SOMPOHD【8630】保険の企業の業績に影響を与える要因と現状

日経平均に採用されている銘柄を全て取り上げているこのnote、今回取り上げるのはSOMPOホールディングス株式会社です。

もちろん、その社名の通り損害保険を中心とする会社で、最近はビックモーターの不正問題との関連でも話題となりました。
ビックモーターの件の対応に関しては、年内を目途に社外調査委員から最終報告書を受領し、その後に再発防止策の全容公表やそれを踏まえた中期経営計画発表などを行っていくようです。

ちなみに、保険は既存の契約からの収益が大半なのでこの問題による影響は小規模だと考えられます。

事業内容と業績のポイント

それではまずは事業内容から見ていきましょう。

主力の事業セグメントは以下の通りです。
①国内損保事業
②海外保険事業
③国内生保事業
④介護・シニア事業
⑤その他
国内で損保や生保、介護関連の事業も行い、さらに海外でも保険事業を行っている企業なんですね。

2023年3月期でのセグメント別の売上構成は以下の通りです。
①国内損保事業:54.9%
②海外保険事業:33.2%
③国内生保事業:7.4%
④介護・シニア事業:3.6%
⑤その他:0.9%

主要なセグメントの利益額は以下の通りです。
①国内損保事業:550.8億円
②海外保険事業:480.3億円
③国内生保事業:10.1億円
④介護・シニア事業:7.9億円

売上・利益ともに、最も規模が大きいのは国内の損害保険事業で、続いて海外保険事業が大きな規模を持っています。
国内損保が中心ですが、海外の動向にも業績は左右されやすいという事ですね。

続いて近年の業績の推移を見ていきましょう。

ここ5年ほどの経常収益(売上高)の推移を見ていくと、右肩上がりで成長を続けています。

一方で経常利益の推移を見ていくと、コロナ禍の2020年度、2021年度は好調となっていますが、2022年度は大幅減益でコロナ以前を下回る状況となっています。

直近では売上の好調が継続しているものの、利益面は苦戦していたんですね。

ではどうしてこういった推移になっていたのか、まずは売上面の大半を占める収入保険料の推移を見てみると、大きく伸びているのはその他の保険料収入です。
この大部分は海外事業となっています。

先ほど見たように、海外保険事業は大きな規模を持っていましたがここ数年で大きな成長を見せていたんですね。

成長していた要因は、そもそも顧客獲得や保険料のベースアップが進んだという事もありますが、それに加えて円安の影響と物価高の影響もあります。

例えば海外では同じ1ドルの保険でも、日本円に換算すれば円安になれば当然収入は大きくなります。なので大きく円安が進む中で大きな規模を持つようになっていたという事です。

さらに近年は物価高が進み作物価格も上昇しています。これが農業保険料を押し上げた事もあり収入の増加に繋がったとしています。

続いて修正連結利益という、より事業の利益面の実態を表した利益の推移を見ていきます。

2020年度や2021年度ので好調だったのは、国内損保事業で、大幅減益となっていた2022年度は国内損保が不調となっています。

海外保険事業は、2021年度や2022年度で好調という状況です。
保険料の増加や運用面の好調を受けています。

2020年度は国内損保、2021年度は海外保険と国内損保の好調を受けて業績が好調で、2022年度は海外保険は好調でも国内損保の不振で利益面が悪化していたという状況だったんですね。

では続いて、業績の変動要因を詳しく見ていきましょう

利益面が好調だった2021年度と不調だった2022年度で大きな違いがあったのは一過性要因です。

2021年度は新型コロナの影響が+250億円や株高が進み良好な運用環境などの影響が+150億円で計400億円ほど好影響がありました。

一方で不調だった2022年度は、新型コロナの影響が▲340億円、自然災害が▲300億円、大口事故などで▲90億円など計730億円のマイナスの影響があったとしています。
特に不調だった国内損保で計560億円のマイナスの影響があったとしています。

一過性要因が業績に大きな影響を与えている事が分かります。

ここで、保険事業をめちゃくちゃ単純化してざっくりとだけ説明していこうと思います。
本当にめちゃくちゃざっくりですが
①顧客から保険料を受け取る
②それを運用して増やす
③そこから保険金を支払う
④経費も支払う
そして残りが利益となるという流れです。

つまり保険金の支払いが増えれば業績は悪化しますし、運用が想定以上に成果を出せば業績が良化します。
なので自然災害やコロナなどで保険金の支払いが増加すれば、一過性要因で業績は悪化しますし、運用環境が良好になれば業績は良化するという事です。

それぞれの事業ごとの状況をもう少し詳しく見ていきます。

損保の利益面が好調だった、2020年度や2021年度ではコロナの好影響があったのが自動車保険でした。
外出需要の減少によって、事故が減少していましたから自動車保険の支払いが減少していたわけです、自動車の利用が減ったからと言って自動車保険を解約はしないので業績にプラスに働いていました。

それが外出需要が急回復した事で、2022年度は事故の支払いが増加し業績には悪影響があったという状況です。

また、自然災害という不確定要素の影響も受けます。これに関しては企業側では全くコントロールできるものではありません。

とはいえ、近年は災害の激甚化などで事業環境は悪化しているとしています。
そして火災保険コア保険引受利益という、ざっくりというと火災保険からの利益に関しては2017年度から継続してマイナスとなっています。
火災保険は事業環境の悪化で苦戦しているんですね。

なので損保事業では、災害の激甚化による火災保険の収支悪化、外出需要の回復による自動車保険も保険金支払いの増加、さらに建物・設備老朽化による事故の増加もあり、国内損保事業の足元の環境自体が悪化しているとしています。

2022年度は一過性要因が大きく業績悪化していましたが、そういった状況が続きやすい環境になり始めているという事ですね。

そういった中で国内損保では、火災保険は平均12%の値上げなどプライシング適正化を進め、さらにアンダーライティング(保険を引き受けるかの判断をする事)をする契約を拡大し、保険引き受けの精査を進め、そしてデジタル化活用による経費削減による効率化も進めて収益性の改善を図ろうとしています。
2023年度での好影響は計775億円を見込んでいます。

足元の環境は良好ではないようですから、収益性の改善が進むかにも注目ですね。

また、国内生保事業では2022年度はコロナ関連保険金の一過性要因で大幅減益となっています。
ですが、コロナが5類に分類されたこともあり、2023年度以降はその影響が無くなっていきますから業績の改善が見込まれています。

つまり2022年度では、生保事業でコロナ関連の保険金支払いの悪影響があった事に加えて、損保でもコロナ関連の保険支払い、さらにこれまではそのコロナの悪影響を相殺していた自動車保険でも、外出需要の増加に伴う支払いの増加があり、最もコロナの悪影響が大きかったことが分かります。

外出需要の増加に伴う自動車保険の支払い増加は今後も継続していきますが、コロナ関連の保険金支払いは減少していきますから今後は一定程度の業績の改善が期待できそうです。

また、最近は欧米を中心に金利上昇が進んでいます。
運用面も業績に影響を与えますので、資産の状況についても見ていきましょう。

まず、損保のポートフォリオを見ていくと国内株式や、国債や社債などの円金利資産や子会社株式などの外貨建て資産が大半を占めています。

利息や配当収入を見てみると、国内株式や外国証券からの配当金収入が大きいですから、利上げの好影響は大きくなさそうです。

ちなみに、政策保有株式の売却は継続して行っていますので、その売却益による好影響はしばらくの間ありそうです。

続いて海外保険事業の資産を見ていくと、こちらは外債を中心にドルの金利資産が、全体141億ドルのうち、99億ドルと大半を占めています。

2022年度時点でも市場金利上昇を受けて、再投資利回りの上昇などで、債券の運用利回りも上昇しています。
ちなみに、金利上昇が進んだ2022年度は市場利回りが5.7%に対して、SOMPOの簿価利回りは3.8%と下回っています。

債権は一定期間の運用を行うものが多いので、市場金利が上昇したからといって既存の債券の簿価利回りが変動するわけではありません。
なので、再投資を行った時などに金利上昇となりますので、市場の水準とは時間差が起きます。
となると金利が高止まりする中で、今後も徐々に簿価利回りが上昇していく事が期待されますので、海外保険事業は運用面からの好調が期待されます。

最後に国内生保事業では3.8兆円の資産の内3.4兆円と大半が円金利資産となっています。
その大半が国債となっています、日本でも金利上昇の兆しは見えてきているとはいえ、国債は長期保有が中心です。

金利リスク削減の取り組みも進めていますので、大きな影響はないでしょう。

そもそも保険事業自体が大きなリスクを取って運用を行う事業ではありません、海外保険に関しては運用も海外市場に合わせる必要がありますから、海外保険事業は金利上昇を受けて運用益の増加が期待されますが、それ以外の事業ではあまり影響はないと考えられます。

という事でSOMPOホールディングスは、国内損保事業と海外保険事業を中心とした企業です。
業績面は一過性要因の影響を受けやすくなっており、2020・2021年度はコロナ禍で保険金支払いが少なくなっていた自動車保険の好影響もあり好調でした。
ですが、2022年度は一過性要因による悪化に加えて、外出需要の回復による自動車保険に支払い増加に加えて、コロナに対する保険金の支払いもあった事で業績は悪化しています。

コロナへの保険金減少が期待される2023年度以降は業績の改善が期待される状況です。

とはいえ、災害の激甚化などもあり、事業環境自体も悪化している状況で収益性の改善を進めていますのでその点も注目です。

また、海外事業は事業の成長に加えて円安や運用面の好調もあり好業績が続いています。今後も運用面からの好影響が期待できる状況だと考えられます。

つまり、業績の改善が見込まれる状況だと考えられますが、災害などの一過性要因に業績が左右されますのでその点も注目です。

直近の業績

それでは続いて直近の業績を見ていきます。
今回見ていくのは2024年3月期の2Qまでの業績です。

経常収益:2兆6596億円(5.3%増)
経常利益:▲880.6億円→1810.6億円
親会社の株主に帰属する中間利益:▲771.4億円→1315.3億円
増収で利益面は黒字転換と好調です。

主要なセグメントの修正連結利益の推移を見てみると以下の通りです。
①国内損保事業:▲95億円→256億円
②海外保険事業:510億円→818億円
③国内生保事業:55億円→201億円

主力事業がそろって好調です。
ではそれぞれの事業についてもう少し詳しく見ていきましょう。

まずは、国内損保事業ですが、コロナ関連の保険金支払いの減少と、前期にあった一過性要因である大口事故の影響が無くなった事、さらに自然災害の減少などで大幅増益となっています。
一過性要因の面で改善が進んだという事ですね。

さらに、収益性の改善を進めようとした火災保険もベース収支の改善220億円の好影響があり取り組みも成果を見せています。

コロナ関連の支払い減少や、火災保険のベースの収支改善など今後も業績の改善が期待できます。

海外では債券利回りの収入増加による、運用面の好調が好影響を与えています。

市場金利の上昇を受けて、債券簿価利回りが4.5%→5.2%へと増加しています。
2023年11月時点では、金利上昇はある程度、落ち着き始めていますが、それでも高水準を維持しています。
先ほど見たように簿価利回りの上昇は、遅れてきますからまだまだ好影響は持続しそうです。

最後に、国内生保事業は想定通りでコロナ関連保険金の支払い減少による好影響224億円を主要因として大幅増益となっています。
今後もこの影響は継続しますから、業績の改善が続く事が期待されます。

今期の好調は、災害や大口事故などの今後はどうなるか分からない一過性要因の減少という影響もありましたが、それに加えて、運用面の好影響やコロナの悪影響の減少、火災保険の収益性の改善の取り組みなど、今後も好影響の継続が期待できる要因があり大幅増益になっていたという事ですね。

そういった事もあり通期予想でも、損保、海外保険、生保とすべてで増益を見込んでいます、大規模自然災害など想定できない一過性要因が起きる可能性はありますが、基本的には業績の改善が期待できそうです。

という事で直近は増収で大幅な黒字転換と好調になっていました。
自然災害のや大口事故などの一過性要因の減少に加えて、コロナの悪影響の減少や、利上げが進んだことによる運用面の好調、火災保険では収益性改善の取り組みが成果を見せるなど、今後も好影響が期待できる要因も業績を後押ししています。

自然災害など想定できない一過性要因の影響を受ける可能性はありますが、今後も業績の改善が進む可能性が高いと考えられます。

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