三菱重工【7011】防衛政策の変化、電力需要増加など市況の変化で好調が期待出来る話

日経平均に採用されている銘柄を全て取り上げているこのnote、今回取り上げるのは三菱重工業株式会社です。

三菱グループの中核企業であり、三菱UFJ銀行、三菱商事と共に、三菱グループ御三家として知られている企業ですね。

事業内容と業績のポイント

それでは早速事業内容から見ていきましょう。

三菱重工の事業セグメントは以下の4つです。
①エナジー:火力発電や原子力発電などの発電分野、航空エンジンなど

②プラント・インフラ:エンジニアリングや製鉄機械、機械システムなど

③物流・冷熱・ドライブシステム:フォークリフトなどの物流機器、エアコンやターボ冷凍機などの冷熱関連、エンジンターボチャージャなど

④航空・防衛・宇宙:防衛用の航空機や、特殊車両、ロケット関連や民間航空機など

発電分野や、防衛、宇宙分野、物流やプラント関連など多様な事業を行っています。

それぞれの事業ごとの売上構成と(事業利益額)は以下の通りです。
①エナジー:38% (1415億円)
②プラント・インフラ:17% (548億円)
③物流・冷熱・ドライブシステム:28% (728億円)
④航空・防衛・宇宙:17% (726億円)

エナジー事業が売上、利益ともに主力事業ですが、各事業とも一定の規模を持つ分散した構成です。
全事業とも比較的重要性が高いという事ですね。

なので、続いてそれぞれの事業についてもう少し詳しく見ていきましょう。

まず、主力のエナジー事業をもう少し詳細に見ていくと以下の通りです。
(内は2023年3月期時点での売り上げ構成比)

①GTCC(42%):ガスタービン・コンバインドサイクル発電プラントという、天然ガスなどの燃料を使用した高効率な火力発電設備
②スチームパワー(25%):ボイラーの蒸気を活用し、蒸気タービンを回す事で発電する火力発電設備。
③航空エンジン(7%):航空機用のエンジン
④原子力(16%):原発関連のサービス
⑤その他・消去(9%)

GTCCやスチームパワーなどの火力発電設備が主力です。

ちなみにGTCCとスチームパワーは共に火力発電ですが、スチームパワーはボイラーを活用して蒸気タービン回す事で発電するシステムで、GTCCは天然ガスを燃料として、ガスタービンで加熱し蒸気タービンを回す事で、ガスタービン、蒸気タービンの両方を活用し発電するより効率的な発電システムとなっています。

CTGCに関しては、発電効率は従来型石炭焚き火力発電方式より20%向上し、CO2排出量も50%削減する事が出来るとしており、環境性能と効率性ともに優れたシステムです。

そしてこの、GTCCでは33%ほどで世界トップのシェアを持っており、環境性能の高い大型機に強みがあります。

シェアが大きいという事はそれだけ、投資できるという事ですから環境性能などの強みが維持できる可能性が高いです。

三菱重工としても注力しているのはより、効率的なGTCCっとなっていますから、GTCCの動向が重要です。

また、原子力も含めると発電関連が計83%を占めます、電力市場の影響を受ける事業だという事ですね。

続いてプラント・インフラ事業をもう少し詳細に見ていくと以下の通りです。
(内は2023年3月期時点での売り上げ構成比)

①エンジニアリング(17%):交通システム、化学プラントなど
②製鉄機械(41%):製鉄設備、鋳造設備、圧縮設備
③機械システム(23%):ITS(高度道路交通システム)、機械装置、食品包装機械、段ボール機械など
④その他・消去(20%)

製鉄機械や機械システムなどの規模が大きいですから、設備投資の需要に影響を受ける事業となっています。

物流・冷熱・ドライブシステム事業をもう少し詳細に見ていくと以下の通りです。
(内は2023年3月期時点での売り上げ構成比)

①物流機器(51%):フォークリフト、港湾荷役機械、物流システムなど
②エンジン・ターボチャージ(22%):産業機械用エンジン、発電セット、コージェネシステム、ターボチャージャ
③冷熱(28%):家庭・業務用エアコン、ターボ冷凍機、輸送冷凍機など

物流機器が売上の約半分を占めていますから、物流投資の影響を受けやすい事業だと分かります。

最後に航空・防衛・宇宙事業をもう少し詳細に見ていくと以下の通りです。
(内は2023年3月期時点での売り上げ構成比)

①防衛・宇宙(77%):防衛航空機や特殊車両、ロケットなど
②民間機(23%):民間航空機

防衛・宇宙が主力となっていますから、防衛予算の影響を受けやすい事業だと分かります。

という事で、三菱重工は主力がエネルギー事業ですから天然ガスを活用した火力発電を中心とする電力市場の影響を受け、さらにプラントへなどの設備投資、物流投資、防衛予算などの影響を受けやすい企業だとわかります。

こういった市場の動向には注目だという事です。

それでは、事業内容がざっくりと分かったところで続いて2018年度~2023年度の近年の業績の推移を見ていきましょう。

2018年度以降の売上の推移を見てみると2020年度までは減少していましたが、2021年度以降は増加傾向となっており2023年度(2024年3月期)には2018年度を上回っています。

さらに、事業利益の推移を見ても2019年度には赤字となるなど苦戦していますが、2020年度から回復傾向が続き2023年度には利益面も2018年度を上回っています。

そして2023年度は、売上・純利益で過去最高を達成しており近年は好調となっている事が分かります。

また、今後の業績の先行指標となる受注面を見ても2023年度は+48%と大幅に増加しており好調ですから、今後も堅調な業績が期待できます。

業績自体も好調で今後も好調が期待出来る状況だという事ですね。ではどうして、2023年度は好調となっているのか見ていきましょう。

2023年度の営業利益の変動要因を見てみると為替の影響+210億円や、前期の一時費用200億円の反動といった影響もありますが、最大の要因は売上増加と利益率改善の影響+800億円で、それに加えて価格適正化+350億円となっています。

原燃料高は進んでいますが、価格適正化の取り組みが進みつつも、販売面も好調と事業自体が好調な状況だったことが分かります。

セグメント別の事業利益の前期比を見てみると以下の通りです。
①エナジー:+564億円
②プラント・インフラ:+220億円
③物流・冷熱・ドライブシステム:+338億円
④航空・防衛・宇宙:+327億円
全事業とも増益で好調となっています。

さらに、今後の業績にも関連する受注高をセグメント別の前期比で見てみると以下の通りです。
①エナジー:+6362億円
②プラント・インフラ:+219億円
③物流・冷熱・ドライブシステム:+1036億円
④航空・防衛・宇宙:+1兆3650億円
受注面も全セグメントで増加しており好調ですが、特にエナジーと航空・防衛・宇宙が大きな増加を見せています。

エナジーや航空・防衛・宇宙は事業自体も好調で、受注面も大幅増加と今後も好調が期待される状況にいるという事です。

こういった状況になっているのは事業環境が影響しています。

エナジー事業は電力関連ですから、グリーン化が進む中で火力発電を中心とする三菱重工の事業は市況の低迷も考えられますが、実はそうではありません。

そもそも天然ガスを活用した火力発電が無くなるという事は無く、日本の2030年のエネルギー計画でも、2割ほどがLNG(液化天然ガス)を活用した火力発電となる計画です。

天然ガスを利用した発電は石炭を活用した発電に比べて、環境性能がいいという事もあり重要度は高いです。
なので現状も環境性能の高い火力発電設備が求められているという状況です。

とはいえ、グリーン化は進む中でその比率が減っていく事は想定されています。
それでも市況は悪い状況ではありません。
というのも電力需要自体の拡大が見込まれているからです。

新興国では経済成長共に電力需要は拡大していきますし、さらに先進国でも近年の生成系AIなどの発展で急速にデータセンターなどの需要が増し、電力需要の拡大が見込まれています。

それこそ日本でも2007年以降は省エネ化によって電力需要は長期的に減少が続いていました。
ですが、半導体工場の新設やデータセンターの建設が相次ぐ中で、この2024年度から改めて電力需要が増加する事が見込まれています。
先進国でも、市況の転換点を迎えているという事ですね。

さらに、オンサイト電源(データセンターや半導体工場内での発電設備の設置)の需要拡大も見込まれており、市場の変化の中で新たな事業機会も生まれています。

そういった中で、三菱重工としても2030年までは市場規模は一定規模で推移する事を見込んでいます。
市況の悪化が見込まれているわけではない、という事です。

そのような状況の中でGTCC事業は2023年度では、新設の大型ガスタービンを17台受注し受注高は過去最高で、新設・サービス共に北米及び日本を含むアジアを中心に増加しているとしています。

市況を考えても今後も堅調な状況が期待されます。

さらに、エネルギー事業では原発事業も一定の規模を持っていました。
ご存じの通りで日本国内では、原発の再稼働に向けた動きがありますからこちらも市況の良化が期待されます。

そんな中で、実際に再稼働関連の事業を中心に事業規模が拡大基調にあるとしており、今後も堅調な状況が期待されます。

火力発電と原子力という、一時期は低迷が懸念される事業だったものの、現在の市況は悪い状況ではなく、受注高増加する中で、エネルギー事業は今後も堅調な業績が期待されます。

さらに航空・防衛・宇宙事業も好調でしたがそれには防衛予算の増額など、国の方針の転換が影響しています。

これもご存じと思いますが、日本は地政学リスクが高まる中で防衛予算の増額を決めており、これまではGDP比で1%程度だった防衛予算を2027年度までに段階的に2%まで増加させていく事を決めています。

そういった中でこれまでは年間5000億額弱で推移していた事業規模が、2024年度以降は1兆円規模になっていく事を想定しています。

実際に2023年度時点では受注高が+237%と大きな拡大を見せており、今後の事業規模が拡大が期待される状況です。

さらに、好影響が期待できるのは事業規模の拡大だけではありません。
防衛産業政策の変化によって、従来の利益率の目安は7.7%でしたが、それを品質や納期短縮などの取り組みを評価する仕組みによって最大15%となる変化がありました。

取り組み次第では利益率に関しても大幅上昇が期待できるようになったという事です。

事業規模の拡大と利益率の上昇が共に期待されますから、今後の大きな成長が期待されます。

市況を考えてもエネルギー事業や航空・防衛・宇宙事業は拡大が期待できるという事ですね。

そういった中で、三菱重工も重点領域としてGTCC、原子力、防衛をあげています。
これらの事業がしっかり成長していくかに注目です。

また、データセンターが増加する中でオンサイト電源需要が見込まれるという事に触れましたが、さらにその冷却システムまで提供する事での拡大も目指しています。

データセンターは利用される電力の3割が冷やすという点に使われていますが、それを効率的に冷却するシステムを提供していこうとしています。

実際にKDDIとの共同で行った小型データセンターの実証実験では、サーバー冷却の90%、データセンター全体の消費電力の43%を削減する事に成功したとしています。

今後圧倒的にデータ量が増える中で、データセンターは確実に伸びる市場の1つですから、こういった取り組みにも注目です。

直近の業績

それでは続いて直近の業績を見ていきましょう。
今回見ていくのは2025年3月期の1Qまでの業績です。

売上高:1兆1116億円(+13.0%)
事業利益:835億円(+60.7%)
純利益:623億円(+17.1%)
増収増益となっています。

さらに受注面も+15%と拡大しており、好調な状況が続いている事が分かります。

事業利益の変動要因を見てみると、人件費上昇やインフレの影響▲64億円はありつつも、売上や利益率の改善による影響が+310億円でさらに為替の影響+100億円もあり大幅増益となっています。

円安が進む中で、為替の影響もありましたが事業自体の好調が続いている事が分かります。

もう少し詳しくセグメント別の事業利益の前期比を見ていくと以下の通りです。

①エナジー:+235億円
②プラント・インフラ:+36億円
③物流・冷熱・ドライブシステム:▲27億円
④航空・防衛・宇宙:+143億円

好調が期待されていたエナジー事業と航空・防衛・宇宙事業がやはり堅調な状況で、好業績に繋がっています。

それぞれの事業の状況をもう少し詳しく見ていきましょう。

エナジー事業はGTCC事業と原子力事業が好調で、航空エンジンも伸びており堅調な状況です。

プラント・インフラ事業では堅調な状況ですが、インフレなどで景気が低迷傾向となる中で設備投資が減少し製鉄機械などは受注面で苦戦するなど一定の苦戦が見られています。

今後は一定の停滞となる可能性はありそうです。

唯一減益となっていた、物流・冷熱・ドライブシステムでは円安の影響はあり増収となったものの販売台数の減少によって減益となったとしています。
この事業でも景気低迷による投資減少の影響を受けていると考えられます。

2024年8月からは為替面も円高方向に推移していますから、この円高傾向が続けば、さらに苦戦する可能性がありそうです。

航空・防衛・宇宙事業では、順調な工事の進捗や採算改善によって増収増益となっています。
国の方針自体に変化がありましたから、今後も好調が続く事が期待されます。

エナジー事業や航空・防衛・宇宙事業など、好調な市況が見込まれる事業は好調ですが、一定の苦戦が見られる事業も出てきています。

そういった中で通期予想を見てみると、増収増益を見込んでいます。

セグメント別の事業利益の前期比の見通しは以下の通りです。
①エナジー:+201億円
②プラント・インフラ:▲147億円
③物流・冷熱・ドライブシステム:+71億円
④航空・防衛・宇宙:+73億円

プラントインフラ事業は減益を見込んでおり、景気低迷などによる設備投資の減少など一定の苦戦傾向となる事業も出てくる見通しですが、エナジー事業と航空・防衛・宇宙事業を中心に好調が期待されますので、それらの事業の成長で補える見通しです。

市況の変化を考えても、三菱重工全体としては堅調な状況が続く事が期待できそうです。

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