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【令和版】魔女の寄り道(5)

前回の話はこちら。


「あなた今、何かとんでもないトラブルを抱えているでしょう?」


ショッピングモールの片隅で、占い師の女性は問いかけた。

「別に何もトラブルなんて抱えてないわよ」と、沼森ぬまもり 美智子みちこは少し退屈そうに答えた。

多くの人は大なり小なりトラブルを抱えているものだ。
誰にでも当てはまりそうなことを言って『当たってる』と思わせる心理効果を『バーナム効果』という。

「だったらこれから近いうちに、大きなトラブルが起こります」
占い師の女性ははっきりと答えた。

美智子は占いの知識があり、自分で自分を占うことも可能だった。
しかし、人に占ってもらわなければ分からないこともあると、
美智子は考えていた。

「じゃあこれから何か大きなトラブルに遭うとして、
私は何を準備しておけばいいのかしら?それが知りたいわ」

「他者の力を借りることです。人は一人で生きていくことはできません。
 普段から信頼関係を築いておくことが重要です。
 まずは自分から人助けをしましょう。そうすればあなたが困った時に、
 必ず他者は手を差し伸べてくれます」

「ふぅん、分かったわ。心に留めておくことにするわ、ありがとう」

美智子はショッピングモールを歩くのが好きだった。
ショッピングモールがウォーキングに向いている点はいくつかある。

  • 悪天候でも歩ける

  • 真夏でもクーラーが効いているので、熱中症の危険性が少ない

  • 階段を使うことで足腰を鍛えられる

  • お腹が空いたらフードコートで食事ができる(水分補給もできる)

デメリットとして、混雑している時は歩きにくいことが挙げられる。

魔女だって運動は大事である。
しかしどうにも筋トレとか、ランニングは継続できなかった。
結局、気楽にウォーキングをするのが一番長続きした。

季節は11月も終わりに差し掛かろうとしていた。
ショッピングモール内は緑や赤の安っぽい飾り付けで彩られていた。
何の真新しさも感じないクリスマスのBGMが流れている。
中央の吹き抜けに巨大なツリーが設置され、小さなサンタクロースの人形が吊るされていた。

「魔女は現代も生き残っているの?」

このような質問をされたとき、美智子はサンタクロースの例を出すことにしている。
昔のように、トナカイに乗って空を飛び、煙突から家に入ってプレゼントを配るサンタは確かにいなくなった。
しかし、現代のサンタは分業制になっただけなのだ。

工場でプレゼントを作るサンタ、お店にプレゼントを運ぶサンタ、プレゼントを購入し、あなたのベッドにそっと置くサンタ。
大人たちがそれぞれサンタの役割を分担するようになったのだ。

魔女も同じだ。
科学は魔法だ。令和の時代、誰もが家電やスマホを使いこなしているが、これを魔法と呼ばずしてなんと呼ぼうか。

我々は皆、魔女なのだ。

美智子はショッピングモールを出て、帰り道の途中にある図書館に寄った。

図書館の一角に『魔女』というタイトルの本がある
その本の16ページ目を開くと、扉の絵が描かれていた。

扉の絵は、とびだす絵本のように、
ページを動かすとドアが開く仕組みになっていた。

扉の中がほのかに光っている。

美智子は扉の絵に触れて、何か呪文のような言葉をささやいた。
次の瞬間、美智子は扉の中に吸い込まれた。

扉の絵は、古い日本家屋の玄関に繋がっていた。

「お邪魔するわ」

美智子は靴を脱ぎ、家に上がった。
左手の襖を開けると、老婆が一人、こたつに入りながらテレビを見ていた。
こたつ布団の端で猫が丸くなって寝ている。

部屋の中は小綺麗に片づけられいた。
透明のショーケースの中に西洋人形が飾られている。

「お邪魔するわ。ちょっと聞きたいことがあるの」

老婆はテレビから目を離して美智子を見た。
「あんたが来るときは、いつもトラブルを抱えた時だ。何の用だい」

「能力が暴走して制御できなくなった透明人間がいたの。
 パワーストーンやお守りを身に付ければいいんじゃないって
 アドバイスしたんだけど、他に何か解決方法はあるかしら」

「人間に関心のないあんたが、人様の悩みを解決してやろうなんて
 珍しいじゃないか。今夜は大雪が降るねぇ」

「別に解決してあげようなんて思ってないわ。ただ気になっただけよ」

「透明化する要因は、魔法とか体質とか色々あるさ。
 何にしても、能力が暴走するのは心が不安定な時だねぇ。
 不安に思えば思うほど、余計に暴走が止まらなくなるっていう悪循環さ」

「なるほどねぇ……分かったわ、ありがとう。邪魔して悪かったわね」

「なんだい、もう行くのかい?せわしないねぇ」

美智子は老婆の家を後にした。


続きはこちら。

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