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【令和版】魔女の寄り道(7)

前回の話はこちら。


「多分これ、悪霊の仕業だと思いますよ」


巫女の神矢かみや 由衣ゆいは、悪霊を視ることができる。
周囲が真夜中のように真っ暗になってしまった怪奇現象の原因は、
悪霊の仕業であると考えていた。

「悪霊がいるなんて信じられないのだけれど」
魔女の沼森ぬまもり 美智子みちこは悪霊の存在を疑っていた。
しかし、他に思い当たる節もなく、美智子は悪霊の存在を受け入れるしかなさそうだった。

「もしかして私が透明人間になったのも、悪霊が原因なのかな」
透明人間の白風しろかぜ 明里あかりは不安げに呟いた。

「えっ透明人間?」
由衣は訝しんだ。

「はい、私、透明になってしまうのをコントロールできない体質なんです。
 透明化を制御する方法を探していて、それで今日お守りを頂いたんです」

「透明人間がいるなんて信じられない……。あっでも魔女がいるんだから
 透明人間がいてもおかしくないか」

「えっ魔女??」
明里は耳を疑った。

「ほらほらアンタたち、無駄話してると置いて行くわよ」
美智子は早くこんな所から脱出して帰りたかった。

「沼森さん、良いものを見つけました」
由衣は右手の方向を指さした。

「出口を見つけたの?」

「いいえ、公園の水道があります。
 手を洗っていきましょう。悪霊はきれいな水を嫌います。
 心身を清めることで悪霊に取り憑かれにくくなるんです」

初冬の水道水は冷たかったが、3人は丁寧に手を洗い、
ついでに美智子の水筒に水を汲んだ。

「悪霊を見つけたら、水筒の水をぶっかけてやればいいわ」

「あはは、意外と効果あるかもしれませんね」

「……それにしても静かすぎるわね。公園には私たち以外には
 誰もいないのかしら?」

「もしかすると、私達だけが公園に閉じ込められたのかもしれません」

しばらく道沿いに歩き、砂場がある場所に着いたところで、由衣は前方を指さした。
「見つけました、悪霊です。すべり台の下にじっとうずくまっています。
 誰かに取り憑いているわけではなく、悪霊単体のようです」

美智子と明里はすべり台を見たが、悪霊らしきものは何も見えなかった。
しかしそこに悪霊がいると言われると、未知のものに対する恐怖を感じずにはいられない。

「そこにいる悪霊が、私たちに取り憑く可能性はないわけ?」

「可能性は低いと思います。
 私は巫女ですし、白風さんはお守りを携帯しています。
 沼森さんは強力な魔力で覆われているので、
 よほど強力な悪霊でない限り取り憑かれる心配はないかと」

美智子は足音を立てないよう、そろりそろりとすべり台に近づき、
すべり台の下の地面付近に水筒の水を振りまいた。

パシャ。

水をかけた地面が濡れて色が濃くなった。美智子は心臓の鼓動が早まるのを感じた。すばやくすべり台を離れ、2人のいる場所に戻る。

「悪霊はどうなったの?」

「もぞもぞ動いてます……あっなんか怒ってるかも。
 あああ、こっちに近づいてきます!」

悪霊を怒らせてしまったようだ。

「沼森さん、逃げましょう!」

「落ち着きなさい。悪霊は今どのあたりにいるの?」

「目の前です!沼森さんの目の前にいます」

美智子は目の前に手をかざし、次の瞬間――
爆発魔法を発動した。

パァンッ!

爆竹を鳴らしたような発破音が轟き、周囲が一瞬眩しく照らされた。

「すごい……。悪霊が消えました」

「倒せたってこと?」

「いいえ、びっくりして逃げただけです。
 でも公園の様子が元に戻る様子がありません。
 今の悪霊は大して強力なものではなかったので、
 親玉が別にいるのかもかもしれません」

「あのう、沼森さん……」

「何かしら、白風さん?」

「私は悪霊を視ることも、退治することもできないただの透明人間です。
 ただ、悪霊に効きそうなお守りなどを持っています。
 悪霊の退治に役に立つかもしれないので、よかったらお持ちください」

明里はブレスレットや数珠、お守りなどを差し出した。

「それらは白風さんの身を守るものでもあるわ。
 気持ちだけ受け取っておくわね、ありがとう」


続きはこちら。

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