので、基本的には今後数年間は赤字が続くでしょう。
やはり、まだ業績面がどうこうの段階ではなく、衛星の数がしっかり増えていくかの方が注目だという事です。
財務状況
最後にその投資を進める中で、直近の2024年9月末時点での財務状況がどうなっているのかを見ていきましょう。
まず、現預金や売掛金といった資金性の高い資産が91億円ほどあります。
一方で流動負債は17億円ほどですから、短期的な余力は大きいです。
さらに、今回の上場で80億円ほどの調達を予定しています。
しばらくの開発を進める余力は十分にあります。
とはいえ、2026~2027年12月期では11基の衛星が完成予定で、それに計300億円を投資する計画です、この製造が本格化する際には資金調達が必要なる可能性が高いでしょう。
今後数年以内には増資などが行われる可能性がありますので、その点には注意しておく必要がありそうです。
とはいえ、今後の事業拡大には観測頻度や制度の向上が必須ですから、しっかり衛星の打ち上げが進み、事業展開を本格化できるかに注目です。