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【令和版】魔女の寄り道(2)

前回の話はこちら。


「透明人間がいるわね……」


銭湯の脱衣所に、透明人間がいた。
よく見なければ気づかないが、空間の歪みが生じている。

可能性は2つ。

①男の透明人間が、覗きの犯罪をしているケース
②透明化の能力が制御できず、暴走状態になっているケース

確かめる方法は簡単だ。
直接話しかけてみればいい。

沼森ぬまもり 美智子みちこは透明人間の近くに寄って、小声で警告した。

「隠れても無駄よ、透明人間さん。女性なら返事をしなさい。
 返事がなければ男性と判断し、通報します」

「あっごめんなさい……。時間が経てば自然に戻るので、
 透明化が解けたら出ていきます。本当にごめんなさい」

女性の声がする。
どうやら能力が暴走してしまっているようだ。

「了解したわ。こちらこそ疑ってごめんなさい」

害はなさそうなので放っておくことにした。

透明化の魔法を使える魔女も存在するが、ごく一部に限られる。
美智子は透明化の魔法を使えない。

体を洗いながら透明化について考えた。
透明化の魔法には2パターンある。

①服は透明にならない
②服や身につけている物も透明になる

①服が透明にならない場合、かなり使い勝手の悪い魔法となる。
全裸で行動するなら、靴も履けない。外を歩くだけでも大変だ。

最も警戒すべきは交通事故だ。
透明人間がいても、車は止まったり避けたりしてくれない。
透明状態で車に轢かれてしまったら誰にも助けてもらえない。

全裸でも魔法は使えるが、箒に乗ったり、杖や魔術書などの魔具を
使用する場合は透明化の意味があまりないだろう。

②服や持ち物も透明化できる場合、一見かなり便利そうだ。
しかし思いつく活用方法は犯罪行為ばかりだ。

犯罪以外で透明化を活かす方法はないだろうか?
魔法を活かした職業といえば、マジシャンやYouTuberが思い浮かぶ。
探偵も透明化スキルを持っていたら役に立つだろう。
探偵の仕事というのは、大半が浮気調査らしい。

言うまでもなく戦闘では大いに役に立つ。
不意打ち、暗殺、攻撃の回避。
バトル漫画で透明化の能力はお約束だ。

透明化した魔女が空を飛びながら、
魔法による遠距離攻撃をしてきたら、さすがに強すぎる。

そこまで考えて、やっぱり透明能力は要らないなと思った。
令和の時代に魔法で戦闘することなんてないし、犯罪に手を染める
つもりもない。
美智子は静かに暮らしたいだけなのだ。

湯船につかりながら考え事をしていると、後ろから話しかけられた。

「あのう」

声のした方を振り向いたが、誰もいない。
おそらく先ほど脱衣所にいた透明人間の声だろう。

「なにかしら?」

「先ほどは失礼しました。
 私が透明人間であることを瞬時に見抜いたあなたに、
 この現象についてお尋ねしたいのですが、よろしいですか?」

「のぼせちゃうから手短にね」

「実は今回みたいに突然、透明化してしまうことがあり、
 何がきっかけで透明化するか原因が分からないのです。
 誰に相談して良いのかも分からず、困っていて」

確かに病院で診てもらったところで、医者を困らせるだけだろう。

「悪いけど私は透明化のことは詳しく知らないの」

「そうですか……」

「ただ、あなたの透明化が魔法由来であれば、
 魔力を封じる道具で効果を抑えられるかもしれないわ。
 代表的なのはパワーストーンね、ラピスラズリとか。
 あとは神社でお守りを貰って身につけるとか。
 いくつか試してみて、様子をみてはいかが?」

「なるほど、分かりました、ありがとうございます!」

同じ湯船につかっていた、銭湯のヌシと思わしき年配の女性が、
美智子のことを怪訝そうにじろじろ見ていた。

湯船を出て脱衣所に上がると、透明人間の姿は視えなかった。
居ても居なくてもどのみち視えないので当然ではあるが。


続きはこちら。

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