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【令和版】魔女の寄り道(7)
前回の話はこちら。
「多分これ、悪霊の仕業だと思いますよ」
巫女の神矢 由衣は、悪霊を視ることができる。
周囲が真夜中のように真っ暗になってしまった怪奇現象の原因は、
悪霊の仕業であると考えていた。
「悪霊がいるなんて信じられないのだけれど」
魔女の沼森 美智子は悪霊の存在を疑っていた。
しかし、他に思い当たる節もなく、美智子は悪霊の存在を受け入れるしかなさそうだった。
「もしかして私が透明人間になったのも、悪霊が原因なのかな」
透明人間の白風 明里は不安げに呟いた。
「えっ透明人間?」
由衣は訝しんだ。
「はい、私、透明になってしまうのをコントロールできない体質なんです。
透明化を制御する方法を探していて、それで今日お守りを頂いたんです」
「透明人間がいるなんて信じられない……。あっでも魔女がいるんだから
透明人間がいてもおかしくないか」
「えっ魔女??」
明里は耳を疑った。
「ほらほらアンタたち、無駄話してると置いて行くわよ」
美智子は早くこんな所から脱出して帰りたかった。
*
「沼森さん、良いものを見つけました」
由衣は右手の方向を指さした。
「出口を見つけたの?」
「いいえ、公園の水道があります。
手を洗っていきましょう。悪霊はきれいな水を嫌います。
心身を清めることで悪霊に取り憑かれにくくなるんです」
初冬の水道水は冷たかったが、3人は丁寧に手を洗い、
ついでに美智子の水筒に水を汲んだ。
「悪霊を見つけたら、水筒の水をぶっかけてやればいいわ」
「あはは、意外と効果あるかもしれませんね」
「……それにしても静かすぎるわね。公園には私たち以外には
誰もいないのかしら?」
「もしかすると、私達だけが公園に閉じ込められたのかもしれません」
しばらく道沿いに歩き、砂場がある場所に着いたところで、由衣は前方を指さした。
「見つけました、悪霊です。すべり台の下にじっとうずくまっています。
誰かに取り憑いているわけではなく、悪霊単体のようです」
美智子と明里はすべり台を見たが、悪霊らしきものは何も見えなかった。
しかしそこに悪霊がいると言われると、未知のものに対する恐怖を感じずにはいられない。
「そこにいる悪霊が、私たちに取り憑く可能性はないわけ?」
「可能性は低いと思います。
私は巫女ですし、白風さんはお守りを携帯しています。
沼森さんは強力な魔力で覆われているので、
よほど強力な悪霊でない限り取り憑かれる心配はないかと」
美智子は足音を立てないよう、そろりそろりとすべり台に近づき、
すべり台の下の地面付近に水筒の水を振りまいた。
パシャ。
水をかけた地面が濡れて色が濃くなった。美智子は心臓の鼓動が早まるのを感じた。すばやくすべり台を離れ、2人のいる場所に戻る。
「悪霊はどうなったの?」
「もぞもぞ動いてます……あっなんか怒ってるかも。
あああ、こっちに近づいてきます!」
悪霊を怒らせてしまったようだ。
「沼森さん、逃げましょう!」
「落ち着きなさい。悪霊は今どのあたりにいるの?」
「目の前です!沼森さんの目の前にいます」
美智子は目の前に手をかざし、次の瞬間――
爆発魔法を発動した。
パァンッ!
爆竹を鳴らしたような発破音が轟き、周囲が一瞬眩しく照らされた。
「すごい……。悪霊が消えました」
「倒せたってこと?」
「いいえ、びっくりして逃げただけです。
でも公園の様子が元に戻る様子がありません。
今の悪霊は大して強力なものではなかったので、
親玉が別にいるのかもかもしれません」
*
「あのう、沼森さん……」
「何かしら、白風さん?」
「私は悪霊を視ることも、退治することもできないただの透明人間です。
ただ、悪霊に効きそうなお守りなどを持っています。
悪霊の退治に役に立つかもしれないので、よかったらお持ちください」
明里はブレスレットや数珠、お守りなどを差し出した。
「それらは白風さんの身を守るものでもあるわ。
気持ちだけ受け取っておくわね、ありがとう」
続きはこちら。